石柱の墓
森草の家
ピンポーン
「はーい」
家から出てくる森草
インターホンを鳴らしたのは波斗だった
「…蒼空」
「…話、聞きたくて」
「…私も呼ぼうと思ってたの」
「彼女に会ってあげて」
「彼女…?」
寝室
「…失礼します」
「…」
部屋の隅で蹲っている女性
「…セントさん?」
「…蒼空さんですカ」
「えっと…」
「貴方が最後にゼロさんを見たんですよネ…」
「…うん」
「教えてくれませんカ…」
「ゼロさんハ…」
「と、取り敢えず、電気付けますね」
パチッ
(…!)
波斗はセントを見て驚愕した
真っ赤に腫れた目
頭から被った毛布
顔には涙の痕がクッキリと残っている
(ずっと泣いてたんだろなぁ…)
「ゼロさんハ…、一度、帰ってきたんでス」
「部屋に入ったきリ、ご飯も食べないデ…」
「ずっとボウッとしてテ…」
「何を言っても反応しなくテ…」
「馬常さんも森草さんも「そっとしておいた方が良い」っテ…」
「でモ、放っておけなくテ…」
「そしたラ、急に居なくなっテ…」
「探したけド、居なくテ…」
「私…、どうしたら良いか解らなくテ…」
「…ゼロさんは秋鋼の皆が探します」
「セントさんは落ち着いてください」
「睡眠も食事も取ってないそうじゃないですか」
「心配で眠れないんでス…」
「私…、私…」
ポロポロとセントの目から涙が零れる
「え、えっとですね…」
「ゼロさんはきっと見つけるんで!」
「心配しないでください!!」
「…お願いしまス」
「はい!任せてください!!」
「…お願いしまス」
「お願いしまス…」
「…」
ガチャンッ
「…どうだった?」
「泣いちゃった…」
「…無理も無いわね」
「彼女が一番…、ゼロを心配してたから」
「…俺って男だからさ」
「セントさんの考えてる事が詳しくは解らないだ」
「そこは…、女性に頼むよ」
「…うん」
「よろしくね」
「アテは有るの?」
「ま…、一応」
「…任せたわよ」
「…任されたよ」
高速道路
「…歩いてくるのはキツいかな、やっぱり」
「おや?蒼空君じゃないですか」
「奇怪神さん!」
「お久しぶり…、ってワケでもないですね」
「つい、この前会いましたからね」
「で、どうしたんです?」
「ゼロさんに会いに」
「…よく解りましたね」
「彼がここに居ると」
「…まぁ、勘みたいな物です」
「奇怪神さんは?」
「少し話を」
「今、帰るんですよ」
「そうですか…」
「…ゼロさんを怒らせないでくださいよ?」
「自信は無いです…」
「…全く」
「手間の掛かる人ですね」
「すいません…」
「…まぁ、良いでしょう」
「では」
「はい、さようなら」
奇怪神に背を向ける波斗
そのまま、奥へと進む
廃墟前
「…!」
殺風景な窪地
ゼロとNo,2との戦闘で何も無くなったそこには、新たな建造物が有った
「コレは…」
巨大な石柱
優に10mは有りそうな大きさ
石柱の中心には別の石柱が横に填められ、まるで十字架の様になっている
そして、その横にはそれよりも少し小さめの石柱が5本
さらに周りには小さな石柱が何百本も
まるで寄り添うかのように建てられている
「…居た」
そして、その前に座り込んでいる1人の男
「…ゼロさん」
「…蒼空か」
「どうした」
「…セントさんが心配してますよ」
「…あぁ」
「…帰りましょう」
「放っておいてくれ」
「…駄目ですよ」
「帰りましょう」
「…放っておいてくれ」
「帰りましょうよ」
ぐいぐいとゼロの服を引っ張る波斗
それでもゼロは微動だにしない
「帰りましょうって!!!」
「ゼロさん!!!」
ゴッッッッッッッ!!!
「!?」
波斗の頬に鈍い痛み
殴られたのだ、ゼロに
「…何するんですか」
「お前、友人が居るだろ」
「蔵波とか熊谷とか言ったか」
「…はい」
「お前、仲間が居るだろ」
「森草とか織鶴とか火星とか」
「彩愛や鉄珠、雨雲や鎖基に楓」
「他にも大勢、居るだろ」
「…はい」
「そいつ等を殺せ」
「な…!!」
「…今回、俺が軍に言われたのは、そういう事だ」
「元は傭兵だった」
「そして友だった」
「仲間だった」
「そいつを殺せ」
「簡単に言うじゃねぇか」
「…」
「簡単に言ってくれるじゃねぇか」
「俺はアイツの見てる物が見たくてNoになったんだ」
「アイツに追いつくためにNoになったんだ」
「アイツは目標」
「親友」
「仲間」
「いや、それ以上の物だった」
「それを殺せだと?」
「ふざけるなよ」
「…ゼロさん」
「俺はアイツを殺す為にNoになったんじゃない」
「アイツと共に…!アイツの為に…!!」
「それを…」
「ゼロさん!!」
「お前に何が解るッッッッッ!?」
「っ…」
「Noの重さが解るか!?」
「軍という集団から与えられた称号の重さが!!!」
「仲間を殺さなければいけない重さが!!!」
「解るのか!?」
「…だろ」
「解るはずねぇだろっっ!!!」
「…ッ!!」
「俺はな!軍に入って数ヶ月だ!!」
「たった、それだけだ!!!」
「あぁ、そうだろうな!!!」
「何も知らない!!!」
「知らないからって何だよ!?」
「それが何なんだよ!!」
「お前は…!!」
「アンタが辛いのは解る!!!」
「痛い程に解るさ!!!」
「だけどな!!」
「それが女の子を泣かせて良い理由になるのかよ!?」
「仲間を心配させて良い理由になるのかよ!?」
「アンタの立ち位置は何だよ!?」
「皆を護るんだろ!?」
「それがNoなんだろ!?」
「Noが逃げるなよ!!!」
「その重さを!背負ってこそのNoなんだろうがっっっっ!!!!!」
「…俺は」
「…たった1人」
「たった1人の女の子を泣かせないでくださいよ」
「辛いでしょうけど…、貴方は…」
「いつだって誰かを護ってたじゃないですか…」
「そんな貴方だからこそ…、あの人は貴方を信じたんでしょう?」
「貴方と最後を飾ったんでしょう…?」
「…くそっ」
「惨めじゃねぇか…」
「惨めじゃねぇかよ…、俺…」
「…立派ですよ」
「これって…、お墓ですよね」
「No,2と直属部下や、他の部下の」
「…亡骸も有るんですよね」
「軍や他の所から持ってきたのは…」
「…俺だ」
「軍の研究や薬の解明に必要だって事は解ってる」
「だが、せめて亡骸だけでも…」
「コイツと一緒に居させたかったんだ…」
「…強いですね」
「強くなんかねぇよ」
「俺は…、馬鹿なだけだ」
「だから、強いんじゃないですか」
「貴方は馬鹿で真っ直ぐだ」
「だから、強い」
「…ありがとよ」
「だがな」
ゴンッッ!!
「痛いっ!?」
「年上には敬語使いやがれ」
「あと、馬鹿は余計だ」
「殴らないでくださいよ…」
「…アイツに言われたんだ」
「「お前は負けるな」」
「「約束を守ってくれ」ってな」
「…守るんですよね」
「約束」
「当たり前だろ」
「…それでこそ、ゼロさんです」
「…泣いてたのはセントか」
「はい」
「…謝らなきゃなぁ」
「心配かけたし」
「森草にも、馬常にも、お前等にも」
「…お願いします」
「蒼空」
「はい?」
「ありがとよ」
「…どういたしまして」
読んでいただきありがとうございました