憤怒の雅堂
コッ…、コッ…
高層ビルの最上階に響く靴の音
男は服を直し、首をならす
「蒼空…!!」
男の背後には無残に倒れた蒼空
男の一撃を腹部に直接受け、腹に風穴が開いた
それからピクリとも動かない
「死んでは居ない」
「腹に穴は開いているが、出血はしていないのでな」
「血肉が腐る前に手当てすれば間に合う」
「貴方…!何者!?」
「陳腐な人間だよ」
「貴様を殺すだけのな」
「そうやってレットラも…!!」
「奴の能力は中々だった」
「軍に入れば、そこそこの地位には就けただろうに」
「愚かだな」
「…愚か?」
「愚かなのは貴方達でしょう!?」
「あの事件も!貴方達が!!」
「あの事件?」
「…あぁ、お前達が裏切る原因になったアレか」
「貴方達、軍が!私の家族を…!!」
「…それだけか?」
「貴様はそれだけの理由で軍に刃向かっているのか」
「それだけ…?」
「貴方は…!家族や友人は居ないの!?」
「大切な人は!!居ないの!?」
「…あぁ、居る」
「いや、居た」
「…!?」
「無駄話が過ぎたな」
森草に男の手が置かれる
「生命の…」
ブチッ
何か、チュ-ブの様な物が千切れた音
「…が」
それと同時に森草の目の前が赤く染まる
「がぁああああああああ!!」
突然、悲鳴を上げる男
「あっっがぁあああ…!!」
「っっがぁあああああああ!!!」
無い
男の右腕が
「ひっ…!!」
「にぃいいいいいいおおおおお!!」
「何をしたぁああああああああ!!女ぁあああああああああああ!!!」
男の狂ったかの様な表情に圧倒され、森草はただただ首を横に振るしかない
「…」
「あ…」
「蒼空!!」
「かっ…!?」
森草と男の眼に入ったのは蒼空
だが
「…蒼空?」
違う
何かが
違う
「…」
口を閉ざし、手をぶら下げ、眼は虚ろ
「蒼空ァ…!!」
「まさか…!貴様…!!」
ヒュンッ
蒼空が腕を振り上げる
「?」
ドシュッ
森草の横に崩れ落ちる男
腰から首にかけて大きな切り傷
「がはっ…!!」
「蒼空が…、やったの…?」
「クソが…」
男が傷に手を当て「拒絶」と呟く
「まだ早いだろうが…」
「え?」
「コロス」
「貴様はまだだ」
「コロス」
「眠れ」
「コロス」
「また失いたいのか」
「コロス」
「…無駄か」
「コロス」
「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス」
コロス
まるで取り憑かれたかの様にその一言を繰り返し続ける
ビチャ
(右腕は消し飛んだ…)
(左腕は動くが…、ほぼ使い物にならん)
(傷は…、内臓が3つ程逝ったか)
ガッ!
男の首に手を掛ける波斗
ギリギリギリギリギリギリ!!
「かっっはっ…!!」
「コロス」
「蒼空!!」
叫ぶ森草
ぐるん
蒼空の首が奇妙に回り眼が合わさる
「コロス」
メギメギと不自然な音を立て、蒼空の手が森草へと向く
「コロ」
ゴッッ!!
「カッ」
ドタァアン!!
「大丈夫か、森草」
「雅堂…?」
「雅堂!!」
「状況が飲み込めねぇが…」
「どうなってんだ?コリャ」
「コロス…」
「…五眼衆か」
「あの蒼空とか言う奴だな」
「それに、そこで虫の息なのは…」
「…傑作だな」
「殺すか?」
「テメェを?笑わせんな」
「そんなナリでも俺ぐらい殺せるだろ」
「コロスッッッ!!」
「…狂ってるか」
ゴッ!!
「動きが単調」
「コレじゃ暴走した単細胞共と変わらんぞ」
「カハッ…」
「ただ…、殴った俺の腕がイカれてんのは何でだかな」
「まぁ良い、逃げるぞ」
「待って!雅堂!!」
「何だ?」
「蒼空が…!!」
「お前の友達か?」
静かに頷く森草
「アレを友達…」
「いや、まだ人と呼ぶのか」
「コロ…ス…」
「アレはもう人じゃねぇ」
「そうだろ?11人目」
「…懐かしい名だ」
倒れた男がぼそりと呟く
「憤怒の雅堂よ、貴様はどうするのだ」
「逃げるさ」
「昔からそうだっただろ?」
「…そうだな」
ガチャンッ
「エレベ-タ-も来たな」
「…」
「雅堂?」
「…レットラ」
ガラスにめり込んだ肉塊を嘆かわしそうに見つめる雅堂
「墓ぐらいは作ってやるからな…」
ウィ-ン
ガチャンッ
「11人目、後は任せるぜ」
「それ、壊れる前に止めろよ」
「…このザマを見てから言え」
「そうだな」
ハッハッハと陽気に笑う雅堂
ガタン
エレベ-タ-の扉が閉まる
「コロスッッッ!!」
ドゴンッッ!!
波斗の腕が扉を突き破り、破壊する
「コロス!コロス!!コロス!!!」
壊れた扉を何度も何度も殴りつける
だが、次第に扉の破片ではなく波斗の血が飛び散りだす
「…もう限界だろう」
「止まれ…」
「コロッ…」
ドサッ
波斗がその場に崩れる
「…情けないな」
グチャッ…
無残に潰れた腕と足
腕は片方無く、腹は斬り裂かれている
「人の事は言えんか…」
読んでいただきありがとうございました