最後の約束
ガチャッ
「ゼロ!」
「シス王女!走られては危ないですよ」
「傷が…!」
「ロスト程ではありません」
「少し斬られた程度です」
「敵の襲撃が激化していませんか…?」
「大丈夫ですよ」
「それより、お勉強は?」
「連立方程式をマスターしました!」
「流石ですね」
「えへへへ…」
「ロストは何処です?」
「おっす」
「歩けるのか?」
「馬鹿言え」
「松葉杖使ってやっとだ」
「そうか…」
「傷、酷いじゃねぇか」
「何、見た目ほど酷くは無いさ」
「…ちょっと来い」
「?」
食堂
「お前、裏で何をコソコソ動いてるんだ」
「…やっぱり、お前には隠せないか」
「王女の亡命だ」
「…ほう?」
「隣国では難しい」
「日本か…、アメリカか」
「非戦闘国や大国なら隣国の驚異を防げるはずだ」
「…すると思うか?」
「あのワガママ王女様がよ」
「何?」
「亡命するのなら、とっくにしてるさ」
「家臣を逃がし、国民を逃がし…、最後まで城に残ってるんだぞ」
「…説得できないのなら、無理矢理にでも」
「ゼロ」
「何だ?」
「アイツの意思を無視してまで逃がして…、それで良いのか」
「彼女を殺すのか」
「…」
「…ゼロ」
「俺は…、彼女を守りたいんだよ」
「それは雇い主として、か?」
「それとも女として、か?」
「…それは」
「傭兵の常識だ」
「雇い主に情を持つな」
「雇い主を殺さなければならない事も有るんだぞ」
「…俺はシス王女を守りたい」
「それなら守ってやれ」
「女として、愛してる人間として」
「一生、守ってやれ」
「…ありがとよ」
「へいへい」
(ゼロ…)
ゼロが私を愛している?
いいえ、それよりも
一生、守ってくれる?
良いのでしょうか
甘えても
でも、その[甘え]は彼を…
「…」
数ヶ月後
「…」
「どうした?」
「いや、な」
「最近…、見慣れない奴が城を出入りしてるんだよ」
「郵便配達員だろ」
「…んー」
「お前、手紙でも出してるのか」
「いや?ロストじゃないのか」
「文字が書けん」
「そ、そうか…」
「…って事は」
「シス王女か」
「何の手紙を出してるんだろうか…」
「さぁ…?」
王女部屋
「ロスト、ゼロ」
「何です?」
「今日限りで貴方達を解雇します」
「「…は?」」
「今までご苦労様でした」
「私は、とても感謝して…」
「シス王女様ッッ!!!」
「…」
「ご冗談ですか?笑えませんよ」
「俺達が解雇されれば、一体誰が貴女を守るというのですか!?」
「口答えは許しません」
「正式には解雇と言うよりも、雇用権を譲渡したのです」
「誰にですか!?」
「隣国の王だろう」
「!?」
「…流石ですね」
「よぉーやく解ったぜ」
「郵便配達員は隣国王からの通達だったんだな?」
「…連合軍の能力部隊による総攻撃を明日、開始すると」
「降伏するのなら今のうちだと」
「降伏すべきです!」
「シス王女!隣国の手が及ぶ前に亡命を…!!」
「…私は離れません」
「この国から」
「何故ですか!?」
「下らないプライドのために…!!」
「黙れ、ゼロ」
「ロスト!?」
「下らない、だと?」
「一国の主たる少女が」
「一国のために全てを捧げる覚悟をしている」
「この国と共に死す覚悟を決めた」
「それを下らない、だと?」
「だがっ…!」
「…シス王女、アンタの言い分は間違っちゃいねぇ」
「だが、ゼロの言い分を聞いてから決めても遅くないはずだ」
「…」
「…シス王女」
「私は…、貴女を守りたいのです」
「どうしてですか?」
「それは…」
ドォオオオオンッッッ!!
「「「!!」」」
「敵襲か…!」
「凄い数だぞ!」
「百…、二百か…!?」
「…この資料を」
「隣国連合軍兵士としての証明書ですわ」
「要りません!!」
「貴女を…!!」
ゴッッッッッッッ!!!
「っ!?」
「ろ、ロスト!?」
「ゼロ、今の1発の意味をよく考えろ」
「誰も入って来れないように、この部屋を塞ぐ」
「その間に…、決着を付けるんだ」
「選べよ」
「俺を殺すか…、それとも」
「…いや、何でも無い」
ガチャンッ
「…っ」
「ロスト…」
王女部屋外
「おい!居たぞ!!」
「お前!そこに王女が居るんだろう!?」
「退け!!」
「黙れ」
「反抗するか!?」
「殺っ…!!」
「やめろ!奴は仲間だ!!」
「王から聞いてないのか!?」
「そうなのか!?」
「…」
「おい、貴様」
「中に居るんだろう」
「…さぁな」
「お前は、こちら側の兵士だ」
「反抗する理由が有るのか?」
「お前等には関係ない事だ」
「知ってるぜ」
「お前、先遣隊の一員にボコボコにされたんだろ?」
「俺達は能力者だ!!!」
「逆らえば、どうなるか…」
「黙れ」
「な、何だよ…!?」
「俺の醜態を知っているのなら、そいつがどうなったのかも知っているだろう?」
「ぐっ…!!」
「黙っていろ」
「すぐに終わる」
「…?」
王女部屋内
「ロストの意思が解りますか…?」
「…いえ」
「どうして、奴を殺さなくては…」
「今、彼は松葉杖を使わなければ動けない状態です」
「私を守りながら彼を支えて逃げられますか?」
「…ロストを見殺せ、と?」
「だから、もう1つの選択肢が有るのでしょう」
「もう1つ?」
「私を殺して、ロストと共に手柄を持って隣国へ行くか」
「そんな事!!」
「最善でしょう」
「ロストを殺して私を護れる確証など無いのです」
「だったら…」
「私は…!貴女を守りたいのです!!」
「どうしてロストに殴られたのか理解できてませんの?」
「[甘えるな]」
「そういう事ですわ」
「…ッ」
「私を愛しているのなら、私を殺してください」
「殺せませんっ…」
「殺して」
「殺せませんよ!!!」
「どうして!?どうしてそんな選択肢しか無いんですか!!」
「…私が貴女を愛しているからです」
「ッ!」
「愛しているからこそ、生きて欲しい」
「愛しているからこそ、逃げて欲しい」
「愛しているからこそ…、殺して欲しいのです」
「…」
どうすれば良いのですか
私は、どうすれば良い
「ナイフを」
シス王女様からナイフを手渡された
どうして?
「…最後に約束して欲しいのです」
「自分を…、殺さないでください」
殺すのか
ナイフで
殺すのか
「…愛しています」
「私は…、貴女を…」
殺すのか
王女部屋外
ギィー……
「…決めたのか」
「うわっ…、血まみれかよ」
「あー…」
「あ、ぁああ…」
「…お前等、離れてろ」
「死ぬぞ」
「え?」
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっぁああああああああ!!!!!!!!!!!」
「「!?」」
「落ち着け、ロスト」
「うあぁあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
「狂ってんのか…?」
「ああああああぁあああああああああっっっぁあぁぁああああああ!!!」
ドスッッ
「ぎゃぁああああああ!!!」
「お前!手が!!」
「ゼロ」
「あろあぁあっすああおあおあああああああ!!!」
「見ろ」
「お前の選んだ結果だ」
「あああああああああ!!!!」
「見ろッッッッッッッッッッッ!!!!!」
「あぁ…!あああぁああ…!!!!」
血に染まった王女
愛した、女
「あぁああああ…!!!」
「俺は…!殺しっ…た……!!!!」
「殺したぁ…!!!!」
「それが結果だ」
「お前の選んだ選択だ」
「俺が悪…いんだ…!!」
「違う」
「何も悪くない」
「お前は正しい」
「アイツも正しい」
「何も…」
何も、間違ってなかったんだ
何も
間違ってなんか…、いなかったんだ
読んでいただきありがとうございました