離れる民
「…疲れましたわ」
「お疲れ様です」
「次は言語学ですが…、しばらく休憩を取りましょうか」
「そうですわ」
「紅茶をくださらないかしら」
「…俺がですか?」
「執事なんでしょう?」
「食堂に有りますわよ」
「…はいはい」
食堂
「すいません、紅茶を…」
「ここの飯は中々…」
「…何やってるんだ、ロスト」
「食事だ」
「…お前なぁ」
「外の警備は?」
「まだ攻めてくる様子はねぇよ」
「それに…、他に兵も居ないしな」
「何?」
「全員、トンズラこきやがった」
「…逃げたのか」
「解ってた事だろ」
「ったく!久々にテメェと同じ雇い主に着いたかと思ったら…」
「…俺は残るぞ」
「お前は…」
「俺が今まで雇い主を裏切った事が有ったか?」
「…だな」
「おっと!紅茶を取りに来たんだった」
「紅茶、紅茶…」
「あ、悪ぃ」
「飲んだ」
「…お前なぁ」
「牛乳なら有るぞ」
「牛乳か…」
「同じ飲み物だ」
「…そういう問題か?」
王女部屋
コノコンッ
「失礼…」
ガチャッ
「…」
「…失礼します」
「執事さん?」
「…もう執事ではございませんわよ」
「?」
部屋から出て行く執事
その後ろ姿は暗く沈んでいる
「…どうしたんですか」
「爺やには執事を辞めて貰いましたの」
「ど、どうして!?」
「もう、この国は終わりますわよ」
「態々残らせて殺す事も無いでしょう?」
「…どうして、終わると?」
「先刻、連合軍からの最終通告が有りましたの」
「[国権を全て譲渡せよ]と」
「断りましたけれどね」
「何故です!?」
「受け入れれば…!!」
「大臣達は国の誇りだとかを守りたいのでしょうね」
「…下らないですわ」
「まぁ、私も賛成だけれど」
「…国に残って死ぬのに賛成と?」
「国を売れば、私はどうなるのかしら」
「他国でも生きては行けるでしょう」
「…確かに差別や迫害は有るかも知れませんが」
「そうではないのです」
「私は性欲のはけ口にされる事になるでしょうね」
「…な」
「滅びた王国の王女の運命なんて、そんな物ですわ」
「相手の王国の重職達に豚のように扱われ…」
「そうして殺される」
「…解らないでしょう、そんな事」
「もしかしたら…」
「姉様も、母様もそうでしたわ」
「兄様なんて刀の斬れ味の実験台ですわよ?」
「父様は…、公開処刑だったかしら」
「っ…!」
「貴方も辞めたのなら、どうぞ」
「今までの傭兵の様に」
「…」
バタンッ!
「王女様!!」
「どうしたのです?左大臣」
「敵の前戦隊です!!」
「数にして80ほどの…!!」
「…そう」
「…失礼ながら」
「解ってますわ」
「今までありがとう」
「いえ…」
「何を臆しているのです?」
「当たり前の事ではないですか」
「父様のよしみで…、よくここまで尽くしてくださいましたわ」
「感謝しています」
「…失礼、します」
ガチャンッ
「貴方も」
「…残念ながら」
「一度、契約をしたなら尽くすのが私の流儀ですので」
「あら?もう終わりますわ」
「今からでも契約を破棄すれば助かるのですわよ?」
「例え私1人になろうとも、その様な事はしません」
「何より…」
ガチャッ
「終わったぞー」
「アイツ等って敵国に送り返せば良いのか-?」
「彼が居ますから」
「80人の軍勢を…!!」
「彼が居れば、そこら辺の敵など無に等しいですよ」
「私も彼ほどではありませんが、貴女を守る程度の実力なら備えております」
「…死ぬ気ですの?」
「いいえ、そんな気は毛頭ありません」
「俺もコイツも忠義を尽くすだけですよ」
「…呆れますわ」
「ありがとうございます」
「ありゃ?牛乳は?」
「あぁ、忘れる所だった」
「王女様、紅茶はこの馬鹿が飲んだので牛乳を」
「ぎゅっ!?」
「…」
「…」
「…」
「…え?」
「何か、もの凄い速度で後退ったぞ」
「…牛乳ですか」
「調理用だから…、食堂に戻しておいてくださる?」
「いや、もうコップに…」
「戻しておいてくださらなかしら!!!」
「は、はい…」
「…待て、ゼロ」
「何だよ?」
「王女様って…」
「牛乳嫌い?」
「そんな事!有るはずがないでしょう!?」
「一国の王女たる私が…!!」
「…」
「…」
「…そんな事、有るはずありませんわ」
「では、飲みましょうか」
「飲みませんわ」
「喉なんて乾いてないもの」
「しかし、先刻は紅茶を…」
「要らない、と!!」
「…ゼロ、押さえとけ」
「俺が飲ませる」
「ののの!飲ま!?」
「飲まないから胸がそんなに小さいんだ」
「胸は関係ないでしょう!?」
「有る有る」
「次は保険の授業でもしたらどうだ?」
「誰がするか、馬鹿」
「身体検査だ」
「貴方も充分馬鹿ではないですか!!」
「はっはっはっは」
「失礼な」
「失礼の塊が何を!?」
「…ふて腐れ顔は消えましたね?」
「あっ…」
「勉強を再開しましょう」
「ロストは紅茶を取ってこい」
「アイサー」
「じゃ、行ってくらぁ」
バタンッ
「も、もう無いんでしょう!?」
「えぇ、有りませんよ」
「ですから隣国まで」
「連合軍の本拠地に!?」
「そんな無謀な…!!」
「何、難しい事じゃありませんよ」
「贈り物を届けるだけですから」
「贈り物…?」
ガチャッ
「ただいま」
「お帰り」
「どうだった」
「結構、パニック」
「そうだろうな」
「…何を届けてきましたの?」
「「兵士」」
「…兵士?」
「兵士とは何かしら」
「兵士は兵士だ」
「兵士ですよ」
「…?」
翌日、隣国の門に裸で吊された前戦隊の兵士達が発見されたという
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