東の剣士と西の銃士
住宅街
「風斬」
「時雨」
ギキィンッッッ!!!
東の剣士と雨雲の刀が摩擦を起こし、火花を散らす
ガチンッ
「!!」
ドォンッ!!
雨雲の頬を銃弾が擦り、血が滴り落ちる
「ーーーーッッ!!」
「雨円之雫ッ!!」
バチバチバチッ
「!」
地面が円形に波打つのを直感し、東の剣士は素早く後退する
「地面に刀で円形を模し…、斬領域を作り出す」
「見事な技だ」
「…見抜いたのか」
「いや、見た事が有るのでな」
「…何だと?」
「我の時代には能力を持つ物など、殆ど居なかった」
「居たとしても妖物と同じく扱われ、目に掛かる事など無かったのだ」
「然れど、強者は多く居た」
「彼等の剣術は目を見張る物が有った」
「その中に貴様と同じ技を使う者が居た」
「雨雲、と言ったか」
「貴様の先祖だろう?」
「…あぁ」
『驚いたねェ!お前の技は相伝かい?』
「先祖代々、俺の一族は受け継いできている」
「それも俺の代で終わりだが」
『家族が皆殺しにされたから?』
「…知っているのだろう」
『この2人を倒せたら、知っている情報を教えてやるよ』
『倒せたら…、ねェ?』
「良い」
「要望に応えよう」
「ククク!俺も答えるとするかネ」
「乗り気はしないけどサ」
剣を構える東の剣士
銃を携える西の銃士
「…」
雨雲も呼応するかのように剣を持ち直す
奴等は強い
個の力もそれ相応の物を持っているが、何より連携力が凄まじい
阿吽の呼吸の如く
異心同体の様に
声を掛けずとも、合図をせずとも
近距離と遠距離の連携
剣士を追い詰めれば銃士が援護し
銃士に接近しようとすれば剣士が防ぐ
見事だ
付け入る隙が全くない
「風斬」
「時雨」
キィンッッ!!
「この程度では話にならないか」
「…」
さらに、この[風斬]と言う技
威力は決して高くないが、その連斬性
こちらに無駄な隙を与えず、西の銃士の銃の装填時間を稼ぐ
連携性に老いて、今まで見た事が無いほどに優れている
双方の実力
信頼
時間
それ等が全て揃っても中々出来る芸当では無い
故に
腹が立つ
キィンッッ!!!
「…中々、やるではないか」
「問う」
「む?」
「貴様等は、何故」
「肉体を取り戻してまでも、その男に付き従う?」
「…」
「何故、主と呼び慕うのだ?」
「その男が如何様な男かは知っているはずだ」
「…ククク」
「カハハハハハハハハッッ!!」
天に向かい、大声で笑う西の銃士
腹を抱え、目には涙すら浮かんでいる
「んなモン!コイツが俺を生き返らせたに決まっているだろうガ!!!」
「命はコイツに握られ!体も!脳も!全てヲ!!」
「だから従ウ!強に屈するしか無い弱者なんだヨ!俺ハ!!」
「…東の剣士よ」
「貴様も、そうか?」
「否」
「我は違う」
「おいおイ!違うのカ!?」
「貴様も俺と同じだろウ!?」
「貴様と同列に並べるな」
「…言うじゃないカ」
『…』
「俺は生きる事が目的だ」
「生き、見届けたい」
「剣の行く末を」
「行く末?」
「何故?」
「我は剣に生き、剣に死んだ」
「死に際は剣の行く末を見届けられぬのを悔いた物だ」
「しかし…、我は再び世に命を持って立つ事を許された」
「奴を主とは思っていない」
「ただ、持ちつ持たれつの関係性であるだけだ」
「…そうか」
「それを聞けて安堵した」
「安堵?」
「何故だ?敵の心配でもしているのか」
「…いや」
「俺は闘いたい奴が居て、ここに来た」
「だが、途中で事情が変わりこの場に居る」
「その事情というのは人形師である貴様の操り人が俺の身内の事を知っているから、ということだからだ」
「情報を餌にし、人の亡骸を嘲笑い、強者すらも縛る」
「腐っているのは解っていた」
「だが、それ以上に腐敗しているというのならば…」
「俺も冷静さを保っていられないのでな」
ぞくり
東の剣士、西の銃士、モルバ
3人は等しく感じ取った
雨雲の殺気を
「…」
「…」
『…』
沈黙
それは殺気故の恐怖では無い
東の剣士も西の銃士も2人で本気を出せば勝てる見込みは充分に有る、と踏んだ
実力差故の恐怖では無いのだ
その、殺気
殺気とは人を殺す気
泥々しく、黒に塗れた殺気
激々しく、赤に包まれた殺気
様々な殺気が存在する
人それぞれ個性と同じく
東の剣士も西の銃士も
況してや、ハデスに属し[人形師]の名を持つモルバ
彼等は幾度も戦場に立ってきた
様々な殺気を感じ取ってきた
それでも、臆す
雨雲 卯月の殺気に
蒼
清水の如く
透き通り、全てを透す蒼
泥々しくも
激々しくもない
清く静かに静寂の如く
流れる水のように
夏の雨のように
静かで
清く
心地良いほどの蒼
それが殺気なのだ
「…」
「…」
東の剣士も西の銃士も口を閉じる
剣を構え、銃を構え
彼を目の前にし全力で警戒する
静かなる雨は時として激しく降り注ぐ
雷を鳴らす事もある
静寂故に
その静けさ故に
静かに澄んだ水の底には多くの物が沈殿している
水が荒れ、それが巻き起こった時
それは恐怖の渦となる
「俺の話が過ぎたな」
「…」
「…」
『…』
沈黙は崩れず
気楽そうに笑う雨雲の笑顔は恐怖すら感じられる
まるで嵐の前の静けさのようで
「勝負を、付けよう」
「…あぁ」
「そうだナ」
『お前等、気を付けろよ』
『そいつは無能力者でも五本の指に入る強者だ』
『気を抜きゃ、一瞬で殺られちまう』
「いつもいつモ」
「忠告が遅いんだヨ」
『何?』
「…神妙なり」
トスッ
地面へと突き刺さる東の剣士の刀先
『何を…!?』
「天雨之刀」
「剣の行く末」
「我は見届けることが出来なかった」
「…託すぞ、若く美麗なる剣士よ」
「…あぁ」
ドバッッ
2人の体は両断される
水面が風に揺れる如く、自然に緩やかに
ゆっくりと
『馬鹿な…!東の剣士と西の銃士を…!!』
「約束は果たして貰うぞ、人形師」
「教えて貰おう」
「卯琉の事を」
「俺の…、妹のことを」
読んでいただきありがとうございました