【8】そもそもなぜこんなに複雑な祭祀が必要なのか(3)
その晩、自室のベッドで一人になったアイリスはこの八十日ほどの間に起きた出来事について考えを巡らせた。
ヴィンセント王の崩御、婚約を破棄され王宮を追い出されたこと、謂れのない中傷記事……。
怒った母が、ディアドラに仕返しするために、父や兄を王宮から去らせ、やヘーゼルダインに手を貸さないように仕向けたこと。
聖水の小瓶を広めたこと。
(神器は全部、本物だった……)
聖水の女神の水盆も、魔石も本物。
魔石については実際に見てはいないけれど、状況から考えておそらく本物が実在し、ディアドラが持っていると考えてよさそうだ。
聖殿の中庭に植えられたブラックウッド。
その根元にある『オラクルストーン』にも本物の力が宿っている。
それが母、リリーの出した答えだ。
百日という日数と五度にわたる祭祀……。
ブラックウッド王国では、王位継承にあたり、なぜこんなにも長い日数を費やし、何度もの祭祀を行うのだろう。
王のいない百日間は、天の加護さえなくなるというのに。
ずっと守られてきた古くからのしきたりだからと言われても、その古い伝承にどんな意味があるのかは謎だ。
だが、ハリエットの話を聞いた時、何かしら腑に落ちるものがあった。
オラクルストーンには、天が王の名を刻む。
最大百日の時間をかけて。
過去には若い日の放蕩生活から生まれた、いわゆるご落胤が王になったこともあるという。
その王はあまり有能とは言えなかった上に早世した。
次の王は女王で長寿であった。
若い時から長きに亘り玉座にあったが、たいへんな賢王で、結果的に国は豊かになった。
それもまた、天の加護なのかもしれない。
良くも悪くも、刻まれた名が真の王の名。
必ず第一子の名が刻まれるという。
(本当に、ギルバートの名前が刻まれるのかしら……)
本当に、ギルバートが王になるのだろうか。
王妃の座が欲しいわけではないが、もしももう一度、運命がアイリスを望むのなら、ギルバートともに歩む覚悟はある。
国と民のために生涯尽くす覚悟がある。
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