王国への敵襲
数週間後
王女部屋
「…でして」
「この文を訳すんですの?」
「はい」
ガシャァアアアアアアアアアンッッッ!!
「な、何ですの!?」
「…お嬢様はここに」
「決して動かないでください」
「しかしっ!!」
「危険です」
「…っはい」
城壁内側
「ロスト!?何が有った!」
「ロスト!!」
「静かにしろ」
「!?」
「俺だよ」
「…ロストか」
「何だ?今の音は」
「敵襲」
「…数は?」
「1人だ」
「1人?」
「…能力者だよ」
「能力者を投入してきたのか…!!」
「身体強化系だな」
「脚力強化だと思う」
「…強いのか」
「俺のアバラを持ってくぐらいにはな」
「お前…!!」
「…姫を守ってくれ」
「1人で来たとは限らない」
「…任せても大丈夫か」
「任せろよ」
「…頼んだ」
王女部屋
ガチャンッ
「王女様」
「ゼロ!ロストは…!!」
「隠れましょう」
「食堂奥に場所を確保してあります」
「敵襲ですか…!!」
「はい」
「王女様がお隠れになられたら私も向かいます」
「…ゼロも行くのですか」
「はい」
「…無事に」
「無事に…、帰ってきてください」
「…はい」
城壁周辺
「…何処に行きやがったんだ」
「無駄に広いんだよな、この城はよぉ…」
ピンッ
「あ?」
ドォオオオオオオオオンッッッ!!!
「…設置手榴弾なんざ古手だが」
「どうだ…?」
ゴォッッ
「うぜってぇんだよぉおおおおおおお!!!」
「チッ…、無駄か」
城壁に身を隠すロスト
防弾チョッキを脱ぎ捨て、ナイフを取り出す
(…能力者か、厄介だな)
さて、どうするか
奴の蹴りは厄介だ
一撃で俺のアバラを持って行きやがったんだからな
この防弾チョッキ、高い上に愛用だったのに…
「見ぃつけた♥」
「防弾チョッキ、弁償してくれよ」
「天国で買ってきな」
バリィンッッッ!!
「鏡だよ、バーカ」
ドスッ
「がっ…!!」
「俺のアバラと防弾チョッキの値段は高いぜ?」
ロストはぐりぐりとナイフを能力者へとねじ込む
刺さっているのは脇腹のため、深ければ致死傷となるはずだ
「…時代遅れの防弾チョッキだろ?」
「最新型は短刀なら余裕で防ぐぜ?」
「なっ…!!」
「覚悟は良いか?無能」
「何処だ…?ロスト」
相手は能力者だ
俺は能力者相手に戦闘訓練を積んでいる
だが、確かロストは詰んでいなかったはずだ
一般兵と同じ戦法では能力者には勝てないだろう
あの馬鹿、先走ってなければ良いが…
ゴキンッッ!
「…砕骨音?」
ゴキンッッ!ゴキンッッ!!
「ギャハハハハハ!次は肋骨かぁ!?」
(能力者…!!)
(誰の骨を…?)
「…」
「気絶しちまったか!?」
「くっだらねぇ!雑魚だぜ!!ざっ」
体を転げ落ちる首
首の切り口からは血が噴水の如く吹き出る
「ロスト!」
「…」
「こんの馬鹿が…!!」
執務室
「…」
「ロストは…?」
「傷が酷いですね」
「暫く警備は無理かと…」
「そんな…」
「明日から勉強はお休みです」
「申し訳ありませんが、シス王女様はコイツの容態を見て居ていてください」
「貴方はどうするのですか…?」
「外の警備に回ります」
「何か有りましたら、食堂に…」
「…私は無力です」
「無力などではありませんよ」
「私達を支えてくれるではありませんか」
「…私も支えられていますわ」
「貴方達に…」
「…それは嬉しいですね」
「…ゼロ」
「何です?」
「どうして…、自分を殺すのですか」
「…」
「貴方は無理をしているように見えますわ…」
「何かを…、抑えているように」
「…私は感情コントロールが下手なんですよ」
「憎しみだとか悲しみだとかが、すぐに表情に出てしまう」
「傭兵において、それは欠点です」
「だから抑えているのですか…?」
「…そうです」
「本当は今からでも隣国の兵を根絶したいぐらいですよ」
「…自分を殺すな、と」
「そう教えてくれたのはロストでしたわ」
「それは私だけに言ったのではなく…」
「…私にも、です」
「戦場で会う度に、よく言われましたよ」
「敵同士の事も有るのですか…?」
「むしろ、そちらの方が多いです」
「しかし奴とは戦いたくない…」
「…友だから?」
「好敵手…、友ですね」
「それにコイツは強いですから」
「そんな表情が出るから、よく怒られます」
「フフフッ、ロストらしいですわ」
「…はい」
「だから、こそ」
「今、俺は抑えているんです」
「シス王女様に人殺しの顔を見せたくありませんから…」
「…ゼロ」
そっとゼロに身を寄せるシス王女
そして、強く彼を抱きしめる
「私は…、もっと見たくない物があります」
「解りますか?」
「…いえ」
「無理をして壊れる貴方です」
「貴方は…、綺麗ですわ」
「ガラスのように輝いていて、明るくて…」
「…そして脆い」
「…」
「私は心配ですわ…」
「貴方が…、壊れないかどうか」
「ロストの様になってしまわないか…、どうか」
「…断言は出来ません」
「けれども、私は守ります」
「貴方を、絶対に」
「…ありがとうございます」
「はい」
「熱いねー」
「ひゅーひゅー」
「「!?」」
「どもッス」
「何か俺が死んだみたいな空気になってたけど」
「あ、ああああああ熱くなんてないですわよ!?」
「お前は大人しく寝とけぇええええええ!!」
「あれ?邪魔だった?」
「邪魔だったかな?」
「うるせぇええええええええええ!!!」
「…で、どうなんだ」
「傷の具合は」
「予想以上に酷ぇかな」
「立てないし」
「…足、やられたのか」
「割と強めにやられた」
「回復は?」
「数ヶ月程度じゃキツいな」
「悪いが役交代で」
「…いや、勉強は無理だろ?お前」
「まぁな」
「ドヤ顔すんな」
「ドヤれる事じゃないぞ」
「お前、警備出来るのか」
「出来るさ」
「伊達に傭兵じゃ無い」
「…耳、貸せ」
「?」
(解ってるのか?これから敵襲が激化するんだぞ)
(今回の襲撃は狼煙と考えるべきだ)
(…解ってる)
(だから、お前を行かせられないんだろうが)
(シス王女には話したのか)
(大凡は、な)
(俺がお前と警備を交代するって事ぐらい…)
(…言うべきじゃねぇな)
(当たり前だ)
「あの…?」
「感触どうだった?」
「B…、いやAだな」
「Aも無いだろ-」
「何の話ですか?」
「「胸」」
食堂
「俺、怪我人だよね」
「往復ビンタはキツくね?」
「いや、話の逸らし方が酷いだろ…」
読んでいただきありがとうございました