馬常VSヘルン
住宅街
パキィンッッ!
「効かないよ…」
「硬い肌ですね」
パシンッ!
地面に鞭を打ち付けるヘルン
馬常は能力によって皮膚を硬化し、ヘルンの攻撃を防いでいる
「鞭程度じゃ、俺の能力は敗れないかなぁ…」
「…では」
「コレならばどうでしょう?」
ボゴンッ
「?」
馬常の周囲が暗い影に覆われる
「何?」
「上ですよ」
「上?」
直径5mは有りそうな石盤
「…えー」
ドゴォンッッッッッッ!!!!
「…終わりです」
ヘルンは腰に鞭を仕舞い、深く息を吐く
「…私は違う」
「[お嬢様]なんかじゃない」
「私はハデスの1人」
「[盲目]のヘルン・コロネア…!」
「コロネアってさ…」
「あの大企業だよね」
「!!」
「ITだっけ…?」
「生きていたのですか…!」
「あの程度で死んでちゃ、ね…」
馬常は石盤を傘で砕き、破片を払う
「貴方の能力は皮膚を砂鉄で覆い、防御力を上げること…!」
「ですが!あれ程に巨大な石盤なら防げないはず!!」
「その見解は正解だよ」
「半分は」
「半分!?」
「…周り、誰も居ない?」
「?」
「居ないかな?」
「…私達以外は誰も」
「監視カメラとかは?」
「有りませんよ」
「それが…、何か?」
「俺の能力はバレたら面倒だから」
「…何故?」
「ほら、軍って無許可での能力強化とかって禁止してるでしょ?」
「そういう…、事ですか」
「うん」
「個人的に能力強化してみました」
「…ですが」
「基礎的には能力強化すれば能力発動条件のリスクも高まるはず」
「貴方ほどの能力…、発動条件も高度でしょう?」
「そんな高度じゃないよ?」
ペリペリペリ…
馬常は首に巻いてある汚れた包帯を外す
「っ!」
包帯の下には切り傷
ヘルンが付けた物ではなく、もっと鋭く深く切れた物
「膿んでるでしょ?」
傷は黄土色に膿み、生々しく、痛々しくなっている
「その傷は…!?」
「俺の能力発動条件は体内鉄分を体外へ流出すること」
「だから、頸動脈を部分的に切って鉄分を常に出してるんだよね」
「いつでも能力が使えるように…、さ」
「何て生々しい…!」
「その分、排出量が増えれば増えるほど能力も強力になる」
「…どうして」
「どうして、私に能力発動条件を?」
「…」
「能力者同士の戦いの場合、発動条件を知られる事は敗北に繋がる事もあります」
「それを自ら教えるなど…」
「…えっとね」
「研究者の性って言うのかな」
「性…、ですか?」
「俺は元研究者なんだよね…」
「だから…、知りたいんだ」
「何をです?」
「多分、だけど」
「能力ってのはさ、目に見えないエネルギーが起こした反応だと思うんだよね」
「…?」
「そのエネルギーを呼び起こすのが発動条件」
「発動条件によって能力は起こる」
「ここまでは合ってるでしょ?」
「何が言いたいのです?」
「せっかちだなぁ…」
「…で、今の理論で疑問が生まれるんだよね」
「[無能力者にエネルギーは無いのか?]」
「[また、能力者1人1人、能力系統、能力によって能力は違うのか?]」
「それが、どうしたと言うのです!?」
「…大企業の[お嬢様]には難しかった?」
「解りやすく話しと思…」
バチィンッッッッッ!!!
馬常の足を激しく叩き付ける鞭
彼は能力を発動しているのだから、ヘルンの攻撃が効くわけでもない
しかし、それはヘルンも承知のはず
「…何?」
「私は[お嬢様]などではありません…!」
「…IT大企業の娘さんでしょ?」
「あの様な腐った所の娘じゃないっ!!!」
「…腐った?」
「それは会社の事?」
「それとも、ご両親の事?」
「…両方ですよ」
パシィンッッ!!
「…っ」
鞭の威力が増してる…?
「貴方も…!どうせ同じ…!!」
「…ねぇ、知ってる?」
「何をです!?」
「人の話は最後まで聞く物なんだよ」
ドスッッ
「ッ!!」
ヘルンの右足を貫く鉄棒
「先刻の続きね」
「[俺の能力は鉄分の流出]」
「[それは他人の血でも可能なのか?]」
「まさか…!」
「貰うよ、君の血」
「させなっ…!」
ガクンッ
(足が…!!)
ぐりっ
「きゃぁああああああああああああ!!!!」
「少し静かにしてくれるかな」
馬常はヘルンの傷を抉り、血を絞り出す
「くっ…!!」
「はい、没収」
鞭を奪い取り、遠くへ放り投げる
鞭は瓦礫の下へと転がって行く
「鞭が…!!」
「どうするの?」
「血だけじゃなく…、頭も失ってみる?」
馬常はヘルンの両手を膝で押さえ、馬乗りの形となる
「私は…!屈しない!!」
「誰にも!!」
「…馬鹿だね」
馬常は腰のポーチを漁り出す
「…っ」
死ぬ
こんな形で
私は死ぬ
情けない
情けない、情けない
惨めだ
「化け物め」
「貴様の存在が私達を殺すのだ」
違う
私は化け物じゃない
気付いてよ、ママ
私は、こんな力を持ったけれど
貴方とパパの娘だよ
ママ
どうして
私を殺そうとするの?
気付いてよ
ねぇ
2人とも--------
ギュッ
「痛っ…」
「あ、痛かった?」
「ごめんね」
「…何を」
「何、って」
「傷の手当て」
「ど、どうして…」
「死なれちゃ困るし」
「…情報を吐かせるためですか」
「吐かないでしょ?」
「当たり前です!!」
「…単に情け」
「目の前で死なれちゃ目覚めが悪い」
「敵の情けなど…!」
「会いたくないの?」
「もう一度、家族に」
「…会いたいと思いますか?」
「私を迫害し、殺そうとした人達に」
「でも、愛してる」
「っ!?」
「そうなんでしょ」
「ど、どうして、そんなことが…!」
「…解るから、さ」
「俺と君は似てるよ」
「似ている…?」
「…家族から迫害を受けた」
「でも、君は間に合う」
「まだ戻れる」
「…どういう事ですか」
「…一時期の激情に身を任せちゃ駄目、って事だよ」
「後悔しても…、遅いから」
「…まさか、貴方は」
「…家族を殺すのは」
「辛いよ」
読んでいただきありがとうございました