狼
車内
万屋を出て数時間
火星の運転する車に大量の食料と波斗が乗る
「この食料の山は…」
「奇怪神の所までは時間が掛かるからね」
「お腹が空いたら食べて良いよ」
「は、はぁ…」
(こんだけ食ったら酔いそうだな…)
「遠いんですか?その奇怪神さんの所までは」
「遠い」
「果てしなく」
「そんなに!?」
「山中だしね」
「何を好き好んであんな所に家を建てたんだか…」
「…能力をコントロ-ルする修行ですよね」
「ん-、まぁそうかな」
「2日有れば十分じゃない?」
「俺の能力…」
「怪我も有るだろうけど、頑張ってね」
「能力はコントロ-ル出来ないと危険だし、任務にも響く」
「重要な事だよ」
「…はい!」
「波斗君の能力ってアレだよね?」
「物を変形させる能力」
「はい、そうですよ」
「発動条件が出血だっけ?」
「はい」
「今も出そうと思えば」
「…車は変形させないでよ?」
「俺が頑張って買ったヤツなんだから…」
「前に潰されたのは…」
「…軍支給のヤツ」
「アレも大切にしてたんだけどなぁ…」
「コレは自腹ですか…」
「…うん」
「織鶴が「申請が面倒くさい」って…」
「コレが壊れたら…、俺…」
「もうやだ…」
(触ってはいけない部分に触ってしまった)
山の麓
「長かったですね…」
「この山ですか」
「うん、そう」
キキッ
「?」
「ここからは車じゃ無理だからね」
「歩こう」
「解りました」
「食料と…」
「あと懐中電灯とかも」
(登山に来たみたいだな…)
「よし、と」
「じゃ、行こうか」
「は、はい」
山中
(暑い…)
(季節的な事も有るけど…、暑い)
(そして怠い…)
(何か気を紛らわす会話を…)
「…その奇怪神さんはどんな方なんですか?」
「優しい人だよ」
「動物好きな人でね」
「犬派か猫派か聞いたら「両方派」と答えられたよ」
「因みに火星さんは?」
「俺は犬派だけど?」
「俺は猫派です」
「…」
「…」
「…まぁ、人それぞれだね」
「あの人は占いもやってるんだ」
「占い?」
「結構、当たるんだよ」
「何年か前に秋鋼メンバ-で占って貰ったかな」
「どうでした?占いの結果」
「織鶴は来年の注目スウィ-ツを占ってて貰ってたね」
「彩愛は自分に一番合った美容法を」
「鉄珠は特にないっ、て言って占わなかったかな」
「火星さんは何を占って貰ったんですか?」
「こんな職業だからさ、危険な死相とか見えてないかと思って」
「「女性に害有り」って言われたけど、別に今は無いかなぁ…」
(自覚してないのか…)
ガサガサ
「…波斗君、静かに」
「どうしたんですか…?」
ひそひそと声を沈める2人
「何か居る…」
「熊か、猪か…」
「…どうします?」
「待とう」
「向こうに行くのを待つんだ」
「はい…」
ガサガサ
「くぅ~ん…」
「…犬?」
「犬ですね」
「柴犬かな」
「雑種じゃないですか?」
「グルグルグル…」
「威嚇されてますね」
「まぁ、犬だし」
「しっし!向こうに行きなさい」
「ガァッッ!!」
「…」
「…もしかして、ですけど火星さん?」
「何だい…」
「…狼じゃね?」
「だね」
ダッ!!
全力逃亡開始
「何で狼が!」
「日本狼は絶滅したんじゃなかったんですか!?」
「そのはずなんだけどね!?」
全力で走り続ける2人
そして、それを容赦なく追いかけてくる狼
「よし!二手に別れよう!!」
「どちらかを追うはずだ!!」
「追われた方はどうするんですか!?」
「逃げる!!!」
「ですよね!!」
ダンッ!
「ガウッ!?」
狼は急に別れた2人に戸惑う
「ウゥ…」
「ガゥッ!!」
「はぁ…、はぁ…」
「こんなに走ったのはいつぶりだ…」
息を荒げ、木陰に隠れる波斗
(来てない…、って事は火星さんを追ったのか)
(…食われてたらどうしよう)
「グルルルルル…」
(…こっちに来てた)
(このままじゃ見つかるよなぁ…)
「ガウッ!ガウッ!!」
辺りを威嚇するかの様に吠える狼
「…よし」
拳を握りしめる波斗
(後ろから押さえつけて、身動きを取れなくしよう)
(そうすれば、狼も動けないはず…)
かなりの賭だが、このまま見つかって捕食されるよりは良い
動きさえ押さえつけてしまえば、後は気絶…、させられるかな
とにかく、行動しなければ
「ガゥ…」
(今だ!!)
ガサガサッ!!
「ウゥッ!?」
ガシッ
狼の手を掴み、足を絡ませる
ガッチリとホ-ルドした形になり、狼の動きを封じる
「ガウッ!ガウッ!!」
「コレで動けまい…!!」
「気絶はどうやったらするんだ!?」
「ガゥウウウウウ!!」
バタバタと暴れる狼
それを必死に抑える波斗
「動くなぁ--!!」
「離しなさいよ!!」
「動っ…、え?」
「離せ!離しなさい!!」
「離してよ!!」
「え…?」
いつの間にか抑えていた狼が女の子に変わっている
全く状況が理解できない
「離して…」
グスグスと泣き出す女の子
「あ、ご、ゴメン…」
「うぇぇええん…」
「パパぁああああああああああ!!!」
「え?パパ?」
チャキッ
殺気
解る、背後に凄まじい殺気
「ウチの子に何をしてるんですか?」
波斗の首筋に当てられた刃物
恐らく木を斬るのに使う鉈
「あの…、コレはですね…」
「言い訳は地獄で聞きましょう」
「ま、待っ…」
「待ってくれ!奇怪神さん!!」
「む?火星君じゃないですか」
「どうしたんです?急に」
「その子は秋鋼の新入りだ!!」
「ウチの子を襲ったので問答無用です」
「むしろ襲われたんですが…」
「狼に…」
「…狼亞、また狼になって人を脅かしましたね?」
「…」
「…だって」
「お仕置きです」
「そんなぁ!!」
「君、迷惑をかけましたね」
「ウチへどうぞ、お菓子ぐらいなら出せますから」
「は、はい…」
「火星君も久しぶりですね」
「今日は占いに?」
「いや、彼の能力についてね」
「…そうでしたか」
「解りました、取り敢えずウチに行きましょう」
占い屋
「ふぅ…」
「暑いでしょう、かき氷でもいかがです?」
「お言葉に甘えます」
「味は何が良いですか?」
「苺で」
「解りました」
「パパ!私も苺-!!」
「狼亞は駄目です」
「まずは彼に謝りなさい」
「…ごめんなさい」
「ま、まぁまぁ」
「君も好奇心半分だったんだよね?」
「…」
「違うの?」
ちらりと狼亞の視線がバックに向かう
「甘い匂いがしたから…」
「あ、もしかして…」
「…コレ?」
バックからチョコレ-トを取り出す
「!!」
ポポンッ
「…あ」
「ちょうだいっ!!」
狼亞の頭から獣耳が飛び出し、後ろからは尻尾が飛び出す
「頭…、耳…?」
「後ろは尻尾…」
「この子は狼亞」
「一応、能力者なんです」
「能力者なんですか?」
「はい」
「身体強化系と念力系の混合種という珍しい子でして」
「獣人なんですよ」
「この子が…」
波斗が狼亞の頭を優しく撫でる
「くぅん♪」
尻尾をパタパタと振るわせ、嬉しそうに微笑む狼亞
(可愛いな…)
「チョコちょうだいっ」
「あ、はい」
パクリッと波斗の手から食奪する
「あむあむ」
「…火星さん」
「何?」
「犬も良いですね」
「狼だよ」
読んでいただきありがとうございました