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【10】オラクルストーン(3)

 ノーイックがふらふらと出てきてからしばらくして、大司教とハリエット、ギルバート、ヘーゼルダインの四人も王宮前広場に姿を現した。

 マクニール大司教の顔には安堵の表情が浮かんでいる。


 王国軍特製の巨大拡声器がセットされ、ヘーゼルダインがその前に立った。


『ただいま、無事にオラクルストーンに新王の名が現れました。わがブラックウッド王国の新たな王に、これより冠を授けます』


 司祭たちの手によって、王の権威を示す王冠と王杓、宝剣が運ばれてくる。

 祭壇の前にそれらが置かれると、マクニール大司教がその傍らに立った。


『ギルバート殿下』


 大司教に呼ばれてギルバートが前に出る。

 会場内がざわつく。


「ギルバート殿下?」

「第二王子の?」

「どういうこと?」


 人々があたりを見回す。


「やっぱり不正があったってこと……?」


 壇上の端に座るディアドラとノーイックに徐々に視線が集まってゆく。

 多くの人が眉をひそめた。


「やっぱり……」

「昨日のあの態度は、王族として相応しいとは思えなかったものな」

「インチキをしてたっていうのは、本当なんだ」


 ざわめきが大きくなるが、大司教が冠を高く掲げると、人々の関心はすぐにそちらに移った。

 見事な宝飾を施された黄金の冠に感嘆と賞賛に輝く多くの目が吸い寄せられる。


 マクニール大司教の声が巨大拡声器から重々しく響いてくる。


『これより、あなたはわがブラックウッド王国の元首となられます。幾久しく、国のためにお尽くしいただきますように』


 冠がギルバートの頭に載せられた。

 ギルバートが正面を向くと、マクニール大司教が高々と声を上げる。


『ギルバート陛下、万歳!』


 大司教の声に続き、会場内から「万歳!」という声が一斉に上がる。

 割れんばかりの拍手が会場を包んだ。


 半円形の水路の外側に集まった一般市民からも大きな拍手が送られる。


 歓声と拍手の合間に、ちょっと戸惑う声も聞こえてきた。


「ギルバート殿下が、新しい国王陛下なの?」

「どうも、そうらしいぞ」

「ノーイック殿下はどうなるんだ?」

「さあ?」


 首を傾げてそんな会話を交わしていた人たちも「ともかく、新しい王様が決まったんだ。万歳!」と前を向き、手を叩き始める。


 歓声と「万歳!」の声、拍手の音が終わることなく会場内を包んでいた。


 後から後から溢れててくる歓声と拍手の音に耳を奪われているうちに、アイリスの胸はいっぱいになった。


(ギルバートが、王になったんだわ……)


 壇上のギルバートは王杓を手にし、貂の毛皮で縁取られた王のマントを羽織らされている。

 その姿を離れた場所から見つめながら、アイリスは深い安堵が身体中に満ちるのを感じた。


 ギルバートは勤勉で努力家で、人々のことを第一に考えられる人だ。

 きっと、いい王になるだろう。


 壇上の隅に目をやると、歓声の渦に取り残されたようにディアドラとノーイック、そしてヒルダが肩を落として座っていた。


 よく見ると、ディアドラがレティキュールを手で触っている。

 今さら何をしようというのだろう。


 訝っていると、ノーイックの隣でぼんやりしていたヒルダが、急に立ち上がって祭壇のほうに歩き出した。


(何を……?)


 ヒルダの視線の先にあるものを見て、アイリスははっとした。

 すぐに立ち上がって、通路に出る。


「アイリス? どうしたの?」


 リリーの声が聞こえたが、説明している暇はなかった。

 椅子が並ぶ会場内を壇上に向かって足早に進む。

 横手の階段を急いで駆けあがる。


「ギルバート!」


 全身でギルバートにぶつかった。

 体当たりをくらったギルバートがアイリスとともに床に倒れた。

 その直後、鋭い刃が空を切り裂いた。


 ザクっと音がして、アイリスのドレスの袖がバサリと切り落とされる。


「「「きゃあぁっ!」」」


 前列の席から悲鳴が上がった。


「アイリス!」

「ギルバート、逃げて!」


 ヒルダが構えた宝剣がギルバートの背後から振り下ろされる。

 間一髪のところで、ギルバートは真横に転がった。


 王国軍所属の兵士が壇上に駆けあがり、ヒルダを羽交い絞めにする。


「謀反だ!」

「逮捕する!」


 会場内は騒然となった。

 ディアドラの姿を探すと、まだ元の席にいて、ノーイックとともに騒ぎの一部始終を眺めている。


 その口元に皮肉な笑みが、目に苛立ちが浮かぶのをアイリスは見た。


(ディアドラ……)


 アイリスはつかつかとディアドラの前まで歩いていった。


「ディアドラ様、ヒルダに何をしたんですか」

「何って? 私はただ、ここに座って見ていただけよ?」

「そのレティキュールの中にあるものを見せてください」


 ディアドラは怯んだ。

 身体を丸めるようにしてレティキュールを隠す。


「見せてください」

「な、何も入っていませんよ。ハンカチーフくらいです」

「でしたら、中身を全部、ここに出して」

「断るわ。何の権利があって……!」


 アイリスは一つ深呼吸をしてから言った。


「あなたは『白の魔石』を所持している」

「な、なんですか、それは……」


「とぼけないでください。人の記憶を操る悪魔の石、『フォビダンストーン』です。所持するだけでも、世界会議にかけられ、極刑を言い渡されるほどの禁忌の石。そのくらいのことは、いくらものを知らないあなたでもご存じでしょう?」

「し、知らないわ」

「知らないじゃ済まないんですよ!」

 

 アイリスは怒鳴った。

 初めて聞く怒声にディアドラの目が大きく見開かれる。


「知らないで済むわけないでしょう? 実際に使用したとなれば、たとえ知らなかったとしても言い逃れはできません。しかも、あなたは今……」


 王を弑するために使った。

 ギルバートの命を奪おうとしたのだ。


「私が、あなたを必ず地獄に送ります。覚悟してください」


たくさんの小説の中からこのお話をお読みいただきありがとうございます。

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どうぞよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
ギルバート殿下(もう陛下だけど)に続いて、アイリスもズバッと行きましたね。いけいけ~!
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