迎撃開始
機械室
グゥウゥウン
グゥウウウウウウン
薄暗い機械室に鳴り渡るエンジン音
「…上等や」
「敵が攻めて来やがりましたね」
「急いだ方が良いですよ」
「あぁ、そうやな」
「…ゼイル、あんがとな」
「ワイの愛車も護符も絶好調や」
「…帰ってきたら」
「また、そのバイク弄らせてくださいね」
「おい、フラグ立てるとかやめぇや」
「貴方を待ってます」
「フラグやん、バッリバリやん」
「帰ったら…、結婚するんですよね」
「お前と、か?」
「えっ…?」
「冗談や!」
「小娘、大人を馬鹿にしぃなや!」
「し、し…」
「死ねぇーーーーーーーーーーーっ!!!!」
「がっはっは!」
ブゥンッ
「ほな、行ってくるで!」
「一生帰ってくんな!!!」
女子寮
「避難はこちらへ」
「僚艦殿」
「ソルナさんですか」
「お怪我はよろしいので?」
「えぇ、歩く事に難は有りません」
「避難は済みましたか?」
「大方は」
「耳を」
「はい?」
(非戦闘員は支部内のシェルターに避難させました)
(一般市民にはテロとでもお伝えください)
(畏まりました)
(私も警備として残りますが、この為体です)
(戦力としては期待しないでください)
(…はい)
ロンドン郊外
住宅街
「…」
無人となった住宅街を歩くヘルン
彼女の頭の中ではモルバに言われた言葉が延々と回っていた
『反論するのなら結果を見せるんだな』
『[お嬢様]?』
「…私は」
お嬢様なんかじゃない
家の決められたレールの上は走らない
お金も腐るほど持ってない
親の道具として生きては居ない
決して、[お嬢様]なんかではない
ヒュゥーーー…
虚しく響き渡る風音
ーーーーー…
ガキィンッッッ!!!
「…何で気付いたの?」
ギリギリと傘を強く握る馬常
「私は目が見えません」
「その代わりに、他の神経が発達していますので」
「音で気付いたんだ?」
「一定音である風音が乱れましたから」
「…へぇ」
キィンッ!!
ヘルンは馬常の傘を弾き、数歩下がる
「鞭、ね…」
黒くしなった鞭
馬常の傘を防いだ事から、通常のそれとは比べ物にならない程の強度と解る
「覚悟してください」
「貴方を倒します」
「倒されちゃ困るかなぁ…」
海岸線
「…さて」
静かに屈伸するバムト
向かい、120m程の橋を見つめ、小さく息を吐く
「出所後、初めての運動だ」
「…いや、脱獄後か?」
バムトの体に黒い紋章が浮かび上がる
「…[闇帝の右腕]」
体中の[闇紋]が彼の右腕へと集中する
右手は、とてつもなく邪悪な雰囲気を周囲に漂わせている
「[闇滅]」
刹那
あまりに一瞬
「まぁ、こんな物だろう」
バムトは満足そうに、その光景を見つめる
「…とは言え、力は落ちてるか」
自分を嘲笑うかのように、小さく笑う
彼の目の前では静かに海が波打っている
向かいの大陸を結んでいた橋は無い
原型は元より、残骸すら
在ったという事実を否定できるほどに
橋が在った空間を抉り取ったかのように
何も、無い
prrrrrr
『何だ?』
「あぁ、ダボルか」
「最後の橋を破壊し終えたぞ」
『…ご苦労』
『コレで完全にロンドン支部は孤立したな』
「あぁ、そうだな」
「俺は、これからどうすれば良い?」
『日本の軍本部から7人の援護が来ている』
『だが、少なくとも1人は戦闘不能の状態のはずだ』
『厄介なのは織鶴 千刃』
『元No,4だな』
「あー、あの小娘か」
「噂ぐらいは聞いている」
『それなら説明は要らないな』
『次に雨雲 卯月』
『コイツはモルバが「任せろ」と言っていたが…、一応は警戒してくれ』
「あぁ、解った」
『そして[鬼]だが…』
『…いや、コイツは良い』
「何故だ?」
『俺が相手だからだ』
プツッ
「…?」
中央通り
「…電話中やったか?」
「悪いのぅ」
バイクに跨がる響
ヘルメットのせいで表情こそ解らないが、明らかに滲み出ている殺気
「響 元導」
「[鬼]か」
「[鬼]やない」
「今は…、単なる[復讐者]や」
「復讐だと?」
「…お前が殺した[守護神]」
「キース・ジャスミン」
「覚えとるか?」
「…あぁ、覚えている」
「あの人の弟子やねん、ワイ」
「そうか」
「あの人には奥さんが居ってな?」
「ほりゃー、酷い悪女や」
「ほなけど、ワイの恩人やねん」
「ほんでな、ほの人に言われてん」
「お前を殺して、あの人の敵を取ってくれってな」
「そうか」
「ワイ、[鬼]言われてもなぁ」
「キースさんやフロラさんには敵わへんねん」
「あぁ、フロラって言うんはキースさんの奥さんの事な?」
「ほの人も[守護神]だったんやけど」
「そうか」
「ワイ程度に頼むや、よっぽどあの人の方が[鬼]やで」
「酷いと思わへん?」
「…いつまでも」
「下らない芝居に付き合いはしないぞ」
呆れたようにダボルは言い放つ
その一言に響も反応する
「…ほうやなぁ」
響はヘルメットの留め具を外し、ヘルメットを脱ぐ
「…良い顔だ」
その下には正しく[鬼]
怨恨と憎悪に埋め尽くされた[鬼]の顔
「すまんな」
「ワイ、こんなキャラちゃうねん」
言葉は軽々しい
だが、その表情と殺気
とても会話をしている[人間]の物とは思えない
「ほなけどな」
「お前だけには」
「抑えれそうにないわ」
響はバイクから降りる
真正面に向かい合うダボルと響
ダボルは直感した
この男が[鬼]と呼ばれたのは比喩でも、何でもない
[鬼]だから[鬼]と呼ばれたのだ、と
読んでいただきありがとうございました