物
「皆、行っちまったな」
「そ、そうだな…」
「…さて、俺の筋肉痛が復活した」
「RPGの回復魔法並の効果だ」
「…やり過ぎたのは謝るって」
「まぁ、心配するな」
「コレを唯一…、一瞬で回復する方法がある」
「な、何だ!?」
「ちょっと立たせてくれ」
「…?」
蔵波の肩を支え、桜見は引っ張り上げる
「っと…」
社の柱へと身を預けた蔵波は、そのまま桜見に「座れ」と合図する
「よし」
「…これだけか?」
「あぁ…、充分だ」
溢れる涙
まるで、数十年来の友人に会うかのように
古ぼけた記憶を頼りに探し当てた物を懐かしむように
蔵波の目から涙が止めどなく溢れ出す
「蔵波!?どうしたんだ!?」
「これぞ…、無の境地…」
「否…!そう、小!!」
「小の境地なり…!!」
「…?」
立っている蔵波
座っている桜見
その絶妙の位置で見える物
それは胸
そして拳
「『アッパーカット決まったぁあああああ!!!』」
この2人もノリノリ実況中である
射的屋
「…何してんですか」
「へい!らっしゃい!!」
「射的は一回200円!!」
「…あのね、火星さん」
「建設を手伝うとは聞いてましたが…」
「いや~!町内会の人達と仲良くなちゃって!」
「店を任されたんだよ!」
「で、射的屋ですか」
「そうそう!」
「森草ちゃんも一緒にどう?」
「デートで射的なんて盛り上がるよ!」
「そ、そんな…!デートだなんて!!」
「違いますよ!火星さん」
「友達の為の計画です!」
「へぇ!そうな痛っっっ!?」
「やめて!俺に撃たないで!!」
パンッ!パンッ!
(蒼空は私とは楽しくないのかしら)
(私じゃ駄目なのかしら)
パンッ!パンッ!
「森草ちゃん!?」
「痛い!痛い!!」
パンッ!パン!!
(そうよね)
(コレだって蔵波と桜見の為だもん)
カチャカチャッ
「待って!装填しないで!!」
カチャンッ
「ちょ!森草ちゃん!!」
(私と同じになったのも…)
ガチャッ…
「まぁ、楽しい事に変わりは無いんですけどね」
(!!)
「そ、そう!それは良かっ痛い!!」
「やめて!照れながら撃たないで!!森草ちゃん!!」
「…死ぬかと思ったよ」
「お疲れ様です」
「ご、ごめんなさい!考え事してて…!!」
「気を付けてね?」
「は、はい…」
「…あの、火星さん」
「何だい?蒼空君」
「お客さんが…」
「あ!すいません!!」
「いらっしゃぁーい!」
「じゃ、もう行きますね」
「うん!楽しんでいってね!!」
「お仕事、頑張ってください!!」
「うん!ありがとう!!」
「…」
「…どうしたの?蒼空」
「顔色が悪いけど…」
「もう…、火星さんに会うのは最後かも知れない」
「どうして?」
「…あの時、来てた客が」
「織鶴さんだった…」
「…あぁ」
その日、射的屋に悲鳴がこだましたという
社
「なぁーんか、うるさい学生来てるなぁ」
「彼等は」
「誰だ」
「確か、ウチの蒼空の友人だったっけ…」
「邪魔だ」
「俺とのデートに?」
「黙れ」
「悪寒を」
「感じる」
「…酷いな、核」
黒い服を祭明に照らす男と女
それは鉄珠と[核]と呼ばれた物
そう[物]なのだ
浮遊している球状の[物]
球状のガラスと、それに取り付いている機械
動く度に鳴っているのは、その機械だ
そして、球状のガラスの中には液体と
頭部
「ここの」
「空気は」
「良い」
「んー、新鮮?」
「…あぁ」
頭部は口を動かし言葉を発する
[頭部だけ]という点を除けば普通の人間と変わらない
白く坦々たる髪
薄白く綺麗な肌
瞳は髪で隠れている
「…」
「どうした」
「可愛いなぁ、と思ってさ」
「黙れ」
「照れちゃって~♪」
「…」
毛嫌うように顔をしかめる核
「ありゃ?嫌だった?」
「無論」
「男の」
「言葉は」
「嘘」
「ばかり」
「そんな事ないよ?」
「俺の言葉は真実です!」
「嘘」
「臭い」
「酷いなぁ」
鉄珠は液体の中に手を入れる
ねっとりとした液体を掻き分け、核の髪へと触れる
「何を」
「する」
「可愛い顔してるんだからさ」
「出さなきゃ」
彼は髪を横へと流す
そして、核の顔が月夜へと照らされ始める
「やめろ」
「でも、止めないんだよね?」
「綺麗な目だよ」
月光に照らされた瞳
紅い、瞳
「…やめろ」
「可愛いのに」
「この目は」
「嫌いだ」
「奴を」
「思い出す」
「…だねぇ」
髪を元に戻し、鉄珠は液体の中から手を引き抜く
液体の付着した手を舐め、球状の物を隣へと引き寄せる
「何の」
「つもりだ」
「んー、可愛いから」
「貴様は」
「解せない」
「褒めてる?」
「むしろ」
「貶して」
「いる」
「ご褒美だな」
「…死ね」
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