圧縮と解放
高速道路
「…全く」
ボゴンッ
瓦礫から手を引き抜く織鶴
「アンタもそろそろ逃げ回るのは止めたら?」
「お前みたいなのと真正面切って戦う方がおかしいんだゼ」
「アロンは頭の良いバカだゼ、全く」
「…アロンね」
「アイツみたいな変狂人、よく仲間にしたわね」
「まぁ、祭峰も理解はしてるんだゼ」
「危険分子だって事はな、だゼ」
「だが、奴にはそれを理解した上でも魅力的な物があるんだゼ」
「研究心に対する貪欲さ、って所かしら」
「そうだゼ」
「奴は嗚咽感すら覚える実験でも平気でやってのけるゼ」
「子供でも女でも、奴の前ではモルモットでしかないんだゼ」
「…それを黙認してるアンタ等も同類でしょう?」
「その通りだゼ」
「だが、それすらも課程に過ぎないんだゼ」
「はぁ?」
「俺達に必要なのは結果なんだゼ」
「正義感ぶった課程なんざ反吐が出るゼ」
「…ま、関係ないけどね」
「私はアンタ等をぶっ潰すだけよ」
「…恐ろしい女だゼ」
ドンッッッ!!
(靴の仕掛けによる超加速…)
パァンッッ!!!
「チッ…!」
(だが、それも足下を見出せば難なく避けられるんだゼ)
(この程度か?元No,4)
「急に静かになったわね」
「落胆してるんだゼ」
「元とは言え、軍のNo,4はこの程度とは思わなかったんだゼ」
「そう言えば、現No,4も死んだんだゼ」
「[3]と[4]の間が開きすぎてるんだゼ」
「…そうよね」
「アンタは知らないか」
「?」
「私と昕霧の能力は似てるのよ」
「勿論、戦いの手法も」
「…お前は身体強化」
「昕霧も確かに身体強化だが、能力は全くの別物じゃないのか?だゼ」
「違うわよ」
「認めたくはないけど、似てるのは性格」
「…お前等の性格なんて知らないんだゼ」
「そして、好きな言葉も1つだけ被ってるわ」
「何だゼ?」
「[一撃必殺]」
ベゴンッッ
「…アロンの時のように橋を持ち上げる気か?だゼ」
「そんな瓦礫投擲が効かないのは解ってるはずなんだゼ」
「えぇ、その通りよ」
「瓦礫投擲なんてアンタには効かないでしょうね」
「だから、瓦礫じゃなく…」
ガゴン…
織鶴は柱を引き抜く
柱を失った残骸はガラガラと崩れ落ちる
「…柱?」
「違うわよ」
ゴゥンッッ!!
それを地面へと突き刺し、揺れないか確かめる
「…何がしたいんだゼ」
「こうしたいのよ」
ベキベキベイベキベキッッ!!!
「!!」
地面は盛り上がり、ボコボコと音を立てる
「…地脈か、だゼ」
そう、織鶴が柱を刺したのは地脈の地点
活火山である、この山の地脈
即ちこの行為が示すのは
ボコボコボコ…
マグマの噴出である
ボゴンッッッッ!!!
「本当に無茶苦茶な女だゼ…!!!」
「自分ごと…!!」
「誰がアンタと心中なんかするか」
バンッッ!!
「…嘘だろ?だゼ」
柱をテコの変わりにし、地面を傾ける
つまり地脈から溢れだしたマグマは…
「全て俺の方へ…!!!」
「死になさい」
「遠慮するんだゼ!!!」
キュイン……
(耳鳴り…?)
ボコッ
「…マグマが」
収まった?
マグマの噴出が止まった!?
「…俺の能力を言ってなかったな?だゼ」
「俺の能力は[力の圧縮と解放]!」
「意味が解るか?だゼ」
「…私と同系統とでも?」
「いや、俺のは特殊系だゼ」
「力の圧縮と解放の特質は…」
パァンッ
「…例えば、こんな銃弾でも」
ベキンッ!!
「岩を砕くことが出来るんだゼ」
「…なるほどね」
「圧縮で力を蓄積し、解放で蓄積した力を解放する」
「面白い能力ね?」
「自慢だゼ」
フフンと鼻をならすラグド
「条件も序でに教えてくれないかしら」
「それは駄目なんだゼ」
「…残念ね」
「じゃ、私もお披露目よ」
「お前の能力は知ってるんだゼ」
「詳しくは知らないでしょう?」
「…?」
「私は筋力を強化する事が能力」
「それは腕だけに限った話じゃないわ」
ドンッッッッッ!!!!
「消------!?」
「勿論、脚力も」
ゴゥンッッッッッ!!
「っ……!?」
「ごめんなさいね?私も使いたくはなかったのよ」
「ただ、どうしても貴女が強くて…」
「ウザかったから、…ね?」
「…フッ」
苦痛に歪んでいたラグドの顔は次第にあざ笑うかのような表情へとなっていく
「力の圧縮…」
「つまり、お前との相性は最高なんだゼ?」
「解ってるわよ」
「そんな子供じみたやり方をやってくる事ぐらいね」
「…何だと?だゼ」
…待つんだゼ
軽い?拳が軽いんだゼ
どうして…?
「!!」
「あら、気付いた?」
「でも遅いわ」
ボキンッッ
「がぁあああああああッッッッッッッッッ!!!!」
「まずは一本」
ボキンッ
「二本」
「まだまだ行くわよ~?」
「ぐっっが…!!!」
キュィイインッッ!!
「!!」
ポスッ
「…あら?」
能力が…?
ガチャンッッ!!
眉間に突きつけられた銃
言葉を発する暇もなく、鉛の玉が放たれる
「…流石だゼ」
「危ないじゃない」
だが、弾丸が織鶴を貫通する事はない
「戦闘キャリアは伊達じゃないみたいだな?だゼ」
「当たり前でしょ」
「アンタの指に掛かる伝達神経速度の時間差があれば、私の頭を動かす事ぐらい造作ないわ」
「…敵ながら尊敬するゼ」
「それはどうも?」
密接した状態の2人
織鶴は能力を発動すればラグドを殺せる位置
ラグドは引き金を引けば織鶴を殺せる位置
「…」
「…」
何秒経ったか
何分経ったか
或いは、何時間経ったか
「…」
「…」
2人は無言のまま動かない
この場合、相手の隙を伺うのが常識だ
だが、この2人に隙などないのだ
故に、動かない
動けない
「…」
「…」
ピピ-----ッ
『只今、No,2側のクイ-ンが敗れました』
『No,2側は残りキングです』
「「!!」」
ゴゥンッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!
「…まさか、絵道が負けるとは思わなかったんだゼ」
「相手が相手だからね」
距離を取る2人
攻撃を行い隙を作る事を恐れ、双方が距離を取ったのだ
「…どうする?」
「目的は達成した?」
「知っていたんだな、だゼ」
「解るわよ」
「時間稼ぎ、違う?」
「その通りだゼ」
「No,2との交換条件だったからな、だゼ」
「…交換条件?」
「正面切って戦いたい相手が居るらしいゼ」
「もっとも、この時間稼ぎはこっちにも有益なんだがな、だゼ」
「なるほどね」
「仲間を使ってまでの戦いたい相手って…」
…ゼロ、ね
「それは違うんだゼ」
「は?」
「奴は「仲間を援護し、護って欲しい」とまで言ってきたんだゼ」
「だが、それはこちらの戦力を低下させかねないんだゼ」
「だから、断ったんだゼ」
「向こうの部下達も「必要ない」と口を揃えてたんだゼ」
「…ふーん」
…信頼されてるのね
まぁ、Noの人間にしては人間味の溢れてるアンタだもの
そうなって当然かしら
人間味が溢れているからこそ
まともな精神を持っているからこそ
知ってしまったからこそ
裏切った
「…馬鹿ね」
「?」
「何でもないわよ」
「で?アンタはどうすんの」
「…アロンを回収したいんだゼ」
「回収すれば?」
「良いのか?だゼ」
「あんな奴、ウチの火星でも倒せるわよ」
「居ても居なくても同じね」
「それに…、本気出されたらヤバいし?」
「…それはお互い様だゼ?」
「…あっそ」
「じゃ、遠慮なく」
橋から飛び降りていくラグド
降りる瞬間に笑っていたのは気のせいだろうか
「…下らない」
織鶴は瓦礫を蹴飛ばした
読んでいただきありがとうございました