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秋鋼  作者: MTL2
176/600

ソルナの過去

「身内殺しかいな」


「…あぁ、そうだ」

「師であり父であり家族である男を殺した」


「何でや?」


「…言わなければならないか」


「ワイも言うから」


「…良いだろう」

「別段、隠す様な事でもない」



神の代行者


それが私達、一族が掲げた大義名分

私達が住んでいたのは、名前が有るか無いか解らない町

そこそこ発展こそしていたが、腐っていた



12年前


名も無い町



ゴスッ!


「な、何をするんですか!?」


「テメェさぁ…、この肉の山」

「誰の?」


「そ、それは…」


「ウチの肉屋から盗ったんだろ?」


「ち、違います!!」


「証拠は?」


「証拠!?」


「ねぇんだろ?」

「じゃぁ、テメェが犯人だ」


「そ、そちらにだって!私が盗ったという証拠は無い!!」


「…ほう?反論するのか」

「じゃぁ、良いぜ」

「神様に聞こうじゃないか」


「…え」


村には掟があった

もめ事が起こった際、どちらも妥協しなかった場合

神が判断を下す



「代行者様」

「コイツがウチの肉を盗りやがったんです」


「ち、違います!アレは親類から貰った肉で…!!」


「…うるせぇよ」


酒を飲む大柄の男

だらしなく衣類を纏い、顎には無精髭が生えている


「で?神に判決を望むのか」


「へい!そうですよ」


「…1000gだ」

「用意しな」


「せ、1000g!?」

「そんな大金…!!」


「へっへっへっへ…」


ドサッ


酒を飲む男に肉屋は金の入った袋を渡す


「別に良いんだぜ?」

「コレでアンタが渡さなきゃ、アンタが悪だ」

「悪は…、断罪に処すぜ?」


「ひっ…!!」


「どうすんだよ?」


「わ、解りました…」


貧しい村だった

1000gなんて大金、普通は出ない

だから、人々は互いに盗みを働いた

肉屋は衣服屋から金を盗んでいた

村人の男は肉屋から肉を盗んで別の村で売っていた

衣服屋は村人の男の家から金を盗んでいた


悪循環


私は、そんな村で育った


「じゃぁ、審判を始めるぜ」

「[神は選択する]」

「[羊を盗みし旅人か]」

「[門番を殺しし旅人か]」

「[どちらを裁くかを]」

「[命の対価は同等]」

「[故に判決を下す]」


バチンッ


「…悪いのはテメェだ」


「わ、私ですか!?」


「その肉は肉屋のモンだろう?」

「盗人はテメェだよ」

「神様の審判だ」


「そ、そんな…!」


「やっぱりなぁ…」

「…代行者様、良いですかい?」


「あぁ、構わねぇよ」

「殺せ」


「い、嫌だぁあああああああ!!!」


バタンッ


罪人は村の中心で吊し首にされる

如何なる小さな罪でも、それが罪ならば


「…今日も儲かったぜ」


そんな村だ

罪人の溢れかえった村

代行者は、自然と頼られる

父は代行をする度に金を要求した

それも高額の


「おう!ソルナ!!」


だけど、俺はそれを傍観していた

まだ年端もいかない子供だったからじゃない


「今日も金が入ったぞ!」

「飯が食える!何が食いたい?」


父が俺には優しかったからだ

父は憧れるような人間じゃなかった

だけど、私の命を保証してくれる人間だった


「…ミアは?」


「…あ?」


ミア


この名前を出すと、父は決まって不機嫌になる


「…その名前を言うんじゃねぇよ」

「アイツは家族じゃねぇ」

「今じゃ、何処でのたれ死んでるか解らないような屑だ」

「何度言えば解る」


「…ごめんなさい」


ミア・キューブ

私の妹


「で、何が食いたいんだ?」


「…お肉」


「お、おぉ…」

「肉屋から貰った金で肉を食うか」


「うん…」

「…駄目かな」


「いーや!構わねぇぜ!!」

「じゃぁ、買ってくるから待ってろよ!!」


「…うん」




「…ミア」

「ミア」


「…お兄ちゃん?」


ミアは倉庫に居た

いつもいつも

俺と違って部屋は無い

あるのは薄汚れた倉庫だけ

痩せこけた体

ボロボロの衣服

乾涸らびそうな唇


「ごはん…」


「…ごめん」

「まだ、無いんだ」

「もうすぐ持ってくるから」


「…ありがとう」


「あぁ、後でな」


「うん…」



父が妹を嫌っているのは

母に似ているからだ


母は罪人


父を否定したという罪


2年前だ

母は父のやり方に異議を唱えた

ミアが生まれて、すぐの事だ


口論


父の暴力


首を吊られた母


覚えているのはそれだけ

その日から、俺はミアを育てるようになった

自分の食事を少しだけ取っておく

そして、ミアに分け与える

それが日課

父に見つからないようにするのが日課


そして、もう1つ


「飯ぃ食い終わったら、暫く休憩な」

「その後、呪言の練習だぞ」


「…はい」


俺は神の代行者の後継者だ

父から呪言を教わっている

人を騙して金を得る為に


「…ミア」


「お兄ちゃん…」

「ごはん…」


「ほら、今日は肉だ」

「いっぱいあるから、食え」


「ごはん…」


ガツガツガツッ


「…」


ミアは食うときは獣のように貪り食う

どれだけ、腹が減っていたのかなど想像も付かない



「俺の後に続いて詠唱だ」

「[神は選択する]」


「[神は選択する]」


「[羊を盗みし旅人か]」


「[羊を盗みし旅人か]…」


父から呪言を学び始めて数年

既に父は超えたと思っている


「流石!俺の息子だ!!」

「いやぁー!ここまで成長が早いとはなぁ」


「…ありがとう」


「がっはっは!照れるな照れるな!!」

「よし、じゃぁ今日は終わりだ」

「遊びに行くんだろ?」


「…うん」


「気を付けて行ってこいよ!」

「日が暮れるまでには戻るんだぞ!!」


「…うん」


父は罪人だ

人を騙す罪人

妹を苦しめる罪人


「…ほら」

「余ってた肉だ」


「美味しい…」


「そうか」


「…お外は」

「綺麗なの」


「あ、あぁ!綺麗だぞ!!」


ミアは体が弱い

充分に食べてないのだから当然だ


だから、倉庫からでれない


「外は綺麗だぞ」

「花や太陽が有ってな?」


「うん、うん」


ミアが嬉しそうな顔をするのは食事と俺の話の時

外の様子を聞くのが大好きらしい

出られないから、当然だ


「…私ね」

「歩けるんだ」


よたよたと歩くミア


「おぉ!立てるのか!!」


「うん…」


「また今度、一緒に花を見に行こうな!」

「太陽も!川も!!」

「見に行こう!!」


「うん…」


その翌日だった


ミアは父に見つかった




読んでいただきありがとうございました

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