甘さ
「…何だったんッスかね?」
「言っていただろう」
「協定だ」
「協定って言っても…」
「確かに俺等は最大反軍勢力とは言われてるッスけど」
「ハデスって言ったら、そこそこ有名ッスよね?」
「そうなのか?」
「知らないんだゼ」
「え?何それ」
(この人達は…)
「霊魅」
「何スか?」
「この死体を埋めてやれ」
「…埋めるんスか?」
「これは使い古され、原型こそ留めていないが…」
「ロンドン支部長の直属部下、[守護神]だった男だ」
「勇猛なる戦士には敬意を表すべきだろう」
「橋唐さんのそういうトコ、好きッスよ」
「…気色悪い」
「じゃ、裏にでも埋めてくるッス」
「…名前は刻むべきッスかね?」
「やめておけ」
「人形に名前などない」
「俺が敬意を表すのは、あくまで人形と化す前のコイツだ」
「人形に敬意など表さん」
「…複雑ッスね」
「埋めてきたッス」
「ご苦労だ」
「ちゃんと墓標は作ったッスよ」
「名前は無いけど」
「…それで良い」
「痛っ」
「ど、どうしたんッスか!?祭峰さん!!」
「まさか敵に…」
「爪、深く切り過ぎちゃった…」
「何でコイツがリーダーなんだ?」
「俺に聞かないでくださいッス」
旅館
菊の間
「卓球は引き分けだな」
「ですね」
「さて、鉄珠の仕事に卓球台代が加算されましたが…」
(擦り付けやがった…)
「…もう午後6時?」
「早いわね」
「本当ですね」
「楽しい時間が過ぎるのは早いというか、何というか…」
「だが!明日も滞在するのだろう!?」
「明日も遊べるの-!?」
「…そうでも無いのよね」
「「「?」」」
「実は軍本部に緊急招集かけられたのよ」
「全く!これじゃ軍勤務時と変わらない扱いじゃない」
「収集ですか?」
「そうなのよ」
「私と、もう1人」
「…誰にしようかしら」
「鉄珠は除外ですね」
「働いて貰わないと」
「その鉄珠は?」
「殺った貴方が言いますか」
「…テヘッ♪」
「と、なると火星か蒼空ですね」
「俺か蒼空君か…」
「…蒼空君なんて良いんじゃないか?」
「お、俺ですか?」
「良い経験になると思うよ」
「君は確かに色々な事を経験してきたが、まだ未熟だし」
「経験を多く積む事に損は無いと思うんだ」
「は、はぁ」
「…ま、火星の割には良い事言うわね」
「波斗で決定!」
「はい…」
(決定した…)
「では!お前達は明日、帰るのだな!!」
「まぁ、そうなるわね」
「帰るというか、軍本部に直行だけど」
「では、我らは残って楽しむとしよう!!」
「海水浴もまだなのでな!!」
「はいはい、楽しんでらっしゃい」
「波斗、荷造りしときなさい」
「は、はい!」
ガララ
ピシャンッ!
「…火星のくせに気が利いてるわね」
「ありがとよ」
「む!?どういう事だ!!」
「…遠ざけたかったんだろう」
「起きた?雨雲」
「2日酔いも回復した」
「もう大丈夫だ」
「それは何よりね」
「何を蒼空から遠ざけたかったのだ!?」
「…ま、難しい話になりそうだし」
「彩愛」
「はい」
「楓ちゃん、別室を取ってますから、そこで寝ましょう」
「えー!」
「早く寝ないと明日は遊べませんよ?」
「ぅ~」
「…寝る」
「良い子ですね」
「寝ましょう」
ガララ
ピシャンッ
「で!遠ざけたとは何だ!?」
「霊魅でしょ?」
「…あぁ」
「蒼空君の頭からいち早く彼の記憶を消したいんだ」
「何故だ!?」
「敵なら覚えていた方が良いだろう!」
「違うわね」
「敵で共闘関係に在ったからこそ、よ」
「何故だ!?」
「一時的な関係だっただけだぞ!?」
「それでも彼にはダメージが大きい」
「彩愛の話だと、随分と入れ込んでいたみたいだし」
「…蒼空は俺達のように場数を踏んでいない」
「[一時的]な共闘でも感情を移入し過ぎるんだろう」
「単純的に言えば[甘い]」
「人としては立派で正常でも…」
「戦場に置いて、それは命取りだ」
「今、波斗にそれを学ばせるのは速いわ」
「だからこそ、別の場所に身を置かせて意識を逸らさせるのよ」
「ふむ!なるほどな!!」
「だが!良いのか!?」
「何が?」
「万が一!次の戦場で奴が再び現れ、蒼空と接触したらどうする!?」
「…まぁ、それは無いでしょ」
「事前の参考資料が届いてたんだけどね」
パラッ
「…[切り裂きジャック]?」
「[ハデス]?」
「そうよ」
「祭峰側とは別組織なの」
「その、切り裂きジャックがボスなのか?」
「いいえ、コイツはボスじゃないわ」
「エースってトコかしら」
「エースか…」
「…切り裂きジャック?」
「ナイフ使いのね」
「興味有るんじゃない?雨雲」
「…ふむ」
「別に良いわよ?」
「着いて来たいんだったら着いてくれば」
「良いのか?」
「先刻は[1人]と…」
「別に1人[まで]なんて言ってないでしょ」
「アンタだけなら戦力として充分だし、軍も作戦程度練り直すわよ」
「…言葉に甘えるとしよう」
「鎖基、火星」
「アンタ等はここで休養してなさい」
「監視…、の間違いじゃないのか?」
「…ふん」
「頼んだわよ」
「任せてくれ」
「うむ!!!」
ロンドン
裏通り
「俺はァ~♪ジャック・ザ・リッパ~♪」
「夜にィ~♪生きるゥ~♪人斬りさ~♪」
「ぐっ…!かっ…!!」
「血とォ~♪肉がァ~♪」
「俺を駆り立てるゥ~♪」
「やめてくれ…!」
「命だけはぁ…!!」
「ジャック・ザ・リッパァ~♪」
「血もォ涙もォ無いィ~♪」
ドスッッッ
「ぎゃぁあああああっっ!!!」
「人殺しさァ~♪」
『あーぁ!』
『その体は貰うって言ったのに!!』
「~~~~~♪」
『…聞いちゃいないねぇ』
『ジャック!ジャック!!』
「…何だよォ」
「折角、良い感じに歌が乗ってたのに」
『その体は私が貰うと言っただろう!?』
「忘れてたねェ」
「謝るよ」
『コイツ…!』
「体が欲しいなら、俺の体を使うかい?」
『…要らないよ!そんな呪われた体!!』
「おォィ!酷い事言うねェ」
「呪われてなんかないさァ」
「この[祝福された体]はねェ」
読んでいただきありがとうございました