苦渋の決断
「どうしてママがここにニ!?」
「…私は反対したのよ」
「今回の事にね」
「それで…」
「…セント」
「ま、ママ…」
パシンッッ
「っ…」
「どうして来たの!?」
「だ、だっテ…!」
「どうして…!貴女も…!宗殿も…!!」
「もう…」
「…そこまでよ、グラン」
「今は言い争ってる状況じゃないわ」
「…ッ」
「どういう事?」
「どうしてアメリカ支部は裏切ったの」
「…予てからの計画だったそうよ」
「私は直前になって知らされたわ」
「だけど、私は断った」
「それで…」
「…なるほどね」
「計画については?」
「何も…」
「…だけど、1つだけね」
「何?」
「衛星砲、と」
「衛星砲?」
「名前だけよ」
「それ以上は何も…」
「衛星砲…?」
(…何処かで)
「こ、これからどうしますか?」
「捕まったままじゃ…」
「…そうですね」
「私のノートパソコンも取り上げられましたし、外との連絡は取れません」
「携帯も…」
「織鶴さんの能力は?」
「ここからでは、また先刻の二の舞ですよ」
「それに…、無駄な戦闘はしない方が良いでしょう」
「…衛星砲?」
「ロンドン…、ロダの部屋で…?」
「織鶴さん、どうしますか?」
「…えぇ、そうね」
今はそんな事を考えるよりも脱出が先…、か
「窓、ある?」
「あ、有りますけど…」
「コレ、放って」
織鶴はピアスを外し、森草へと手渡す
「こ、コレは…?」
「放れば解るわよ」
「脱出できるの?」
「えぇ、出来るわ」
「…?」
首を傾げる森草
渋々、そのピアスを窓から外へと放り投げる
カランッ
「…」
「…」
「…」
「えっと…」
「何も…、ないですね」
「織鶴さん、今の内に」
「えぇ、そうね」
「皆…、端に寄りなさい」
「端?」
「よ、寄りましたけど」
ゴォオオオオオオオオオオオオォオオオンッ!!!!!
「なぁ!?」
壁を突き破り、突進してくるトラック
瓦礫は吹き飛び周囲に散らばる
「遅いわよ、火星」
「悪い悪い」
「途中で割と手間取ってな」
織鶴はトラックへと乗り込み、他の皆にも乗り込む様に指示する
「な、何で火星さんが…」
「そのピアス、私が外すと火星が来る様に細工してるのよ」
「彩愛の試作品だけどね」
「電波妨害されると使えないので、あまり実用的ではありませんが」
「それはそうと、早く乗りなさい」
「逃げるわよ」
「は、はい…」
支部長室
「逃げた!?」
「は、はい」
「トラックで壁を突き破って…」
「くっ…!」
「見事に予想が外れたな」
「カムル…」
「牢獄外で待機してた部隊は下がらせて良いんだろう?」
白い短髪
青い目の男
煙草を吹かし、気怠そうに椅子に座っている
「…えぇ、良いわよ」
「チッ…、秋鋼の連中が厄介ね」
「No,4と茶柱はどうするんだ」
「まだ五大湖の遺跡に閉じ込めてるんでしょう?」
「外で部隊が待機してるが、時間の問題だろうな」
「…早急に手を打つべきね」
「甘いんだよ、お前は」
「…どうして?」
「殺すならば殺せば良い」
「結局、昔の友情を捨てられてねぇ」
「撫でてるだけなんだよ」
「叩いちゃいねぇ」
「何が解るのよ!?」
「関係もない友を巻き込んで…!!」
「甘いんだよ!それがッッ!!」
部屋全体が揺れるほどの衝撃で叫ぶカムル
ステラは肩をびくりと振るわせる
「五眼衆はどうなった!?」
「人に被害を広げまいとして人員を割き!結果的に戦力を低下させた!!」
「No,2は!?」
「人を遠ざけて能力を使用し!死を早めた!!」
「甘いんだよ!何もかも!!」
「試験時に!侵入者は全ての被害を被ることを恐れなかった!!!」
「結果として!軍に多大な被害を与えたッッ!!」
「甘えを捨てろ!!」
「然もなくば前人の二の舞だ!!」
「違うかッッッ!?」
「…ッ」
「貴様が甘えを捨てんのならば、俺は計画から外れる」
「全ての計画を無に帰してやろう」
「…させると思う?」
カムルに向けられる銃口
しかし、彼は一切の動揺を見せない
冷淡な瞳でステラを睨み、依然としてどうするのか問う
「…」
「決めろ」
「奴が来ているんだぞ」
「お前の!クローンが!!」
苦渋
今を優先するか
友を優先するか
己を優先するか
正しく
苦渋の決断
唇を噛み締め、ステラは眉をしかめる
悔しそうに目を瞑り、拳を握りしめる
「…解ったわ」
「シドウン、リグに連絡して」
「秋鋼の…、織鶴 千刃」
「火星 太陽、彩愛 真無」
「そしてNo,3直属部下の森草 蜜柑」
「…グランとセントちゃんを抹殺せよ」
「軍本部からの連絡を絶ち、交通網を封鎖」
「…開始せよ」
「それで良い」
「…了解した」
日本
某所
「…何だ、コレは」
「あぁ、夜斬か」
「情報収集ご苦労」
「それは良い、祭峰」
「何事だと聞いている」
荒れた室内
まるで、何か戦闘があったかのように酷く散らかりきっている
「奴が暴れたんだよ」
「…あぁ、アイツか」
「手懐けたんじゃないのか」
「まさか…、手懐くハズがないだろう」
「ったく!仕事して貰わなきゃなんねぇのに」
「…そうだな、ご苦労な事だ」
「城ヶ根はどうした」
「まだ情報収集をしている」
「俺も今、終わった所だ」
「情報収集にしては随分と疲れているな」
「…掛かっているんだよ」
「圧力が」
「…情報収集も楽じゃないな」
「当然だろう」
「命がけなのだからな」