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3話 次の世界へ

朝。

まだ空気が冷たい時間。


ガルドが、ゆっくりとこちらを見る。


「まずはレオ、お前の実力を見る」


持っていた剣を置き、木刀に持ち替えて言う。


「全力でかかってこい」


拳を握る。


――父さんとの修行。


果たして、ガルドにどこまで通用するのか。


俺は叩き込まれた感覚を思い返し、地面を踏み込んだ。


一気に距離を詰め、拳を振る――


「……っ!」


ガルドは動かない。


避けもしない。


ただ、わずかに体をずらすだけ。


それだけで、拳が空を切る。


「……!」


すぐに次を出す。


踏み込み、連打。


だが、当たらない。


すべて紙一重でいなされる。


視線すら変わらない。


「……くそっ!」


さらに距離を詰める。


今度こそ――


「……っ」


その瞬間。


視界が反転した。


「がはっ……!」


地面に叩きつけられる。


何をされたのか分からない。


ただ、触れられた感覚だけが残っている。


「……」


ガルドは、顔色ひとつ変えずに立っていた。


「カイルと修行はしておったみたいじゃな」


息を荒げながら、起き上がる。


「あぁ……毎日やってた……!」


もう一度、踏み込む。


今度は、もっと速く、鋭く。


「……っ!」


だが――同じだった。


避けられる。


いなされる。


届かない。


そして――


「……甘い」


横から叩かれる。


体が吹き飛び、地面を転がる。


「ぐっ……!」


息が詰まる。


これなら、父さんとやっていた時の方がまだ動けていた。


原因は分かっている。


無意識に魔法を使おうとしている。


その“ズレ”が、隙になっている。


「魔法を使う癖が抜けんと、いつまでたっても隙だらけじゃぞ」


「……っ」


歯を食いしばる。


分かっている。


でも、体が勝手に動いてしまうのだ。


「体の内を意識しろ」


低く、続く。


「外に出すな。呼吸を意識しろ」


「血の流れを感じろ。全部、中で回せ」


――父さんに言われた言葉と同じだった。


あの時は意識したが何も変わらず、「まだ早い」と言われ諦めたが……


今回はやってやる。


俺は言われたことを意識する。


そのまま、何度も踏み込み何度も倒される。


その度に、立ち上がる。


呼吸。


吸って、吐く。


心臓の鼓動。


血の流れ。


体の奥で巡る何か。


それを――逃がさない。


「……っ」


拳を振る。


今までより、わずかに速い。


だが、それでも吹き飛ばされる。


それでも――


「……これ、か……?」


一瞬だけ、何かが違った。


軽くて力がまっすぐ通る感覚。


「ほう、もう掴んできたか……」


ガルドの声が変わる。


「今のを忘れるな。それが身体強化魔法じゃ」


「これが……」


息を吐く。


少し動いただけで、全身が熱い。


「もちろん未完成じゃがな」


「消費も大きい。体にも負担がかかる」


一瞬、目が鋭くなる。


「じゃが――身につければ、化ける」


そこからは地獄だった。


殴って、倒されて。


立ち上がって、また倒される。


感覚がズレるたびに叩き込まれる。


それでも、少しずつ噛み合う時間が増えていった。


それからの日々は、ただ繰り返しだった。


最初は一瞬だった感覚も、


やがて、数瞬。


そして、数秒と繋がっていった。


だが、その代償も大きい。


全身が軋む。


筋肉が悲鳴を上げる。


内側から焼けるような感覚。


動けなくなることも、何度もあった。


それでも――


父さんと母さんの最後の顔が浮かぶ。


その悔しさで、何度でも立ち上がった。


気づけば、


倒れる回数より、踏み込める回数の方が増えていた。




――一年後。


拳を握る。


意識しなくても、体の奥が巡る。


呼吸、鼓動、血流。


すべてが繋がる。


地面がわずかに沈む。


拳を振る。


空気が弾ける。


「……いいな」


ガルドが呟く。


「もう問題なく使えとる」


息を整える。


あの頃とは比べものにならない。


今では、ほとんど吹き飛ばされることはない。


この魔法を一時間以上使い続けても、体が耐えられる。


「普通なら、そこまで持たん」


「時間だけで言えば、お前の父より長い」


「異常じゃな」


ガルドが笑う。


「その分、壊れやすくもあるがの」


「使い方を間違えれば、自分から壊れる」


「……上等だ」


即答だった。


ガルドが、わずかに目を細める。


「顔つきも変わったの」


「なら、次じゃな」


「……次?」


ガルドが背を向ける。


「魔王を倒すための組織に行く」


「……魔王を倒すための組織?」


「表に出とらん組織じゃ。カイルとエリシアもそこにおった」


「……そんなの、初めて聞いた」


「当然じゃ。ガキに話すもんでもない」


「国にも属さず、世界の裏で動いとる連中じゃ」


胸がわずかに高鳴る。


「そこに行けば、魔王に近づく……」


「あぁそうじゃ」


ガルドが笑う。


「なんて言ったって、全員お主より強いからの」


「……まじかよ」


「なんなら、わしより強い奴もおる」


「……!?」


言葉を失う。


この一年で理解している。


ガルドは化け物だ。


その上がいる?


「……冗談だろ」


「どうじゃろうな。行けば分かる」


胸の奥が熱くなる。


恐怖じゃない。


――高揚だ。


「……最高だな」


自然と笑みがこぼれる。


自分でも気づかないうちに、口元がわずかに歪んでいた。


その表情を見て、ガルドがゆっくりと目を細める。


「その顔、カイルそっくりじゃ……」


どこか懐かしむように、小さく息を吐いた。


「とりあえず今日はここまでじゃ。休め」


「……明日、出るんだよな」


「あぁ」


その一言で、現実になる。


その夜。


天井を見上げる。


この一年、強くなることだけ考えてきた。


――父さん、母さん。


「……待ってろよ」


小さく呟き、目を閉じる。


深く眠りに落ちた。


――翌朝。


「行くぞ」


「……あぁ」


最後に振り返る。


ここで、俺は変わった。


「……行こう」


前を向く。


俺は、1年の修行の地を離れ、組織へと向かった。

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