探偵の依頼
九華梨高校
職員室
「…なぁー、オイ」
「蒼空ァ?」
「ナンデショウカ」
「お前さ、何だっけ」
「アルバイトだっけか?」
「ハイ」
「そりゃ、ご両親を亡くしたお前が金を稼がなきゃキツいのも解る」
「仕方がない事だ」
「それについては、まぁー、怒らねぇよ?」
「ハイ」
「ただなぁ…」
「運動会は無断欠席ィ?授業もここ最近は顔を見せやしねぇ?」
「その上、遅刻と来たモンだ」
「舐めてんのか」
「ハイ」
「そこはイイエだろうが」
今、波斗は担任の船村に説教を受けていた
波斗は万屋での仕事、つまりは軍の仕事を請け負うため、よく学校を休む
軍の手配に居よって成績の降下や退学こそ免れているが
何も知らない一般人の船村からすれば
波斗は何らかのコネを使ってずる休みをする生徒に過ぎないのだ
また、デルタロスの一件によって行われていない事にされていた体育祭
それは再び行われた、が
ロンドンに行っていた波斗は強制的に欠席
連絡もしなかった為、無断欠席となってしまったのだった
「ったくよ、桜見の遅刻が治ったと思えばコレか」
「治ったんですか?」
「最近は蔵波の野郎と一緒に登校してるなぁ」
「あんなに仲良かったっけか?」
(ラブラブだな…)
「森草は欠席か」
「風邪みたいですよ」
「ん、そうか」
「ま…、テメェも苦労してるんだろうが」
「学生の本分は勉強だ、って事を忘れんじゃねぇぞ」
「はい…」
「それと、もう1つ」
「皆には言ったんだがな、最近…、不審者が出てるらしい」
「不審者ですか」
「そうだ」
「灰色のコートを着込み、探偵が被ってるような帽子を被ってるらしい」
「こ、この季節にコート…」
「露出魔かもな」
「うわぁ…、キメェ」
「キモいっちゃキモいが、言うなよ」
「変質者は下手に刺激せん方が良い」
「ですよねぇ…」
「まぁ、先生なら撃退できるんじゃないですか?」
「黒帯でしたっけ」
「そりゃ、体育の先生が言ってるだけだろ」
「俺は柔道はしてねぇよ」
「殺人空手でしたっけ?」
「強ち、間違っちゃねぇかもな」
「えっ!?」
「ハッハッハ!冗談だ」
「…ともかく、変質者には気を付けろよ」
「は、はぁ…」
教室
ガラッ
「あれ?蒼空」
「生きてたの」
「勝手に殺すなよ、熊谷」
「確かに何日か来なかったけど…」
「く、食えよ」
「口に合うかどうか解んないけどさ…」
「おいおい、舞桜」
「お前の料理以外に俺の口に合う料理なんて無いぜ?」
「ば、馬鹿っっ!!」
「うるせぇよ…」
「アハハハハ!」
「うるせぇリア充が居るじゃねぇかァ…」
(蒼空も大概だけどね…)
「あの2人、花火の日以降ラブラブなんだよ~」
「だろうなぁ」
「俺達もやった甲斐が有るってモンだ」
「あ、それなんだけどさ」
「ちょっと来てくれる?」
「ん?」
「何だよ」
「あの2人に聞かれたらマズいんだよね」
「…まさか」
「あの桜見を襲った、って言う不良か…?」
「ううん、違う」
「何でだか、彼等っていう存在自体が消えてるんだよね」
「[戸籍]って言った方が早いかな」
(やり過ぎだろ…、彩愛さん)
「で、問題は縛双なんだ」
「バクソー…、ってアレか」
「桜見が総長の」
「うん、そう」
「そのチームがね…、蔵波を追ってるみたいなんだ」
「桜見じゃなくて、か?」
「そうなんだよねー…」
「ほら、警察に協力してる暴走族だからさ」
「警察のマークも甘くて…」
「あぁ、暴走族を検挙する暴走族だったよな」
「…で、それをどうしろと?」
「ほら、蒼空ってバイトしてたでしょ?」
「そこに頼もうかなーって」
「依頼か?」
「受けてくれるとは思うけど…」
「具体的にどうしたいんだよ」
「目的を知りたい、かな」
「なるほど」
「まぁ、帰ったら織…、店主に聞いてみるよ」
「うん、お願い」
「じゃぁ、戻ろうか」
「あぁ、そう言えば夕夏さんは?」
「今日、居ないみたいだけど」
「なんかねー、縛双の事を調べてくれるって」
「え?調べれんの?」
「知らないの?蒼空」
「俺とあの人は情報ツールは広い方だよ?」
「俺の知ってる人ほどじゃ無いと思うけどな」
万屋
「っしゅん」
「あら彩愛、風邪?」
「いえ…、クシャミが出ただけです」
「珍しいわね」
「淑女がクシャミをするのに抑えもしないとは…」
「やれやれ、品の無い」
「…それは失礼」
織鶴と向かい合って座る、1人の男
灰色のコート
深緑の帽子
首元まで伸びた栗色の髪
そして、目元を隠す眼鏡
「で?今回の依頼は何かしら」
「えっとーー…」
「釜藁 夕壬郞です」
「探偵業を営んでおりまして」
「探偵が万屋に依頼って…」
「珍しい事ではないでしょう?」
「使える者は使う主義でしてね」
「…あっそ」
「しかし、ここは女性2人しか居ないのですか?」
「なんと不用心な…」
「男も居ますよ」
「3人ほど」
「その方達は?」
「今は出払ってるわ」
「いやはや、なんと不用心」
「互いに恨みを買う職業です」
「こんな女性のみの時を襲われたらどうするのですか」
「ご心配なく」
「貴方の前に座っている女性なら、テロ集団でもねじ伏せますから」
「はっはっは、ご冗談を」
(冗談では無いのですがね…)
「本題に入りましょ」
「依頼は何?」
「おっと、失礼」
「依頼というのはですね」
「縛双…、という暴走族をご存じですかな?」
「爆走?」
「いいえ、縛双です」
「当て字でしょうがね」
「…で?その縛双が何よ」
「潰したいのですよ、その暴走族を」
「…へぇ」
「それがアンタの所の依頼?」
「いえ、違うのです」
「私はその「縛双に所属している娘を取り返して欲しい」という依頼を受けました」
「潰せば、その子は居場所を無くして戻ってくる…、と」
「その通り」
「名家のお嬢様らしいのですが、そんな所に所属してしまいましてねぇ…」
「…詳しい事はどうでも良いのよ」
「私達は縛双って暴走族を潰せば良いのね」
「はい」
「しかし、気を付けていただきたい」
「何が?」
「その縛双というのは暴走族を検挙する暴走族」
「警察が大層、気に入っています」
「警察の後ろ盾?」
「そうですね」
「下手に動くと警察まで敵に回しかねませんので、ご注意を」
「…解ったわ」
「報酬額はコレぐらい?」
「…えぇ、そうですね」
「少し高い様な気もしますが」
「適正価格よ」
「そうですか?」
「まぁ、構わないでしょう」
「じゃ、明日から取りかかるわね」
「はい、お願いします」
「では…、さようなら」
カランカラーン
「…いけ好かない男ですね」
「全くだわ」
「ご丁寧に盗聴器にGPSまで仕掛けていくとはね」
「え?」
「あら、気付かなかったの?」
「ソファに盗聴器が仕掛けられてるわよ」
「玄関の取っ手口の裏側にはGPS」
「大方、私達の手が触れたときにくっつく粘着性でしょう」
「…一応はやり手、でしょうかね」
「まぁ、[一応]ね」
バキンッッッ!
「…依頼は達成させるけれど」
「それ以上は無いわよ、覚えておきなさい」
「釜藁 夕壬朗」
読んでいただきありがとうございました