表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/45

【7】簒奪の勧め(3)

「ノーイック、ここにいたのね」


 ディアドラがずかずかと部屋に入ってくる。


「なんだよ」


 ノーイックが不機嫌に応じる。


「なんだよとは、なによ」

「ここは王妃の部屋だぞ。勝手に入ってくるなよ」

「なんですって。偉そうに」


「だいたい、母上にはガッカリだよ。どこが有能なんだよ。あんな杜撰な準備で祭祀をやらされて、僕がどんなに恥ずかしかったか、わかるか?」

「あれは、全部ヒルダが……」

「この女がバカだってことは、母上だって知ってただろう! なんで、こいつに全部任せるんだよ! ふつうに考えて、ありえないだろ!」


 ヒルダが「ふえーん」と妙な泣き声をたてて泣き始める。

 ノーイックはそれを無視した。


「これからは、全部、ヘーゼルダインにやらせるからな。母上は黙っててくれよ」

「ノーイック、あんた、誰のおかげで……」

「あんたはただ、僕を産んだだけじゃないか。何を偉そうに威張ってるんだ、平民のくせに」

「なんですって!」


「ごまかしたって、嘘はいつかバレるんだよ! あんたが平民出身だってことくらい、僕だって、とっくに知ってるんだからな。伯爵以上の貴族の系譜はごまかせないから、男爵ってことにしたんだろうけど、誰かが必ず、どこかで嘘を嗅ぎつけるんだよ」

「そんなはずないわ。ちゃんと、全員の……」

「ほら見ろ。全員の、なんだよ。口留めでもしたのか。どこからか持ち出した金を使って」


 ディアドラがぐっと言葉をのみこんだ。

 泣き真似をしていたらしいヒルダが、目元に当てた拳の向こうから、どこか楽しそうにノーイックとディアドラのやり取りを見ている。

 思い出したように「ふえーん」とおかしな声を出しながら。


 ディアドラが低い声で言った。


「お金なんか使ってないわよ」


 少し声を高くして続ける。


「それに、たとえ、おまえの言ったことが事実でも、おまえが王になれば、私は王太后になるのよ。誰が何を言ったって、知るもんですか」


 そう言い捨てると、ヘーゼルダインを振り返った。


「ヘーゼルダイン! オラクルストーンには、いつ王の名を刻むの? まだ、何も刻まれてないみたいだけど」

「それに関しては、私にはわかりかねます」

「あなたにわからないことなんかないでしょう? とにかく、はやくやりなさいよ!」

「マクニール大司教に確認いたします」

「さっさと行きなさい!」


 軽い会釈をし、ヘーゼルダインは部屋を出た。

 扉を閉めるのと同時に、深いため息が漏れる。


(やはり、アイリス様を失ったことは、大きい……)


 大きすぎる。


 けれど、アイリスが戻ることはないだろう。

 ギルバートとの結婚を祝いたい気持ちはある。アイリスには幸せになってほしい。


 だが……。


(このままでは、国が立ち行かなくなる)


 第三の祭祀まであと三週間。

 それが終われば残すところ十日でノーイックは即位する。


(本当に、あの男が即位してしまうのか……?)


 王妃には、あの愚かな女が。


 なぜ、こんなことになってしまったのか……。

 自分は、なんのために宰相にまでなったのか。


 ヘーゼルダインは激しい焦りを感じていた。


 何か、手立てはないものか……。

 どんな手を使ってでも、自分は……。


*   *   *  


たくさんの小説の中からこのお話をお読みいただきありがとうございます。

下にある★ボタンやブックマークで評価していただけると嬉しいです。

どうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ