[破壊屋]の親友
斥力
それは重力と相対する存在
重力が引っ張る力ならば
斥力は反発する力と言った所である
「ワイがバイクでお前を追っとった時は地面の岩石を斥力で分解」
「地面と岩の間に斥力を発動させたな?」
「…正解だ」
「後は岩を俺自身から反発させ、お前に飛ばせば良い」
「だが…、どうして解った?」
「簡単や」
「攻撃と防御を両立する念力系統なんざ、無い」
「その上、速度まで上げるっつーおまけ付きや」
「少なくとも…、何か別のモンや、って踏んだねん」
「案の定、念力系やなかった」
「特殊系や」
「…恐ろしい男だ」
「たったアレだけのやりとりで見抜いたのか」
「[鬼]を侮るなや」
「お前の舌ぶっこ抜いて」
「爪ぇ引っこ抜いて」
「脳みそ抉り出しても」
「満足せぇへんぞ」
「だが、所詮は能力を理解しただけの事」
「それだけならば、こちらもオープンに能力が出せる」
「短所も見抜いとうで」
「お前の力は一方向にしか効果が無い」
「そうやろ?」
「短所ではない」
「長所だ」
「見栄やな」
「能力の方向性が解ったら…」
「関係ないんだよ」
「俺の能力には」
「…何やと?」
「どうして、俺の2つ名が[破壊屋]か…、解るか」
「理由は至って単純」
「能力故に」
「強さ故に」
「戦法故に」
「故に、故に」
「俺は[破壊屋]だ」
メキメキッ
「斥力」
「単純な力だ」
「単純、至極、単純」
「単純故に強い」
ダボルはサングラスを外す
「1が全ての数を構成しているように」
「原点となる物は応用が全てに利く」
「無論、この力が原点だと自惚れては居ない」
「去れども、この力は近い」
「果てしなく、原点に」
灰色の眼
それは響を睨んでいるワケではない
ただ、見つめている
何か、遠くの
近いが故に遠い
何かを
「…響 元導」
「やはり、アイツに似ているな」
「…あ?」
「キース・ジャスミン」
「元[守護神]にして、属性系の土系の能力者」
「何を…」
「俺の親友だった男だ」
絶句
「…っあ」
嘘
この男の虚言
「馬鹿で」
「愚直で」
「愉快で」
「最高の友だった」
違う
本当だ
眼が語っている
真実だ、と
「…っで」
「何で!お前が!!!」
「何でお前が知っとるねん!?」
「あの人は軍の人間やぞ!!!」
「お前は反軍勢力の一角!ハデスの一員!!!」
「何で…!!」
「親友だからだ」
簡潔
「…ッ!!」
然れど、真実
「お前は、どうなんだ」
「弟子なんだろう」
「お前から見た奴は」
「どうだったんだ」
何も間違っていない
この男の言っている事は真実だ
「何で…!!」
「否定したい気持ちは解る」
「奴を殺したのは俺だ」
「ッッッ!!!」
「護るために」
「奴は死んだ」
「…は?」
「愛する者達を護るために」
「奴は死んだんだ」
数年前
ロンドン郊外
「おい、小娘」
「とっとと歩け」
「は、はい!」
商店の並ぶ道には幼きヘルンと若きダボル
(ったく、何で俺がこんな餓鬼の面倒を見なきゃならねぇんだ…)
(ワースもココルも面倒臭がりやがって…)
(…煙草が吸えねぇじゃねぇか)
ドンッ
「きゃっ!」
「うぉっ!?」
通行人と衝突するヘルン
彼女の持っていた荷物からリンゴが転がり落ちていく
「…何、余所見してんだ」
「だ、大丈夫か!?君!!」
「うぅ…」
「あぁああ!リンゴがぁ!!!」
「あぁ、構わねぇよ」
「この餓鬼が勝手に…」
「あ」
「あ」
「…」
「…」
「[破壊屋]?」
「[守護神]?」
「…」
「…」
ガシッ
「逃げるぞ!!!」
「え?え?」
「逃がすかぁああああああああ!!!!」
酒蔵
「はぁ…、はぁ…」
「やっと逃げられたか…」
「…い、今の人は?」
「…キース・ジャスミン」
「[守護神]っつー、厄介な相手だ」
「お、オジサンでも勝てないんですか?」
「…野郎とは因縁がある」
「何度か戦ったが、未だに本気を出してねぇんだ」
「そうなんですか…」
「それと、[オジサン]はやめろ」
「俺はまだ17だぞ」
「そ、そうなんですか?」
「人を見た目で判断しちゃ駄目だぜ?お嬢ちゃん♪」
「「!!」」
「キース・ジャスミン…!!」
「よぅ、[破壊屋]」
「くっ…!」
「おいおい、逃げるな」
「別に戦いに来たんじゃねぇんだ」
「…何?」
「今日は休みでな」
「そろそろ、娘が誕生日だから買い物に行こうとしてた所だ」
「…俺を捕縛しないという理由は?」
「その子」
「?」
「…コイツがどうした」
「娘の前で父親の無様な姿なんて見せたくねぇんだ」
「父親じゃねぇよ!!」
「えっ、そうなのか?」
「この餓鬼は一時的に俺が預かってるだけだ!」
「別に親子なんてモンじゃねぇよ」
「…誘拐に手を出したのか」
「「預かった」っつってんだろうが!!」
「蔑む目で見るんじゃねぇよ!!」
「何だ、そうなのか」
「…で、だ」
「ちょっと付き合えよ」
「はぁ?」
「娘の誕生日プレゼントだが…、何を選んで良いか解らなくてな」
「その子の意見を聞きたいんだ」
「わ、私ですか?」
「駄目だ!ヘルン!!」
「罠の可能性が…!」
「今すぐ捕縛しても良いんだぜぇ~?」
「こ、コイツ…!!」
「わ、解りました!」
「その代わり、見逃してくれるんですね!?」
「おう、約束は守るぜ」
「…はい」
「くっ…!」
「俺も着いていくぞ!!」
「あぁ、うん」
「勿論な」
「え…」
第一印象は適当なオッサン
金色の髪と眼
顎の無精髭
服装は軍支給のそれだが、腕をまくり上げている
短い咥え煙草と腕の[Guardian]の文字
コイツが[守護神]
キース・ジャスミン
今までも何度か戦場で会っていた
戦闘しても、奴はひょうひょうと躱すのみ
相手にすらしてないのだろうか
だが、コイツと面と向かって話をしたのは、この日が初めてだった
俺を変えたのも
この日だった
読んでいただきありがとうございました