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【5】混乱する王宮、「捨てられ王妃」とその幼馴染のスローな日常(1)

「本当に驚いたわ」


 祭祀から数日が経ったある日、ブライトン家には再びリリーの友人たちが訪れていた。


「あんな失態、見たことがないわよ」

「席順や参列者の顔ぶれもおかしかったし、いったいどうなっているの?」

「ディアドラが仕切ったんでしょう?」

「それが、ヒルダとかいう新しいお妃候補に任せたんですって」


 リリーの居間でお茶のテーブルを囲んでいた。

 今日もジャスミンは学校へ行っていて、お茶の席にはリリーの友人たちとリリー、そしてアイリスがいたが、友人たちはとにかく休みなくしゃべり続けた。 


「あら、アイリスより優秀だって言う触れ込みの、どこの馬の骨ともわからない、あの女性に?」

「その結果があれだから、ディアドラがそれはひどくヒルダを叱責してるみたい」

「そんなに怒るくらいなら、ご自分で仕切ればいいのにね」

「次はそうするんじゃない?」

「それだけの力があるならね」


 誰もが我先にと言いたいことを言いまくる。

 女性のおしゃべりというのはだいたいこういうものだとリリーは言うが、なかなかの迫力だとアイリスは感心してしまう。


「優秀だ、有能だって言われているけど、本当にそうなのかしらって、ずっと疑ってるの」

「なんで女官たちは何も言わないのかしら」


 休みない上に容赦もない。


「アイリスを追い出したのが失敗だったのよ」

「せっかくハリエットが立派に育てた次期王妃をね」


 高貴な貴婦人たちは、物事を一切腹にためることなく吐き出し続けた。


 別の日にはこんな会話も聞いた。


「祭祀での不手際を非難する貴族が増えているみたいね」


 リリーと一緒に買い物にでかけた先で、貴婦人たちの一団に出くわした。

 アイリスとリリーを見つけると、ちょっと断れないほどの勢いでお茶に誘ってくる。


 最近できたばかりだというティーラウンジに落ち着くと、彼女たちは再びおしゃべりに花を咲かせ始めた。


「次の祭祀もどうなることかしら」

「アイリスとハリエットがいなくなって、第二宮殿の仕事もずいぶん滞ってるらしいし」

「そのわりと、ディアドラを責める声は少ないわね」

「第二宮殿で働く人の目は節穴なのかしら」


 おしゃべりは止まらない。

 会話の途中で誰かが言った。


「ところで、この小瓶、可愛いから欲しいっていう人がいたわ」

「持っていると、確かに悪いことが起きないみたい」

「前よりはっきり、ディアドラのおかしなところがわかってきたし」

「もしかして、本物の聖水が入ってるの?」


 それぞれレティキュールから小瓶を取り出し、窓の光にかざす。

 冬の弱日差しにも、小さなガラス瓶と金色の蓋はキラキラと輝いて見えた。


「どっちにしても効果は抜群なんだから、もっと、流行るといいわね」

「本当に無料でいいの?」

「もちろんよ。たくさんあるから、どんどん配って」

「じゃあ、今度またお邪魔するわね」

「是非」


 小瓶は人の手から手へと渡っていった。

 王宮で働く女官たちのうち、上級職についている貴族の娘たちの手にも渡り始めた。


「もっと広めたいわね。そうだわ、レイモンドの力を借りましょう」

「お兄様の?」

「ええ。レイモンドは次期ブライトン公爵ですもの。心づけとして、女官たちへの贈り物くらい、しなくちゃね」


 確かに、第二宮殿というところには様々な貴族からの贈り物が届く。

 賄賂というより、挨拶や心遣いとして、女官たちにちょっとした物を配るのだ。


 第二宮殿の女官たちは公平を心掛けているし、誰に対しても気持ちのいい対応をする。

 誰かを持ち上げて、王に推挙するようなこともしない。


 それでも、人のやることだから、何かの折に、彼女たちから好かれているか嫌われているかでビミョーに扱いに差が出ることもある。


 贈り物は大事だ。

 意外と大事。

 なくてもいいが、ないよりはあったほうがいいものの一つである。


 何をどう贈るかも大事だ。

 いただく物に対してあれこれ言うのは品性に欠けるとはいえ、贈り方や品物に人となりが現れるのも、また事実だからである。


 相手の喜ぶものを知っている人は、やはり好かれる。

 好かれていると、いざという時、ほんの少しのところで、対応に小さな差が出る。


 顔を合わせるのが気まずい相手がいる時に、「そちらには行かないほうがいいですよ」と教えてもらえる程度の助けが得られる。


 そんなわけで、贈り物はたいてい女官たちに好まれそうな品物が選ばれる。

 焼き菓子や果物はやはり多かった。

 ハンカチや小物入れなどを数十枚とか数十個単位で贈ってくる気の利いた貴族もいた。


 そういった贈り物に対して、ディアドラはとても強欲だった。

 一番いい物から自分の物にし、残りを他の人たちに回すのは当たり前だったし、価値のある品物だった場合は、誰にも回さず全部自分のものにしてしまうことも珍しくなかった。


「ディアドラを通さないで、ハリエット付きの筆頭女官に直接届けたたほうがいいわね」

「それがいいと思うわ、お母様。ちゃんと女官たちの手元に届けたいもの」

 

 リリーはレイモンドの名前でガラスの小瓶を数十個、第二宮殿に贈った。

 その効果が出るまでに、時間はたいして掛からなかった


たくさんの小説の中からこのお話をお読みいただきありがとうございます。

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