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秋鋼  作者: MTL2
201/600

2つの拳

現在


廃工場


「…コレが真実だ」

「俺は奴を殺し」

「奴は家族を護った」


「…」


うなだれる響


「…何やねん」

「何やねん…」

「ワイは…、ワイは…」


何をしている?

目の前の男は敵か?

敵?敵?


敵?


「…闘おうか」


「…お前は敵なんか?」


「あぁ、敵だ」

「俺はハデスの[破壊屋]」

「お前の師匠の仇だよ」


解らない


「…お前は」


解らない


「…敵だ」


解らない


「…解らん」


解らない


「何でお前が…」

「何で…」


解らない


「…真実の前には決意も揺らぐか?」


解らない


頭の中をモヤが渦巻く

浮かんだ言葉が口から出ていく


ワイは


何の為に


お前を殺そうとした?


「情けないな」

「貴様の決意は!その程度か!?」


「…根本から覆された決意を心に決めろ、と?」

「無理やろ…、ほんなん」


「…[岩砲弾]」


ゴガァンッッッ!!!


響の左腕に直撃する岩石

左腕は有らぬ方向に曲がり、血が飛び散る


「…」


それでも響は動かない

何も、考えられない


「…くそっ」


舌打ちするダボル


抜け殻と化した目の前の男

この男は何を思い、何を決してこの場に立った?


「復讐と言うのなら、真実を知っても復讐しろ」

「貴様の決心は、その程度か?」


「…雷、貫、弾」


パシンッ


響の技も、ダボルは片手でいとも簡単にかき消してしまう


「…俺は乗り越えた」

「貴様は?乗り越える事すら出来んのか」


「…知っとうか」

「ワイ復讐頼まれたんは…、フロラさんからやねん」


「…キースの妻か」


「自分を助けた恩人を殺せ、って言われたんやな、ワイ」

「何にも知らん、あの人からすれば当然やろうけど…」

「…こんなん理不尽やないか」


「理不尽?関係ないな」

「奴が知るのは[俺が自らの夫を殺した]という事実だけで良い」


「ほんなら、何でワイに話したんや?」


「…」


「なぁ、気付いとんやろ?」

「罪の意識に」


「…」


「お前は求めとんや」

「ずっと、ずっと求めとる」

「ワイがそうやった様に」

「お前も求めとんや」


「…求める、だと?」


「ワイは昔…、よーけ人を殺した」

「何人も何人も殺した」

「…今でも、それを後悔して反省しとる」

「昔なぁ、キースさんに弟子入りしてから…、初めて貰ったアドバイス」

「それのお陰でワイは救われたんや」

「罪の意識が消えたワケでもないし、過去を忘れたワケでもない」

「ただ、罪の意識に押しつぶされそうになっとたワイを救ってくれた言葉」

「それを今、お前に言うたる」


「…言ってみろ」


「[死ね]!!!!!」


「…はっ?」


呆気


「…以上や」


得意げそうにドヤ顔をする響

それに対し、ダボルは呆気にとられてポカンとしている


「…何を言ってるんだ?」


「今、言うたやろ?」

「そのまんまの意味やけど」


「…[死ね]、か」


「意味が解らんか?」

「ワイも解らん」


「…?」


「ただ、あの人は率直に言うてくれただけやねん」

「上辺でもなく、世辞でもなく」

「糞でゴミで屑虫の殺人鬼に」

「自分の気持ちをぶつけてくれた」

「それが…、どれ程嬉しかったと思う?」

「たった2文字!たった2文字やぞ!?」

「ワイは…、それで救われたんや!」


「…くくく」


「…ははは」


「クハハハハハハハハハハハハッハッハハハハハ!!!!!」


「ガハハハハハハハハハハハハッハハハハッハハハハハッハ!!!!!」


炸音する2人の笑声


響もダボルも


口が裂ける程に笑っている


「クハハハッハハハッハハッハハッッッッ!!!」


「ガハハハハハハハッッッハハハハッハハハハ!!!」


「…クククッ」


「ガハハハッ」


「…」


「…」


沈黙


2人の笑声は止み、静寂が周囲を覆う


「…なぁ、[破壊屋]」


その静寂を打ち破ったのは響の声


「復讐やなく」

「恨みも怨恨もなく」

「ただ、1人の男として言う」

「闘え」

「ワイと闘り合おうやないか」

「信念と」

「過去と」

「未来と」

「全てを賭けて」

「1人の男として」

「1人の敵として」

「1人の友として」

「最高の相手と認める」


「…お前は敵であり」

「友であり」

「男である」

「手は抜かない」

「全力、総力、尽力を持ってーーーー」


「「倒すッッッッッッッッッッッッッッ!!!!」」


「体、力、炎!!!」

「身体強化!属性付与!!!」


爆炎に包まれる響の右拳

皮は焼け、響の顔は苦痛に歪む


それでも


響の眼には信念が宿る


[斥拳ガッグス]ッッッッッッッ!!!」


ダボルは全身全霊の力を右拳へと集める

皮は裂け、拳は震えるように振動する


それでも


ダボルの眼には希望が宿る


「…拳に属性と身体強化を付与したのか」

「2重とは、な」


「正規の能力ちゃうから出来る芸当や」

「…ゼイル・ファミアが改造したんや」


「!!」

「…そうか」

「運命とは…、繋がっているのだな」


「…そうやな」


「…」


「…」


2人は静かに言葉を止める


「…」


「…」


「キースさんは師匠やった」


「キースは親友だった」


「…同じやな」


「同じだな」

「過去に囚われ」

「在りもしない後ろ姿を追い続けてきた」


「ほなけど、もう終わりや」


「あぁ、終わりだ」


「過去にケジメを」


「未来に希望を」


「…ただ、それだけで良えねん」


「それだけ…、だ」


「お前の名は?」


「ダボル・ベードガン」


「ダボル、お前に頼みが有るねん」


「…何だ」


同じ言葉

まるで、アイツの口から聞こえるように

響の言葉は俺へと


「俺と全力で闘え」


「…あぁ」


聞きたかった言葉


強者を求めた俺が最も聞きたかった言葉


不満は無い


不平は無い


不興は無い


ただ、この男と闘える事が


何よりも嬉しい



静かに歩き出す2人


前へ


前へ


静かに歩む


「…」


「…」


段々と、2人の歩む速度が速くなる


少しずつ、少しずつ


「…」


「…」


遂に2人は走り出す


互いに向かって


真っ直ぐ


真っ直ぐ


「ダボル」


「響」


「ダボル・ベートガンーーーーーーーーーーッッッ!!!」


「響・元導ォーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!」



相対する2人の拳

過去も未来も


全てを振り切り


拳は


激突する


















「…なぁ、響よ」


「何や?」


「俺を…、殺すか?」


最早、廃墟と呼べる物ではなくなった工場

何も無い、ただ平らな野原に横たわるダボル

その隣で煙草を吸う響


「…お前は敵やない」

「仇や…、ないんや」


「…」


「お前は強者を求める狂者や」

「ほなけど、違うねん」


「…何が言いたい?」


「今は違う、って事やろ」

「あん時は選択肢がなかった」

「ほなけど今は…、ある」


響はダボルに煙草箱を投げつける


「生きろや」

「その煙草は…、選別や」


「…選択、か」

「もしも…、俺が」

「あの時、キースを見捨てなかったのなら…」

「何か…、変わっていただろうか」


「何にも変わらん」

「過ぎた事…、グダグダ言うなや」

「ワイ等は生きとるねん」

「今、生きとるんや」

「常に未来へと歩かなアカン」

「…進むしかないんやで」


「…そうだな」


ダボルは箱から煙草を取り出し、口へと運ぶ

ライターで火を付け深く吸い込み、ため息混じりに白煙を吐き出す


「…ワイは、もう行くわ」

「ほなな」


「…響 元導」

「キースの妻子に…、伝えてくれ」


「何や?」


「ありがとう」

「そして…、すまない、と」


「…」


少しだけ微笑んだ響は手を上げ、左右へ揺らす


「…[鬼]か」


煙草の吸い殻が風に流され、空へと消えていく


「随分と…、優しい[鬼]だ」




読んでいただきありがとうございました

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