【序章】
とある妖怪と、とある高校生の女の子のほんのりほんわりした恋と日常を描いたほのぼのファンタジーです。
ですが、まれに暴力、流血表現がありますので苦手な方は回れ右してください。
【序章】
それはむかしむかし、千年ほど前の時代のお話。
都から遠く離れた街に人の‘心を啖う’と云われる“妖”がおりました。
“妖”に心を啖われた者はまるで他人の命令を淡々とこなす人形のように変わり果て、やがて人としての心を取り戻すことなく骸に成り果てたと云います。
その“妖”の体躯はしなやかでいて強靱、純銀の毛並みを持ち、人など一飲みにできるほど巨大な、それでいて美しい、狼に似た獣だと云われております。
そして純銀の巨体に映える、血のように紅く刃のごとく鋭い双眸は、見つめた相手を凍てつかせると云われ、その“妖”は誰からも恐れられておりました。
辺境のその街で人々を恐怖に陥れる、美しくも恐ろしい“妖”。
ですが、この世に存在する全てには『終焉』があるのです。
“妖”が気ままに人々の心を啖らい、奔放に生きる日々にも終わりは訪れたのです。
街の人々の助けを求める悲痛な声は遙か遠く、都にまで届きました。
その声は都に住まう、とある“陰陽師”の耳に入ったのです。
本来、陰陽師は都を、正確には都に住まう帝を守る者。
しかしその“陰陽師”は大変な変わり者でした。
帝を守り、その功績により己の地位を上げることに関心を持つことはなく、ただ妖を狩ることのみを思い、常に妖の血に濡れる。そんな陰陽師だったのです。
今まで派遣された陰陽師は心を啖われ、無事都へと帰った者はおりません。
“陰陽師”は己よりも強き妖と戦うことを至高の喜びとする変わり者でした。
そんな“陰陽師”がその美しくも恐ろしく、そして強い“妖”と戦うことを望まぬはずがありません。
噂を聞きつけた“陰陽師”はさっそく街へと赴き、“妖”が潜む森へと姿を消しました。
そしてそれから数日の間、狂ったかのような人の狂喜の笑い声と、獣の雄叫びが街に響き続けたのです。
美しくも恐ろしい銀の“妖”と、妖を狩ることを至高の喜びとする狂気の“陰陽師”。
彼らのどちらが生き残ったのか。
それとも相討ちとなったのか。
真相を知る者はおりません。
しかし笑い声と雄叫びがぷっつりと消えたその日から、二度と“妖”は姿を現すことはありませんでした。
そしてその日以降、“妖”の潜んでいた森のちょうど中心には誰が造ったのかも分からぬ社が現れ、奇妙な歌が街で歌われるようになりました。
『銀の“妖”と狂気の“陰陽師”の眠りし場所。その場所に純銀の髪に紅玉の瞳を持つ、人の‘悪夢’を啖らう者あり』
『その者に真名を捧げよ。さすればその‘悪夢’がそなたを苦しめることは二度とないだろう』
この歌は街の人々の間でひっそりと歌われ続け、現代では都市伝説として語り継がれております。
ですがこの歌には誰も知ることのない続きがあるのです。
『しかし“悪夢を啖らう者”はそなたから‘大切なモノ’を奪うであろう』
……というワケでプロローグでした。
更新はかなり遅い&かなりの長編となると思われますが、どうか最後までお付き合いいただければ幸いです。
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