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【5】混乱する王宮、「捨てられ王妃」とその幼馴染のスローな日常(2)

 国王が崩御したばかりということもあり、祝祭などの派手な催しは避けられていたが、劇場での観劇や美術展などは、いつも通り開催されていた。


 次にリリーの友人たちと遭遇したのは、王立劇場に出かけた時だった。

 アイリスとリリーの顔を見るや否や、彼女らは一斉にディアドラの凋落を口にし始めた。


「ディアドラ、最近、めちゃくちゃ評判が悪いわよ」

「急に、悪い噂が広まり始めたわね」


 リリーは試しに「例えば、どんな?」と聞いている。

 

「全然、仕事をしないらしいわ」

「手紙も陳情書もたまる一方ですって」

「やらないんじゃなくて、できないんじゃないかって話よ」

「有能だって噂はどこにいったのかしらね」


 実際のディアドラの姿そのままだとアイリスは思う。

 友人たちのおしゃべりはさらに続く。

 

「貴族からの付け届けを、ほとんど独り占めしてしまうっていう話も聞いたわ」

「独り占めできない時も、一番いいものは自分がとって、残りを渡してくるんですって」

「とにかく欲が深いし意地汚いって話よ」

「ハリエットがいた頃は女官たちにもお裾分けがあったらしいのに」

「しかも、一番いいものは女官たちにくれたらしいのに」


 その通りだ。

 本当に、嘘みたいに、噂話が百八十度向きを変えた。

 真実を指し示す向きに。


 遠巻きにしかディアドラを眺めていなかった彼女たちは、もともとディアドラを疑っていた。

 やはり思った通りの女だったと言い合い、めちゃくちゃ盛り上がっている。


 聖水の効き目は、想像以上に顕著だ。


 これほど顕著なら、リリーの予想は当たっていることになる。

 ディアドラは失われたはずの禁忌の石を持っている可能性が高い。


 ほとんど間違いないのではないか。


 貴婦人たちの噂話は第二宮殿の惨状を嘆くものに変わっていた。


「とにかく、今、第二宮殿はめちゃくちゃらしいわ」

「そうらしいわね」

「届けるべき手紙は届けていないし、陳情に来る人たちは、全く話を聞いてもらえなくて怒っているし」

「毎日のように、あっちからもこっちからも、あれはどうなったんだ、これはどうなったんだって問い合わせが入って、女官たちは仕事どころじゃないらしいの」


 想像以上にあれているらしい。


「みんなすっかり疲弊しきっちゃってるんですって」

「ディアドラがすごい剣幕で怒鳴るもんだから、心が折れちゃった人もいるみたい」

「今すぐにでも、王宮の仕事を辞めたいって人がたくさんいるんですって」


「そこまで。ひどいなんて……」


 アイリスは心を痛めた。

 けれど、リリーはさっぱりした顔で友人たちに言う。 


「辞めたらいいわ」

「え?」

「王宮の皆さんが、もし辞めるなら、うちで雇わせていただくわ。優秀な方たちだってことは、わかってるんですもの」


 リリーの言葉に、友人たちが顔を見合わせる。


「確かにそうね」

「即戦力になるわね」

「うちにも何人か来てほしいわ」


「皆さんのお宅なら格式も十分だし、王宮から移ってきても恥ずかしくないと思うわ」


 女官たちのプライドも守れそうだ。


「だったら、辞めても行くところがあるっていう噂を流しましょうよ」

「いいわね。そのほうが転職しやすいし、お互いに助かるわ」


 リリーの友人たちはさまざまなネットワークを持っていた。


 大きな屋敷で侍女を募集している、しかもあちこちで、何人も。

 そんな噂が流れ始めると、王宮から人が去り始めた。


「あっという間に、半分くらいの女官が辞めちゃったみたい」

「残った女官たちも、毎日のように辞めていくんですって」


 街中で誰かに会うと、そんな話を聞かされた。


「それにしても……」


 リリーの友人たちの一人がしみじみと言う。


「ディアドラがあそこまでポンコツだとは思わなかったわ」


 別の場所で会った友人たちもため息を吐いていた。


「うちに来た女官が言ってたけど、本当に何もできないみたいね」

「うちに来た人も言ってたわ。手紙一つ、まともに書けないんですって」

「今までの高い評価は、いったいなんだったのかしら」


 次から次へととんでもないやらかしエピソードが噂になって流れてきた。

 ディアドラによるひどい暴言についての噂話も多かった。


「本当に汚い言葉で怒鳴るらしいわ」

「女官たちを床にひざまずかせて、怒鳴った上に脚で蹴るんですって」

「それじゃあ、辞めたくなるわよね」


 実際、どんどん人が辞めてゆくらしい。

 今や、第二宮殿にはほとんど女官が残っていないとか。


 そんな中、こんな噂話が耳に入ってきた。


「ヒルダ・リグリー、懐妊だそうよ」



たくさんの小説の中からこのお話をお読みいただきありがとうございます。

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