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秋鋼  作者: MTL2
217/600

キースの葬式

特別治療室


「…ん」


「あ、起きた」


「馬常…?」

「何処よ…、ここ」


「ロンドン支部軍病院の特別治療室だよー…」

「一昨日から寝っぱなしだったんだけど…」


「…そう」

(やっぱり[阿修羅・轟]を使ったら眠り続けるのね…)

(…それにしては長く眠ってたわね、ツケかしら)


「具合は?」


「別に、良好よ」


「それは何よりだねぇ…」


「…あら?他の奴等は」


「お葬式」


「葬式?」


「ほら、キース・ジャスミンの」


「…あぁ」

「取り返したのね…」


「…うん」

「もう、こんな事にならないように火葬にするんだってさ…」


「…アンタは行かないの?」


「俺は顔見知りじゃないし…」

「立場上って事も有るんだろうけど…、俺は行かない」


「何でよ」


「…怖いから、かなぁ」


「怖い?」


「…そ」

「怖いんだよね、お葬式ってさ」


「幽霊なら解るけど、葬式が怖いって何よ」


「…だってね」

「皆が黒い服着て」

「実感もしてない物を実感しているように振る舞って」

「感じても無い事を口から吐き出すんだよ?」

「怖くない?」


「…私は怖くないわよ」

「悲しいっちゃ悲しいけれどね」

「それに、心にも無い事を言う馬鹿なんて中々居ないわよ」


「そっかなぁ…」


織鶴はそうかも知れないけれど


俺は怖いんだ


[死]が




葬式場


喪服を着、マイクを握るソルナ

彼の周囲には軍関係者や彼と親しかった者々

フロラやベルア、リンデルや一斑、昕霧などの姿はあるが

響の姿はない



「…では」



ゴォオオオオオオ……


燃え盛る炎の中で

一箱の煙草と花束と共に


キース・ジャスミン


彼は永遠の眠りについた












喫煙所


「…」


白煙が排気口へと吸い込まれていく

響はぼうっと、白煙を見つめている


「灰」


「…あぁ、すまんのう」


隣から灰皿を差し出したのはソルナ

響は灰皿に灰を落とし、再び煙草を咥える


「…火葬、終わったぞ」

「居なかった様だが?」


「あの人との別れなら、とうに済ました」

「あの人が焼かれる所なんざ…、見とぅない」


「…そうか」

「俺も1本くれないか」


「煙草吸うんか、お前」


「キースさんに言われて禁煙していたんだが…」

「今日ぐらいは、な」


「…ほか」



カチッ


「…来ていた、マスクをしている少年」

「彼と、共に居た少女は誰なんだ」


「ワイの弟子と、フロラさんの娘」

「リンデル・ジャスミン…、ベルアの妹や」


「妹…?」

「と言う事は」


「あの人が見えんかった娘や」

「今頃、天国で嬉しさの余り大爆笑しようやろ」


「…あの人らしいな」


「あぁ、あの人らしい」

「ほんまに…、あの人らしいねんなぁ…」


「…少し、席を外す」


「すまんのぅ、気遣い…させて……しもうて……」


「俺も手洗いに行くだけだ」

「気にするな」


「…ほか」


ガタンッ



「…死におってからに」

「アンタの娘の世話…、ワイがする事になったねんぞ…」

「このド阿呆師匠が…」


響の頬を伝う涙

響は煙草の箱をくしゃりと潰し、その場に項垂れ込んでいた




洗面場


バシャッッバシャッッ


「…」


何度も何度も顔に水を打ち付けるソルナ


バシャッッバシャッッ


「…」


彼はひたりと鏡に手を付ける


「…」


バリンッッッ!!!


「…何故なのです」

「何故…、こんなにも現実は残酷なのですか」


髪より滴る水と共に

ソルナの瞳からも雫が滴り落ちていく


「貴方は…!貴方は…!!」

「死ぬ様な人じゃなかったのに……!」


神は残酷だ


正義よりも悪が生き延びる世界を作った



神は



残酷だ





葬式場


「…」


「あら」


「あ、は、はろー」


「日本語で大丈夫よ~♪」


「そ、そうですか…」

「えっと、フロラさんでしたかいな?」


「えぇ、そうよ~♪」

「響の弟子の一斑君ね?」


「は、はい」

「えっと、響さんの姿が見えんで探しとったんやけいども…」


「…今、喫煙所に居ると思うわ~」


「喫煙所?」

「ほな、行って来ます」


「だけど…、1人にしてあげてね?」


「…あー、そういう事でっか」

「解りました」


「理解が早くて助かるわ~」


「まぁ、みょーに付き合い長いし…」

「何となくですけど、俺もそこまで鈍感ちゃいますから」


「…そうね~」

「リンデルは良い子にしてるかしら?」


「グリーンピース残すんと人見知り以外は良ぇ子ですよ」


「あらあら、まだ好き嫌いは治ってないのね~」


「ほんまですなぁ…」

「っと、そのリンデルは何処ですかいな?」


「あそこでベルアと話してるわ~♪」

「久々だからね~♪」


「うーむ、俺1人…」


「フフッ、日本の本部から来てる人も居るから、その人達と話せば良いんじゃないのかしら♪」


「本部から?」

「誰が来」


ポンッ


「よぉー、一斑ァ」

「私には挨拶の1つも無しか?」


「…あ、あ、あ」

「昕霧さん……」


「あらあら、お知り合い?」


「…と言いますか」

「俺のご主人ってトコですわ…」


「ご主人?」

「…へ、へぇ~」


「微妙そうな顔すんなよ」

「んなプレイしてねーぞ」


「あら、そうなの~」


「…一斑」

「テメー、向こう行ってろ」


「?」

「解ぁりました」



「…フロラ」


「何ですか~?」


「泣かねーのか」


「…」


「お前なら大号泣すると思ってたぜ」

「アイツの1回目の葬式みたいに」


「…昔から性格は変わらないわね~、凜ちゃん」


「その呼び方はやめろ、って言ってんだろーが」


「そうやって人の心を気にせず踏みにじる所なんて昔のままね~」


「変わらないからな、私は」


「そう、変わらない」

「そうやって心配してくれる所も」


「…」


「大丈夫よ~」

「私は…、もう泣き尽くしちゃったから」


「…テメーは昔っからそうだ」

「強えーくせに弱えーんだよ」


「…そうね」

「私は、最愛の人を亡くしたのに…」

「どうして泣けないのかしら~」


「…テメーが強いからだろ」

「泣かないのは、まだ護る物が有るからだ」

「お前の娘達はお前が護れ」


「解ってるわよ~」

「あの子達は…、私が護るわ」


「それがテメーの弱さなんだよ!」


「…え?」


「どうして自分で護ろうとする!?」

「テメーの周り、見渡してみろ」

「ウェルタやソルナ、響や一斑」

「他にも大勢の奴等が居る」

「どうして頼らない!?」

「私も居るのに」

「どうして頼ってくれねーんだよ!?」


「…頼れないの」

「迷惑は…、かけられないから」


「…違げーよ、馬鹿」

「迷惑をかけてるんじゃない」

「かけて欲しいんだ、私達は」


「…でも」


「でも、じゃねーよ」

「ここに居る奴等はお前とキースに助けられた人間だ」

「次は私達が助ける番だろうが」

「助けて欲しいなら…、言ってくれよ」

「抱え込むなよ…、頼むから」


「…胸、貸してくれるかしら~」


フロラは昕霧の胸へと顔を沈める

昕霧は抱擁する様に彼女を抱きしめ、静かに語りかける


「…お前達が大好きなんだ」

「何でも言ってくれよ…」


「…いっつもツンツンしてるのにね」

「こんな時に…、優しくならないでよ…」

「泣きたくなるでしょ~…」


「…軍学校から変わらねーな、テメーは」

「弱さを人に見せろよ…」

「もう…、お前が立ってるのは戦場じゃない」

「…家庭だろ?」


「うん…、そうよね…」

「ありがとう…、ありがとう…」

「本当に…、ありがとう…」







キース・ジャスミン


フロラ・ジャスミン


彼等は、今日




戦場から身を退いた



読んでいただきありがとうございました

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