アリシア王国
「アレは昔…」
「俺達が傭兵生活に慣れ始めた頃の話だ」
十数年前
ゼロとNo,2が傭兵生活に慣れ始めた頃
アリシア国
王宮内
「王女様、シス王女様!」
「何ですの?爺」
「王女様の身辺警護の傭兵を雇いました」
「…そう」
「連れて来てくださらない?」
「承知しました」
「私はゼロと申します」
「こちらはロストです」
「どーも」
「…巷で噂の[ゼロ]と[貪狼]ですわね?」
「私はシス・フォルスタ王女ですわ」
金色の長髪
碧色の輝く瞳
透き通った瞳
人形のような白く整った顔立ち
そして、王と呼ぶに相応しい風情
「…シス王女ですか」
「世にも目を見張るほどの…」
「お世辞は良いのですよ」
「貴方達2人に私は身辺を任せますわ」
「…ゼロには身辺の世話を」
「ロストには身辺警護を任せますわね」
「…了解しました」
「…」
「…では、暫し客接室でお待ちくださいませ」
「爺が呼びに行きますので」
「はい」
客接室
「…どうしたんだよ、ロスト」
「あのヤロー、気に入らねぇ」
「おいおい、雇い主だぞ」
「…見た目で決めたろ」
「いや、普通はそうするって」
「だって見てみろよ」
方や、黒スーツと白手袋を着こなした立派な身なりの男
方や、ボサボサ髪でボロ布を羽織ったホームレスのような男
「どっちに身辺の世話を頼むかは歴然だろ?」
「…むぅ」
「戦闘技術はお前の方が上なんだ」
「適材適所だろ」
「…勉強出来んのか」
「金のない馬鹿は身なりと頭、ってな」
「そんぐらいの教養は有るんだよ-」
得意そうに鼻を鳴らすゼロ
「…勉強か」
「やめとけ」
「素因数分解って解るか」
「何それ?美味いのか」
「…」
「チェスならお前と良い勝負なんだが…」
「チェスは強いよな、お前」
「毎回のようにポーンを駆使して勝ちやがる」
「よくポーンをナイトとかで庇うよな?」
「あぁ」
「何でだ?」
「普通は捨て駒だろ」
「…何つーかな」
「気に入らねぇんだわ」
「気に入らない?」
「上のモンがさ、下のモンを捨て駒扱いすんの」
「上のモンは安全地帯で見物、下のモンは危険地帯で戦闘」
「…嫌だろ?」
「お前って朝のヒーローアニメ、好きだろ」
「…見た事ねぇな」
「見たらハマると思うぜ」
「そうか?」
コンコンッ
「失礼します」
「あぁ、執事さん」
「どうです?シス王女様は…」
「それなのですがね」
ポイッ
「え?」
「お着替えを」
ゼロに手渡される執事服
「…何故ですか」
「私ではシス王女様をお世話は出来ますが守る事は出来ないのです」
「ですから…」
「…俺に交代しろ、という事ですね」
「御察しが良い」
「そちらのロスト様にはコレを」
「…アリシア王国の騎士紋か」
「鎧は必要ない」
「動きにくくなりますか?」
「用意してある」
「…流石ですな」
「では早速、業務の方に」
「解った」
「ゼロ様はこちらに」
「着替えてるから待って!速いから!!」
王国外
城壁周辺
「…」
「新入りか」
「隊長さん?」
「いや、傭兵だ」
「お前も傭兵だろう」
「…まぁな」
「ここで言うのも何だが、今の内に雇い主を変えた方が良い」
「何で?」
「近い内に、連合軍から総攻撃が掛けられる」
「…もう、ここも」
「噂は本当だったんだな」
このアリシア王国は資源が豊富である
鉱石や植物、石油など
国を横断している川から採れる魚類も例外では無い
だが、国土が狭く国戦力は無に等しい
他国からの盗賊を追い払う事にすら傭兵を雇わなければいけない程なのだ
その様な国は他国から見れば絶好の的となる
餌として、だ
国戦力が無いのなら攻め落とせば良い
その様にして、只でさえ国土の狭いアリシア王国は更に国土が削られて来た
今回は、それのトドメを刺される事となったのだ
連合軍
資源などを資金にし傭兵を大量に雇って持ちこたえるアリシア王国に他国は痺れを切らした
よって一時的に同盟を結び、連合軍を結成したのだ
アリシア王国を滅ぼす為に
「…だけどよ」
「この戦争が終われば、連合軍の内部戦争に発展するんじゃないのか」
「そうだろうな」
「愚かな…、結果の見えた戦争だ」
「…ふん」
「資源の取り合いか」
「そうだ」
「…何はともあれ、速く雇い主を変えた方が良いぞ」
「アンタは?」
「俺は今から契約を破棄しに行く所だ」
「この話は目に見えてたからな…、金に釣られたのが間違いだったか」
「もう他の奴等も、ほとんど辞めたんじゃないのか」
「あぁ、そうだろうな」
「好き好んで死にに行く奴は居ないさ」
「…だろうな」
「じゃぁな」
「お前も死なないように」
「…ありがとよ」
王宮内
王女部屋
「ですから、ここにyを代入します」
「y=2なので…」
ゼロは黒板にチョ-クで文字を書いていく
そして、その行為を眺めるシス王女
「…シス王女様、聞いていますか?」
「聞いていますわ」
「折角、貴方が直接勉強を教えてくれるんですもの」
「…私も勉学に自信こそ有りませんが、基礎は出来るつもりです」
「シス王女様に勉強を教えることも然りですよ」
「解っていますわ」
「私も執事に勉強を教えて貰うのは嫌いじゃありませんから」
「…」
「…」
「…少し、話をしましょうか」
「勉強はどうなさいますの?」
「その様にふて腐れていられては勉強出来ませんよ」
「…」
「やはり、大変でしょう?」
「国がこの様な状態では」
「齢14の娘に国を任せるワケがないでしょう?」
「王女なんて形ですわ」
「国に関しては全て大臣達に任せてますから」
「それでも、疲れるでしょう」
「…どうして、そう思うのかしら?」
「私は座ってるだけで良いんですわよ?」
「[責任を感じるから]」
「体では無く心を、です」
「…馬鹿ではないようですわね」
「馬鹿ですよ」
「勉学については、ですが」
「…今までの傭兵達は同じでしたわ」
「心にも無い事を言って、問い詰めたら答えに詰まる」
「馬鹿みたいです」
「俺も心に無い事を言ってるかも知れませんよ?」
「それは無いですわね」
「どうしてです?」
「だって、反論してきたんですもの」
「なるほど」
「…勉強を続けましょう」
「ふて腐れ顔が治ってませんよ?」
「数学が嫌いだから、ですわよ」
「…なるほど」
読んでいただきありがとうございました