引導
「何を飲んだんですか」
「…」
「…絵道さん?」
ツ-…
絵道の口から滴る血
「あはっ」
口元は歪み、悪魔のような表情へとなっていく
「…?」
「あはははははははははは!!!!」
「…コレは」
全身を凍える様に震わせる絵道
全身から血管が浮き上がり、声とは思えない声が口から発せられる
「あひゃっ!ぎゃひひひひひ!!!」
笑い狂い、涎を垂れ流す
声は濁り、目は血走っている
「…理性が取れましたか」
「ひゃははははは!!!」
「「「ヴオォオオオオオオオオオオ!!!!」」」
動物達は毒を飲んだかのように喉を掻きむしる
バタバタと何体かの動物は倒れていく
「…」
絵道さんの目の焦点が合っていない
そしてガタガタと過剰に体を震わせている
その上、狂気的な言動
…この症状は
「…超過能力」
「ちょ、超過能力…?」
「能力が身体を支配する事ですよ」
「オーバーヒートと似た現象ですね」
「…体の要領を超えたって事ですか?」
「そうです」
「つまりは、彼女は自我を失った」
「能力に支配されてしまったという事です」
…ですが、超過能力の症状に吐血はない
今し方、飲んだ薬が原因でしょうか?
「…どうなるんです」
「本来よりも能力の威力が増大します」
「そ、それってマズいんじゃ…」
「えぇ、かなりマズいですよ」
「見てください」
「動物達が…」
「彼女の精神支配に耐えられてないんです」
「彼女の精神支配は肉体までは支配できません」
「つまり、神経系統を支配するんです」
「神経…?」
「そう、つまりは筋肉ではなく神経を支配する」
「…それって体を支配するも同じなんじゃ?」
「そうですね」
「体が動くには神経からの伝達信号が必要になりますから」
「ですが、彼女のは強制的に神経を支配する」
「…筋肉が着いていけない?」
「その通りです」
「現代科学でも解明できないほど、人間の体は複雑ですから」
「彼女1人が全てを操れるワケがない」
「そうとなれば勿論、筋肉にも負担は掛かります」
「だから動物達は…」
「えぇ、そうです」
「彼女も1人や2人なれば操作はできるでしょう」
「傷付けないと行かずとも…、筋肉の過剰な摩耗を防ぐくらいにはね」
「それが出来てないから動物達は、あんな事に」
「それは彼女も同じですよ」
「!?」
「見てください」
「ぎひっ!!ぃひひひひひひ!!!」
「能力が逆流してるのか…!!」
「彼女の全身から血管が浮き出ています」
「筋肉の膨張、神経伝達の異常」
「ああなってしまっては、もう…」
ピピ-----ッ
『只今、No,2側のクイ-ンが敗れました』
『No,2側は残りキングです』
「能力を吐き出す肉塊でしかありません」
「ヴォオオオオオオオオオオオッッッ!!!」
砲口する動物達
口からは涎を垂らし、目は血走っている
「な、何で放送が!?」
「まだ絵道は生きて…」
「死んでいますよ」
「アレは能力の塊、とでも言いましょうか」
「…自分の身を犠牲にしてまで」
「そんな立派な物じゃないですよ」
眉を顰める奇怪神
その表情は軽蔑の色が見て取れる
「え?」
一瞬だけ見えた彼女の心
悲しみとか憎悪に塗り潰された心
「彼女は止めたんです」
「自分と戦う事を」
「…?」
「ガァォオオオオオオオオオオッッッ!!!」
「来た…!!」
「奇怪神さん!!」
「…解っています」
ベギンッッ!!
「…木が」
野犬は木へと噛み付く
その木は小枝のように、いとも簡単に折れてしまった
「グルルルルル……!!」
「…狼亞ちゃんより凶暴ですね」
「娘を、こんな野犬と一緒にしないでください」
「ハハ…、すいません…」
「コッッロセ!!!」
「コロセェッッ!!!」
「…アレが絵道、か」
「酷い物でしょう?」
「能力と引き替えに魂を売り渡した結果です」
「…っ」
そこに居たのは凜とした姿の絵道ではない
怪物のような姿になりはてたバケモノ
同情する事すら躊躇ってしまうようなバケモノ
「…俺は無能力者だから解りませんけど」
「能力者は…、あんな姿に成り果ててまで勝ちたいんですか」
「…人それぞれですよ」
「少なくとも、私はそうは思いませんが」
「…ですよね」
「それに、彼女の目的は勝利じゃないですよ」
「違うんですか?」
「明確に言い切れはしません」
「ですが…、少なくとも[勝利]ではないでしょう」
認めて欲しかったんですか?
貴女は
「グルルルル…」
「おっと、無駄話をしている暇はなさそうですね」
「火星君は動物を引きつけてください」
「私が絵道さんを…、殺ります」
「でも…」
「良いんですよ」
「彼女の心を覗いた私が引導を渡すべきです」
動物を止める度に見えた記憶の断片
彼女の心に垣間見えた記憶
とても、常人が見て耐えられる物じゃない
どうして彼等が出会ったのかは解りました
それの経緯も
だからこそ、思うのです
貴女は何故、彼を止めなかったのですか
貴女達がNo,2を、どれほど慕っているのかは解っています
だからこそ、彼を止めるべきだったはずです
彼を止めるべきだった
絵道さん、貴女は気付いていたんでしょう?
No,2が後悔している事に
反逆したことではない
仲間を巻き込んだことに
愚かですね
貴女は、それを知っていて彼を止めなかった
止めなかったんですよ
貴女は大凡、まともな神経を持ち合わせては居ないのでしょう
過去のせいか、能力のせいか
どちらにせよ、貴女は死ぬんでしょうね
自らの心と体を壊して
貴女は1人の男と出会ってしまった
その隻眼を見たときから、貴女の残酷な運命は決まってしまったんでしょう
憎むべき相手など居ない
居るとするならば神か、軍か
貴女は選択を誤った
あまりに重要な
重要すぎる選択を
しかし、それでもNo,2は貴女を見捨てなかった
救おうとした
貴方には称賛の意すら覚えますよ、No,2
修復の出来ない玩具を大切に、大切に愛でた貴方に
しかし、愛でられた玩具は壊れてしまった
自ら壊れた
ダムが決壊するように
今まで溜め込んだ物を吐き出すように
壊れてしまった
そして、そうさせたのは他の誰でもない
私なのです
「奇怪神さん!今です!!!」
「…さようなら」
ですから、私が渡すべきなのでしょう
貴方に、引導を
読んでいただきありがとうございました