パーティーへの誘い
万屋
カランカラーン
「戻りました-」
「お帰りなさい、波斗」
「引っ越しは終わったの?」
「引っ越しは終わったんですけど、火星さんが大家さんと酒会合してたんで」
「勝手に帰ってきました」
「…まぁ、放っておきなさい」
「オッサンの酒会合は長いと決まっていますからね」
「はぁ~…」
「…あれ?鉄珠さんは?」
「アイツも何処かに行ったのよ」
「ったく!仕事入ってんのに」
「し、仕事ですか…」
「…えぇ」
「試験後で疲れてんのは解るけどね」
「こっちも稼がなきゃなんないし」
「はい…」
「どんな仕事なんですか?」
「それがねぇ…」
「パーティーなのよ」
「パーティー?」
「軍関係じゃないわよ?」
「大分前に仕事を請け負った人からね」
「野外で焼き肉とか?」
「…そんな規模じゃないわよ」
「えっ」
「舞踏会って解るかしら」
「アレなのよね…」
「え、えぇ~…」
「しかも能力者が関わる可能性もあるのよ」
「つまり…」
「護衛任務、ですか」
「そういう事」
「相手は名も無い能力者だそうですが…」
「問題点はそこではないのです」
「何ですか?」
「相手が必要なのですよ」
「相手…?」
「舞踏会に出るのは織鶴さんです」
「私じゃマナーは知ってても体力が持ちませんから」
「どんだけ体力無いんですか…」
「50mを全力で走ったら死にます」
「そんなに!?」
「…ともかく、相手が居るの」
「パートナーですか」
「俺じゃ体が釣り合いませんよね」
「そうね」
「マナーは急仕込みでもどうにかなるでしょうけど…」
「身長が釣り合う必要性があるわ」
「絵的に身長差はいただけませんからね」
「となると、鉄珠さんは…、居ないし」
「火星さん?」
ガタンッッ!!
「えっ」
「…ちょっと、椅子のバランスがね」
「あ、あぁ、そうですか」
「火星さんなら大丈夫ですよね?」
「ひ、火星は別の身辺警護に当たらせたいのよね」
「他!他は…」
「ユグドラシルの雨雲!」
「復興作業中だそうです」
「鎖基さんは論外ですよ」
「ぜ、ゼロ!」
「任務です」
「しかもセントさんに怒られますよ」
「馬常…!」
「同じく任務です」
「果たして、あの人が踊るのだろうか…」
「ぐ…!う…!!」
「奇怪神!」
「もう帰ったそうですよ」
「狼亞ちゃんを連れて」
「挨拶しとけば良かったな~」
「他は…!!」
「もう諦めてくださいよ、織鶴さん」
「火星さんが相手だと照れるのは解りますけど」
「あ゛?」
「スイマセンナンデモナイデス」
「でも、事実相手は火星しか居ませんよ?」
「仕事をこんな理由で破棄するワケにはいきませんし」
「ぐっ…!」
「でも!アイツは舞踏会に似合う衣装なんて…!!」
「スーツぐらい買ってあげれば良いじゃないですか」
「いつもブランド物のバック買い漁ってるし」
「ぐぅ…!」
「きゅ、急仕込みじゃぁーねぇー!!」
「え?先刻は良いって」
「やっぱり駄目よ!」
「そんな無茶苦茶な」
ガチャッ
カランカラーン
「ただいま」
「お帰りなさい、火星さん」
「いやー、良い人だね!査阿さん」
「またお酒ご馳走になっちゃった」
「どんだけ仲良くなったんですか…」
「おっと!それよりダンス踊れますか」
「ダンス?」
「社交ダンスですよ」
「今回の依頼に必要なんです」
「無理に決まってるわよ!」
「何で火星がそんなのを…」
「あぁ、知ってるぞ」
「踊れるけど」
「なぁ!?」
「おいおい、前に仕事で金持ちオッサンの依頼があったろ?」
「あの時に練習したんだ」
「ま、発揮する機会は無かったけどな」
「今回はその人物からの依頼です」
「護衛兼パーティー参加に」
「へぇ、そうなのか」
「良いじゃないか!織鶴」
「一緒に踊っ」
ゴゥンッッッッ!
「ちょ、ちょっと外出してくるわよ!!」
「ひ、火星さぁあああああああああああああんっっ!!!」
「…火星さんが不憫すぎる」
「何で織鶴さんは火星さんに、こんなに…」
「…いや、待てよ?」
「まさか…」
「織鶴さんは火星さんの事が…」
「まさかももしかしても無くそうですよ」
「えぇ~…」
「何かと言って、今まで織鶴さんを支えてきたのは火星ですからね」
「あの人もそれは解ってますよ」
「確かに火星さんって主夫レベル高いですよね」
「家事全般出来るし優しいし外見は…、そこそこだし」
「織鶴さんも元No,4だとか戦場の破壊神だとか呼ばれる前に1人の女性ですからね」
「そりゃ、恋愛もするでしょう」
「へぇ~、良いですねぇ」
「恋する乙女は丸く…」
「…ならねぇな」
「解ってるなら言わないでください」
「あの人が笑顔で照れたり火星にデレたりする所が想像できますか?」
「無理です」
「そうでしょう」
「ま、悪い事ではないのですが…」
「今回で進展する事もないでしょうね」
「そうですかね?」
「今まで何年間、あの状態を見てきたと思っているんですか?」
「あー…、そうでしたね」
「そう言えば、ここってどんな順番で入って来たんですか?」
「最初は鉄珠だそうですね」
「そして次に火星」
「そして私です」
「一番目って鉄珠さんだったんですか?」
「えぇ、はい」
「アレは過去も何も明かしませんからね」
「織鶴さんしか知らないみたいです」
「どーせ女貪り食ってたんでしょう」
「まぁ、強ち外れていないでしょうね」
「火星については知ってますね?」
「…えぇ、まぁ」
「私に関しては…、話す必要も無いでしょう」
「技術を買われて入っただけですから」
「俺は半拉致でしたからね…」
「感謝すべきですよ」
「あの時、織鶴さんが貴方を誘わなければ即抹殺の対象でしたから」
「そ、それもそうか…」
「そう言えば、あの時に電柱を折ったのって…」
「織鶴さんがやった意外に考えられますか?」
「…納得しました」
「ぐ…」
「起きましたか、火星」
「とっとと準備してください」
「明明後日の夜ですよ、パーティーは」
「あー、頭痛い」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ、蒼空君」
「ほら!いつもの事だしさ!」
「…火星さん」
「何だい?」
「お茶でもどうですか…」
「クソ火星」
「茶菓子を用意してあげます」
「え?何で?」
((不憫だからですよ…))
読んでいただきありがとうございました