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秋鋼  作者: MTL2
26/600

山中の捜索

「狼亞ちゃ--ん!!」


「狼亞---!!!」


ゲリラ豪雨張りの大雨の中、合羽を被った波斗、奇怪神、火星が必死に狼亞を捜す


「何処に行ったんだ…」


「手分けして捜しましょう」

「私は山の西辺りを捜します」

「火星さんは東を」

「蒼空君は狼亞が戻ってきた時の為に、家に居てください」

「それと、お2人に」


「「?」」


「決して湖の奥には行かないでください」

「危険ですので」


「はい」


「解りました」




占い屋


(畜生…)


俺があんな事を言わなきゃ

狼亞ちゃんは…


ゴトンッ


「!!」

「狼亞ちゃ…ん…」


…違った

気のせいか



自責の念とでも言うのだろうか

ドロドロとしたどす黒い感情が心に蹂躙する


「…クソッ」


そう言わずには居られなかった


「----…ォン」


「…?」


「----…ォン」


何だ?

何か…、聞こえる


「----…ォン」


「まさか…」


ガチャッ


激しい雨

雨音に消されて、先刻の音は聞こえない


「…何だったんだ」


「ワォ------…ン」


「!」


「ワォ------ン」


「狼の鳴き声…!」

「狼亞ちゃん!!」


バタンッ!!





「狼亞ちゃ-ん!!」


「ウォ----ン!!」


「声がするのは…」

「湖の…、奥…!」



「決して湖の奥には行かないでください」




「…ッ!!」



湖の奥


「何だよ…、コレ…」


波斗の目に映ったのは土砂崩れで寸断された道

今にも再び崩れ出しそうな危険な状態である


「ウォ----ン!!」


確かにこの奥から狼亞ちゃんの声が聞こえる

土砂崩れの向こう側に行って、帰れなくなったのか…


「…こんな時こそ、だよな」


近くの小枝を折り、指を切りつける


「ッ…」


バチィイイイン!!


土砂崩れを跨ぐ様に橋が地面から生える


「よっしゃ!」

「今行くから!狼亞ちゃん!!」


恐る恐る橋を渡る


流石に自分が作ったとは言え、昨日コントロ-ル出来る様になった能力

強度が心配だ

不安すぎる


ただ、次の光景を見て不安なんて感情は吹き飛んだ


「あおぞら…」


「!!」


目の前には狼亞

「見つかった!」と一瞬、喜んだが

狼亞の足は岩の下敷きになっていた


「狼亞ちゃん!!!」


「足が…」


「待ってて!今助けるから!!」


「うん…」


か細い

朝の時とは違う

細くて細くて弱々しい声


ザァアアアアアア!!


雨が強くなっている

飛び出してから、すでに数時間が経つ

その間、ずっとこうしてたのか…?


ゴンッッ!!


思いっ切り岩に体当たりする

しかし、びくともしない

元より俺の体の数倍は有りそうな巨大さ

どうにかなるはずが無い


「…能力を使えば!」


そうだ

変形させてしまえばいい

凹凸型でも何でも

狼亞ちゃんの足から退ければ良いのだ


失敗したら?


「…ッ!!」


失敗したらどうする?

もし形を間違えて狼亞ちゃんに「もしもの事」が有ったら?

凹凸型にして狼亞ちゃんの足を貫いたら?

球型にして狼亞ちゃんを圧死させてしまったら?


怖い


足が震える


雨よりも冷や汗が冷たい


「あおぞら…」


怖い

目を見れない

失敗したら?失敗したらどうなる

昨日コントロ-ルを覚えた能力

どうする?どうする?

狼亞ちゃんは俺のせいでこうなっている

俺のせいで苦しんでるのに

俺のミスで


殺すのか?



怖い



「あおぞら!」


「…狼亞ちゃん」


「助けて…」


「!!」


馬鹿が


俺の馬鹿が!!!


馬鹿だ!馬鹿だ!!


自分のせいで狼亞ちゃんがこうなってる


失敗してさらに苦しめたら?


そんな事は知らない!!!


自分の所為だと言うのなら!!


自分で救ってやる!!


失敗?怖い?


知った事か!!!


自分の尻ぐらい自分で拭いてやる!!!


何の為に能力をコントロ-ルしたんだ!?


何の為に!!


こんな時の為にだろうが!!!!!!



「…ふぅ」


落ち着け

慌てるな

手を当てろ


波斗の手に冷たい岩の感触が染み渡る


考えろ

イメ-ジしろ

この岩を退かしやすく

狼亞ちゃんを救える形を


イメ-ジするんだ


「…いくよ」


「うん…」


バチィイイイイイイン!!!


岩は楕円形に変化する


「退っっっっっっけ!!!!!」


ドンッ!!


思いっ切り岩を蹴り飛ばし、崖の下に落とす


「狼亞ちゃん!!」


「ありがとう…、あおぞら…」

「痛っ…!!」


「足…、痛む?」


「うん…」


「ほら」


「え?」


「背負うから」

「早く行こう」


「あ、ありがと…」


波斗は狼亞を背負い、橋に足をかける


ボキッ


「しっ…!!」


橋の一段目が崩れる


「あっ…!!」


そのまま体は崖下へと落ちていく


「っっっっっらぁ!!!」


背中にいた狼亞を思いっ切り投げ飛ばす


どうか

どうかこの子だけでも

助かってくれ…!!


「確と聞きましたよ」

「貴方の心の叫びを」


パシッ!


落ちていく波斗の腕が捕まれ、引き上げられる


「奇怪神さん…!!」


にっこりと笑う奇怪神


「ろ、狼亞ちゃんは!?」


「おっとぉ!」


宙を舞っていた狼亞が火星にキャッチされる


「グッジョブ!蒼空君!!」


「火星さんも!!」


「戻ろう」

「崖が崩れる」


「はい!!」



占い屋


「…」


「…ごめんなさい」


「今回は蒼空君と火星君の御蔭です」

「2人にお礼を言いなさい」


「ありがとうございます…」


ペコリと俺と火星さんに頭を下げる狼亞ちゃん


「…俺も余計な事言っちゃたから」

「ごめんね」


「みゅぅ…」


(可愛いなぁ~)


ギロッと奇怪神さんの殺意の籠もった目が向けられた気がしたが気のせいだろう

そう願いたい


「しかし…、今回は本当にお世話になりました」

「何とお礼を言って良いやら…」


「お相子ですよ」

「蒼空君の能力コントロ-ルのお礼も有りますし」


「そうですね」

「では、お相子で」


(流石、サッパリしてやがる…)


「暖まる飲み物でも淹れましょう」

「少し待っててくださいね」


「ありがとうございます」


イスに腰をかけ、大きく安堵のため息をつく


(本当に良かった…)


「あおぞら、あおぞら」


くいくいと服を引っ張ってくる狼亞ちゃん


「何?狼亞ちゃん」


「大好き!」


「え?」


「え?」


「…え?」


ガシャ-…ン


呆然とした奇怪神の手からコップから御盆やらが落ちる


「ろろろろろろろっろろろろっろろろ?狼亞ちゃん?」

「何だって?」


「大好き!あおぞら!!」


その瞬間

頬に何か暖かい感触がした

柔らかく、仄かに暖かい


「…」


ゆっくり顔を横に向ける


近くには可愛らしい笑みの狼亞ちゃん


「パパ以外にちゅ-したの初めて!」


「 」


絶句である


え?ちゅ-?

酎ハイ?中年?

ちゅ-?


キス?


「…あははははは」


普通ならば女の子からキスをされるのは微笑ましい風景なのだろう

この場合もそうだ

年上の男に救われた少女がお礼代わりにキスをした

たったそれだけ

微笑ましい光景なのだ


…後ろの殺気さえなければ


「蒼空君」


「…な、何でしょう?」


ヤバい

コレは本格的にヤバい


「地獄を見るかゴラァ」


「勘弁してください」


読んでいただきありがとうございました

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