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秋鋼  作者: MTL2
195/600

ヘルンの過去

私は女として生まれた


大企業の跡取り息子でない事は悔やまれたけど

それでも、両親は私が生まれた事を喜んでくれた


ピアノでも


作法でも


勉学でも


私は常に頂点だった


両親は喜んでくれたし、私もそれが嬉しかった



両親は忙しい人達だった

遊ぶことなんて出来なかったし、話を出来ない日の方が多いぐらいだった


でも、居てくれるだけで充分

充分すぎるほどに私を愛でてくれた


大好きなパパとママ





6歳の誕生日


パパの帰りが遅い


早く帰って来て欲しい、と願った

すると、車の中でハンドルを握るパパが見えた

渋滞に捕まっているようだった


「どうしたのかしら、あの人」

「今日はヘルンの誕生日なのに…」


「ママ!パパは渋滞で帰ってこれないんだよ!」


「そうかしらねぇ…」


ガチャッ


「失礼します、奥様」


「どうしたの?」


「旦那様からご連絡でして」

「「渋滞に捕まってしまい、帰れそうにない」…、との事です」

「しかし、明日も休みが取れたそうですので「パーティは明日に変更する」と」


「あらまぁ!」


「…どうかなさいましたか?」


「この子の予想が当たったわ!」

「凄いわね」


「えへへ~♪」


その時、ママは偶然だと思ったのだろう


私も、何か不思議な偶然だと思った






「ママー」


「どうしたの?」


「パパがね、頭抱えてるの」

「ルミアーノ証券がどうとかって…」


「あら、それはあの人が悩んでた取引相手でしょ?」

「…確か、良い噂を聞かないわね」


「ママ…?」


「…メイド!今すぐあの人に連絡して!!」

「取引は中止!ルミアーノ証券を詳しく調べるのよ!!」


「承知しました」










「本当に助かったよ!!」


「やっぱり詐欺師だったのね…」


「いや、危なかった」

「危うく会社を傾かせる所だったよ」

「でも、どうして解ったんだい?」

「君には言ってなかったと思うけど…」


「ヘルンには言うのね!」


「え?」


「ヘルンが言ってくれたのよ」

「あの子が言わなきゃ、私達は路頭に迷ってたかも知れないのに…」


「私はヘルンに言ってないぞ…?」


「…え?」



「きゃぁああああああああああああああ!!!」


「「!?」」


「目が…!痛いよぅ…!!」

「目がぁ…!!!」


「ヘルン!?どうしたの!!」

「ヘルン!!」


「い、医者だ!」

「すぐに医者の手配を!!」


「は、はい!!」






「…私達も尽力しましたが」


「そんな…!!」

「ヘルンは光を失って生きていくの!?」


「な、治す方法は!?」

「無いんですか!!」


「原因すら不明なのです…」

「薬質的な物でも、病原的な物でもなく…」


「っ…!!」


「ママ…、パパ…」


「「ヘルン!!」」


「私…、大丈夫だよ…」

「大丈夫だから…」


「ヘルン…!」


「喉…、乾いたの」

「そこのお水取って…」


「あ、あぁ!ほら」


「ありがとう…」


ゴクゴクッ


「美味しい…」


「そうか…」


「…ねぇ、貴方」


「何だ?」


「ヘルンは目が見えないのよね…」


「…あぁ」

「これからは俺達が支えていこう」

「目が見えなくても生きていけるさ!」


「違うわ!」

「目が見えないのなら、どうして…」

「そこに水が有るって解ったの…?」


「…え?」



その日から、ママは私を避けるようになった

愛娘を見る目では無く

化け物を見る目で



「ママ!」


「な、何?ヘルン」


「絵、描いたの!」

「上手?」


「っ…」

(目が見えてないのに…!!)


「ねぇ、ママ」


「触らないで!!」


パンッッ!!


「きゃっ!」


「お、奥様!!」


「はぁ…、はぁ…」

「化け物っ…!!」


バタンッ!


「ヘルン様、大丈夫ですか?」


「痛いよぅ…、痛いよぅ…」

「ママぁ…、どうして…」





ガタンッ!


「どういう事だ!!!」


「っ…」


「どうしてヘルンを殴った!?」


「だって…、気持ち悪いんですもの」

「目が見えてないのに…」


「お前…!!」

「ヘルンは!確かに視力を失ったさ!!」

「だがな!あの子は化け物なんかじゃない!!」

「気持ち悪くなんかない!!」


「でも…!」


コンコンッ


「…今は取り込み中だ」

「帰れ」


コンコンッ


「諄いぞっっ!!」


ガチャッ


「いやはや、失礼」


「…誰だ」

「屋敷の者では無いな?」


「私、ある組織の使いの者でして」

「お嬢様を連れて行きたいのでございます」


「…何?」


「私達はお嬢様の奇っ怪な能力を扱う組織でしてね」


「ヘルンを渡すと思うか!?」


「い、良いじゃない!渡しましょうよ!!」

「あの子は…!」


「お前は黙ってろ!!!!」


「…何よ」

「化け物よ!?」

「化け物が!この家に…!!」


「ママ…?パパ…?」


「へ、ヘルン…」


「おやおや、お噂通り」


「この人…、誰?」

「どうして屋敷の皆が倒れてるの…?」


「「!?」」


「千里眼に似た能力ですね…」

「素晴らしい!」

「神無総督が欲しがるワケですね!」


「ヘルン!隠れておきなさい!!」


「ぱ、パパ…」


「残念ながら、拒否権は無いのですよ」


「くっ…!」


ガタンッ!!


「出て行け!」


「危なっかしいですね…、銃ですか」

「何、急ぐ事はありません」

「ですが…、答える権利はないのですよ」


ギィイイイ…


「失礼します」


バタンッ




「何だったんだ…、アイツは」


「どうして渡さなかったのよ!?」


「頭を冷やせ!」

「ヘルンは化け物じゃない!!」


「っ…」


「パパ…、ママ…」

「ケンカしないでよ…、お願い…」


パパ


ママ


ケンカしないで






パパが自己に遭った


トラックがパパを乗せた車に正面衝突したのだ

運転手は即死

パパも危険な状態だった


「アンタのせいで!!」


ママが変だ


私を殴る


痛いよ、ママ



「どうして…、あなた…」


ママ、どうして泣くの


「触るなッッ!!」


痛いよ


どうして殴るの?



ママ


ママ


ママ




ママが入院した


精神が狂ってしまったらしい


会社は別の人が受け継いだ


私は書類の手続きが終わると追い出された


私は鍵


両親の貯蓄庫を開けるための鍵


開けたら用済み


だから、私は追い出された



公式に行方不明と発表されたのは最近

もう、私は完全に用済みなんだろう


風の噂ではパパもママも回復に向かっているそうだ


良かった


でも


私に返る場所は無い



無い





「会いたくないの?」

「もう一度、家族に」




会いたい?

私を殺そうとした人達に?



「でも、愛してる」


違う

愛してなんかいない



「愛して…!なんか…」


「…じゃぁ、どうして泣くの?」


「っ!」


「その涙が何よりの証拠だよ」


「私は…!!」

「会いたい…!また…!!」

「パパと…!ママに…!!」


「それが、本音でしょ?」


「…はい」


『両親は死んだよ』

『病院に居るのは人形♥』


「…えっ?」


グシャッ


馬常の服が赤く染まる

ヘルンの腹を貫いた銃弾が生々しく肉を裂いている


「…ヘルン?」


『敵に魅入る馬鹿めが』

『だから[お嬢様]なんだよ』


「…[人形師]」


『テメェも甘いね?』

『そんなカスを、さァ!!』


「…」


ゴゥン…


『…恐ろしいねェ』


人形師を囲む鉄骨

純然たる殺意の元に馬常は手をかざす


「許されると思うなよ…」


「待て」


「!?」


「俺の役目だ」


「…雨雲」


『ククク…、来たね』

『人形共ォ!!』


「キケケケケケッッ!!」


雨雲へと飛びかかる3体の人形


キンッ


『…え?』


刀身すら見せず


人形達は卸される


『…面白い』


「来い、[人形師]」

「貴様は刀の錆にすらしない」

「塵の欠片すら残さず」

「斬る」




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