覚醒
「どうした?先刻の意気込みは何処に行った」
「失せるだろ…、普通」
陥没した地面
道路を覆い尽くす壁
波斗は先刻より猛攻を繰り返していた
壁により相手を一定地点まで誘導
その後、地面を陥没させる
つまりは即席の落とし穴とでも言えるだろう
単純で馬鹿げている様だが、波斗の能力を持ってすれば立派な戦術になり得る
だが、バムト相手には無意味
「まだ能力すら使ってないんだがな」
全ての岩を拳で砕き
全ての壁を無意味とする
その強さは最早、規格外
「…お前、何を知ってるんだ」
「俺の何を知ってる!?」
「言っただろう」
「俺を満足させてみろ」
「そうすれば教えてやる」
「無理だろ…!」
「諦めるならば諦めれば良い」
「真実を知る機会は永遠に無くなる」
「それだけだ」
「っ…!!」
バチィイイイイイインッッ!!
「壁…」
「また落とし穴か?」
「あぁ!そうだよ!!」
ボゴンッ
「芸の無い奴だ」
前方に飛び移るバムト
「少しは芸を増やせ」
「芸は少なくてな…!」
「落とし穴の前に落とし穴を作るしか能が無いんだよ…!!」
ボコンッ
「おっ?」
陥没するバムトの足下
(広いーー…)
1つ目の落とし穴とは比べものにならない程の範囲
左右前後、逃げ場は無い
ドスンッ
「…で、どうしたいんだ」
深い穴の中から上を見上げるバムト
穴からは煙草の白煙だけが立ち上っている
「どうだ!?」
「いやいや、蒼空 波斗よ」
「この程度か?」
「…出られないだろ」
「まさか」
ドンッッ!!
「簡単に出られる」
「だろうな」
バムトの鼻先に触れる鋭利な物質
「…ほぅ」
まるで、ハリネズミのように
穴の出口には大量の先鋭物が配置されている
「アンタを落とし穴程度で仕留められるとは思ってない」
「落とし穴は囮だよ」
「…で?ここからどうする」
「俺が能力を発動させれば、お前は風穴だらけだ」
「勝負は付いた」
「…無知、だな」
「何?」
「こんな物は無意味だ」
「虚勢だな」
「やってみるか?」
「アンタには情報を吐いて貰わなきゃならない」
「殺さねぇよ」
「無意味だ、と言っただろう」
「…」
「試してみるが良いさ」
「…っ」
「…所詮は小僧か」
「人を殺す勇気すら無い」
「いや、誤釈かな」
「人を殺すには勇気など必要ない」
「…何?」
「簡単な話だ」
「包丁を持て」
「相手の首に突きつけろ」
「腕を前に出せ」
「ほら、殺せた」
「何を…」
「俺達もそうだ」
「[包丁]を持っているのだから」
「後は[突き出す]だけで良い」
「…?」
「理解力が乏しいな」
「う、うるさい!」
「…蒼空 波斗」
「お前は[力]を持っているんだぞ」
「どうして使わない?」
「はぁ?」
「…何だ、知らないのか」
「小僧と雅堂は何をやっている…」
「…祭峰も、だが」
「いや…、何より行動を起こさなければいけないのは奴だと言うのに」
「何を言ってるんだ…?」
「…今のお前では相手にならないな」
「[お前]では」
バムトの右腕に[黒紋]が広がっていく
「だから…」
「[黒虚]
ボゴンッ
「…え?」
びちゃびちゃびちゃっ
「足掻いてみろ、蒼空 波斗」
「がっ」
びちゃんっ
えっ?
何が起こったんだ?
目の前が真っ赤に染まっていく
手足の感覚が消えていく
腹が熱い
何だ?
何で俺の腹に穴が開いてる?
無い
アバラも
ヘソも
内蔵も
無い
ベチャッ
波斗は血の海に沈む
真っ赤な血の海に
「かっ…、あっ…」
精密機械のように細かく痙攣する体
どくどくと腹だった場所からは血が溢れ、海を大きくしていく
「…」
バムトは無感的に、その光景を見下ろす
「…今のコイツでは俺は疎か、そこらの雑兵でも相手に出来ない」
「目覚めるべきなんだよ、コイツは」
ボロッ…
バムトの吸っている煙草から吸い殻が血の海に落ちる
「お前も、いつまで[傍観者]で居るつもりだ?」
「まだ[時]ではない」
「だが、[時]は動き出しているぞ」
「…」
「…っ」
「切りやがった」
「ったく、昔から変わらないな…」
ゴキンッッッ!!!
ガシャァアアアアアアアアンッッ!!!
「ぐがっ…!!」
窓を突き破り、バムトはビル内へと吹き飛ばされる
「ぐっ…!!」
「[覚醒]するのが速いな…!!」
パリンッ
「…流石だ」
バムトの前に立つ人影
「蒼空 波斗」
「それが[力]だ」
無を映したかのような目
腕はだらしなく垂れ下がり、体も前のめりになっている
「あぁあああああああああああああああ」
「…小僧はコレにやられたのだったな」
バムトは肩に着いたガラスの破片を払い、立ち上がる
屈伸し、腕を左右に伸ばし体を慣らしている
「さて、俺も気は抜けないか」
ズズズズズズ…
[闇紋]が全身に広がっていく
バムトの両目は黒く染まり、両腕には[闇紋]が刻まれる
「…コロス」
「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロコロスコスコロココロスコロスススコロスコロコロコロ!!!」
「コロスコロスコロスコロッッコロス!!」
とても[人]と呼べる物ではない
[発狂した化け物]
かつて、No,1と対峙したとき以上の状態
腹の傷は塞がっており、無傷に等しい
「それが[力]だ、蒼空 波斗」
ゴッッッッッッッッッッッッッッ!!!
バムトの顔面に波斗の拳が直撃する
「っっっっっっっっっっっがぁッッ!!!」
ドゥンッッ!!!
バムトの拳撃が波斗の顎を砕き割る
「アァアアアアアアアアアア!!!」
ベキベキベキベキッ!!
「恐るべき再生力だッッッッッッ!!!」
「だが、コレに耐えられるか!?」
「[闇滅]!!!」
掌に凝縮される闇
深淵を模したかのように深く、黒い
「喰らえッッッッッ!!!」
それは一片の迷いも無く、波斗の顔面へと突かれる
「クァッッッッ!!!」
バチィイイイイイインッッ!!!
「…何?」
ゴッッッッッッッッッ!!!
「ッ!」
ドォンッッッ!!
「がぁっ!!」
ビルの柱へと叩き付けられるバムト
柱は陥没し、バムトは壁へと埋まる
「フシュウゥウウウウウウーーーー…」
波斗は拳を鳴らし、息を吐く
「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス…」
ガァンッッ!
「全く…」
瓦礫を蹴飛ばし、柱から身を乗り出すバムト
波斗の姿を見て、確信した
あぁ、コイツは[希望]だ
だが、同時に
[絶望]なのだろう、と
読んでいただきありがとうございました