女の目的
精神島
山頂
「ねぇねぇ~」
「いい加減、機嫌治してくんないかなぁ」
「…」
依然として、無言のままの波斗
夢の女と思われる彼女は波斗の周りをぐるぐると回り続けている
「ねぇーってばぁ!!」
「うるさい!!!」
「ひっ!」
「何なんだよ!お前!!!」
「お前は!お前は!!」
「…ッぁ!!」
「落ち着きなよ」
「過呼吸になってんじゃん」
女は波斗の背中をどんどんと叩く
ゲホゲホと息を吐き出し、波斗は咽せ込む
「…お前は隻眼なのか」
「あ、落ち着いたね」
「先刻も言ったけどさ」
「半分正解半分間違い」
「…どういう意味だよ」
「ひみつ~♥」
「いい加減にしろッッッ!!!」
「わぉ」
「急に叫ばないでよ~」
「お前が…!」
「お前が俺の両親を…!!」
「織鶴さんの家族を!!」
「彩愛さんの彼氏を!!」
「火星さんの恩人を!!」
「いろんな人の大切な人を!!」
「殺したのか…!!」
「違うけど」
「!?」
「…そうだなぁ」
「今は時じゃない」
「君は死んじゃ駄目」
「そして、隻眼は一人じゃない」
「これだけは言っておくよ」
「…え?」
「クイズは簡単だよ?」
「もう答えまで君は辿り着いてる」
「何言ってんだ…」
「クイズ…?ふざけんじゃねぇぞ…」
「怒らない怒らない!」
バチィイイイイイインッッッ!!!
女に向けられる幾千の矛先
怒りに満ちた波斗の表情が、その殺気が紛い物ではないと物語ってる
「女の子に危険物向けたりするのは気にくわないなぁ」
「もうテメェに付き合ってられっかよ…!!」
「一斑君を生き返らせてあげたでしょ?」
「今度は殺そうとしただろ!!」
「この世界じゃ死なないってばぁ」
「それとも…、ずっとこの世界に居たい?」
「…!?」
「もうさ、閉じちゃってるんだよね」
「この世界」
「え…」
「気付かなかった?」
「死ねば現実に戻れる世界構造」
「繊細な[それ]が崩れればドミノ倒しで全部崩れていく」
「気付くのが遅すぎたね」
「…そんな」
「それじゃ…、ずっとこのまま…?」
「この世界で精神が尽き果てるまで生きて死ぬ」
「君だけじゃないよ?」
「全員、死ぬ」
「嘘だろ…、オイ…」
「残念、それが現実」
「変わりようのない事実だよ」
「まだ…、まだだぞ…」
「俺は生きたかったのに…!!」
「死にたくない?」
「当たり前だ!!!」
「それじゃ生きようか」
「…えっ?」
「この世界さ」
「私もここに居るでしょ?」
「先刻、一斑君が言ってたけど…」
「確かに私は機械を通して入って来てないのよね」
「どうやって…」
「君の精神を通して」
「…じゃぁ、お前はやっぱり」
「そうだよー」
「君も大好き夢の女!」
「大して好きじゃないけどな」
「酷いっ!」
大きくため息をつき、目元を抑える波斗
しっかりと目つきを直し、パンッと頬を叩く
「…怒鳴って悪かった」
「教えてくれ」
「皆で脱出したい」
「それでこそ君だよ」
「蒼空 波斗♪」
地下2F臨時制御室
機械収束所裏
カチッ
「…ふぅ」
「こんな所で何やってんのかなー?」
「!」
「おっす」
「…鉄珠でしたか」
「吃驚させないでください」
再び手元へと目線を戻すハアラ
「お前、途中でリタイアしてただろ」
「何してんのかと思えば…」
「核から連絡が有ったんですよ」
「ですので、少し細工を」
「ふーん」
「それのせいで停電に?」
「まさか」
「停電は侵入者が原因ですよ」
「よくやるよなぁ」
「総戦力が集まってる今を狙うなんてよ」
「今だから、でしょう」
「事実、軍本部まで侵入されている」
「灯台もと暗し?」
「少し違うでしょう」
「そっか」
「…ん?今、軍本部って言った?」
「えぇ、言いましたよ」
「軍本部13F」
「資料室に彼は居ます」
13F
資料室
ギィ……
静かに扉を開ける織鶴
周囲を確認し、忍び足で中へと入っていく
(誰も居ない…)
「…ワケじゃないわね」
「おや…、貴方ですか」
「織鶴さん」
「釜藁…」
「アンタが今回の原因とはね」
「えぇ、そうですよ」
釜藁は読んでいた本を閉じる
椅子から立ち上がり、織鶴の前へと歩んでいく
「地下の皆さんは元気ですか?」
「さぁ、どうでしょうね」
「今頃、布瀬川達が電力を供給してるわよ」
「そうですか」
「ご苦労な事ですね」
「全くね」
「…で、ここで何をしていたのかしら」
「少し情報を調べさせて貰っただけですよ」
「少し、ね」
「後ろで開いてる重要資料室については不問の方が良いかしら?」
「聞くとマズいでしょう?」
「別に」
「軍もマジで知られたくない情報は置いてないでしょう」
「えぇ、その通りでしたよ」
「下らない情報ばかりでした」
「…じゃ、何でここに来たのかしら」
「自己満足、という所でしょうか」
「自己満足?」
「…私には愛した女性が居ましてね」
「その女性は少しばかり、病んでしまっているのです」
「…」
「殺した相手を再び殺したい、と私の事務所に来たときは何だろうかと思いましたよ」
「ですが、ワケを聞いている内に同情心を抱き始めました」
「余りに可哀想だ、と」
「ですから付き合っていたのですが…」
「いつの間にか愛してしまっていた様ですね」
くすりと笑う釜藁
織鶴は彼の語りを黙って聞いている
「その彼女が殺したい人間は軍の人間でした」
「ですが、その人物は彼女自身が殺している」
「彼女が病んでしまうほどの体験…、察しかねます」
「…で?」
「アンタは、その彼女とやらの為に軍本部まで来たっての?」
「えぇ、まぁ」
「序でに自分の興味もかねて」
「…」
「彼女はね、未来に夢見る女子マラソン選手だったのですよ」
「かなりの実力者だったらしく、優勝も何度かしていたそうですね」
「…確かに、足を潰されりゃ病むわね」
「えぇ、全く」
「潰した人間を私が再び殺したいくらいですよ」
「…」
「…ですから、彼女と共に来た」
「死した人間を殺す為」
「再び殺す為に」
「…愛した女のためなら」
「止めなさいよ」
「それが出来なかったから、今ここに居るのです」
「最期まで添い遂げるのも愛した女性の為ですよ」
「…解りかねるわ」
「そうですか」
「どの道にしろ、ね」
「アンタを殺さなきゃならないのよ」
「えぇ、私も」
「貴女の力に興味があります」
「…行くわよ」
「えぇ、どうぞ」
読んでいただきありがとうございました