真代未来3
雪国だから夏でも涼しいといわれても、現地に住む人間にとっては、夏はうんざりするほど暑くて、
でも楽しい気持ちを短い夏にぎゅぎゅっと押し込めて私の記憶に輝いている。今年の夏はそんな夏でした。
次の季節が来たとしてもきっと楽しい思い出をたくさん作れるのでしょう。
そもそもこの北の地には夏なんてほんの少ししかなくてこの秋だってすぐに冬へと移り変わってしまうのですが。それは楽しい思い出が増えるということです。
夏休みが終わり、2学期が始まり、私はまたくるみさんと会えない日々が続きました。
会いに行っていないのではなく、会いに行っても見つけられないというのが現状です。
そうしているうちに体育祭の準備が始まりました。
気が重いです。
沈む気分を背負って校舎内をプラプラしていると、ようやく私は再び、久しぶりにくるみさんを見つけることができました。
「こんにちは!」
私は駆け足で中庭に向かいました。たたき開けるように中庭の扉を開けます。
くるみさんはいつだて、中庭の石碑に涼しげに腰かけています。よかったどうやら見た目上変わりはないようです。
「こんにちは。いそがしそうね」
彼女はいつもと変わらずゆっくりと振り向き、柔らかく微笑んで私を見ている。
私はなんだかうれしくなってしまう。
「はい。体育祭の準備です。といってもわたしはあまり運動が得意ではないのですが」
そう。気が重い。運動は人並みにできるけど、チームワークとか苦手です。
結局わたしはクラスに中途半端に所属したまま秋を迎えてしまいました。
昼食を一緒に撮ってくれるクラスメイトはいるけど、休みの日に一緒に出掛けるような中ではない。そんな関係を続けています。
しょうがないことです。私がいけないのです。
深入りすることができないのです。
それがとても怖い。
いつから一人で映画を見に行くことにためらいを感じなくなってしまったのでしょう。
何だって一人で併記になってしまったのはいつのことでしょうか。
いいえ、今はそんなことを考えている時ではないはずです。
くるみさんとの再会がうれしい。お話がしたい。
そしておそらくですがくるみさんは体育祭に出ないでしょう。
いままでの学校行事だって彼女が出席しているところは見たことがありません。なのでそちらの、一緒に体育祭に参加という希望は捨てましょう。
「ねぇ。今日はないの?」
くるみさんだって話題をそらしてきました。そういうことです。これは触れてはいけない話題です。
「もちろんあります。お菓子が先ですか?お茶が先ですか?それとも私のお話が先ですか?」
「お菓子」
躊躇なく食べ物を要求するくるみさんに私は声を出して笑ってしまいました。先ほどまでの空気はなかったことになったのでしょう。
「そこは全部とか言ってもいいんですよ」
いつものように私の隣に飛び降りてきたくるみさんに笑いかけると彼女も返してくれます。目線を合わせた彼女はとても魅力的です。
食欲も良好でいいことです。
それから私たちは学校であったこと、気になるニュースなど気の向くままに話しました。
くるみさんは主に相槌を打つだけですが、私にとってはとても楽しい時間です。
でもくるみさん。ちょっと怖いお話のほうが好きなんですね。
「もうこんな時間です。たのしい時間はあっという間です」
時計の針はもう下校時間を示していました。
残念なことです。もっと話したいのに。
「じゃあ……私帰りますね。また」
くるみさんと一緒に下校したことはない。
いいえ、くるみさんが私より先に中庭から出た姿を見たこともないです。
うっすらと霧のようなものが私の思考を覆っていくのがわかります。
見たくないのか、気づきたくないのか。
でも彼女は彼女です。彼女が何も言わないのであれば私は何も知らないでいようと決めました。
だから手を振って、またねと言って別れるのです。
わたしは他のクラスメイトとは距離をとってしまっていますが、くるみさんとのこれは違います。
くるみさんとは距離をとっているのではなく、彼女を尊重したいから適切な位置を保っているのです。
「ねぇ」
ですが、いつもと違うパターンに私は驚きました。
いつもであればこのままさよならなのに。
振り向くと彼女はどんよりとした、生気がないといったほうがいいのか、人形のような表情をしていました。具合が悪い?いいえ、何か違うようです。
「なにもきかないの?」
頭に直接響くような声でした。いつもと変わらないのにひんやりとしてるようにも感じました。
「はい。くるみさんが教えてくれるまで聞かないと決めました」
私はにっこりとほほ笑んで答えます。いつもと同じ、何も変わらないままの私でいる。そう決めています。
「それはとても都合がいい答えね」
ええそうです。この答えは私にとってもおそらくくるみさんにとっても都合の良い回答です。
いい意味でも、悪い意味でも。
「私のこと信じてる?」
「はい。信じています」
「この世に神様っていると思う」
「信じる人の心にはいると思っています」
「妖精とか、幽霊とかそういった存在を信じている?」
「いたほうが楽しいと思っています。だからいてほしいです」
なるほど、おそらく、たぶんこれが彼女の本質なんでしょう。そんな気がします。
はたから聞いてしまうと宗教の勧誘ですが、違います。彼女は本気で私に尋ねているのでしょう。
だから私はいつものように返答するのです。
「くるみさんは。私の言ったことが信じられませんか」
どうやらこの問いかけは想定外だったようです。彼女に一瞬で表情が戻り。
考え込むような用を見せます。
そこは嘘でもそんなことないって言ってもらって大丈夫なのに。
「いいえ。あなたは嘘をついていないもの」
ようやく口を開いた彼女の言葉もなんといえばいいのか。
私はくすくすと笑ってしまいました。
予感がします。確信を得てしまいそうです。
でも彼女が何も言わなければ何も言わないままを受け入れると決めたのです。
それは、私がくるみさんのことを自分より不幸そうな女の子だと決めてかかって自分が一番されたくない同情をしてしまった、懺悔なのか、
それともひとりぼっちで転校してきた私に居場所をくれたお礼なのか。
ただ単純にくるみさんとの日々が楽しかったからなのか。
わたしに当たり前の高校生活をくれたからなのか、
それ以外の何かなのかは全くわかりませんが。決めたのです。
決めたのです。
「あなた。変わった人ね」
「そんなことありません。私は引っ込み思案でクラスにもなじめていない普通の女の子ですよ」
そういうと彼女はいつものように、私と一緒に笑ってくれた。
そのあとはいつもの通り、手を振ってくるみさんと別れました。
また今度彼女に会える日がとても楽しみです。
きっといつだって楽しい時間が過ごせるはずです。
次からネタ晴らし編です。改稿編の意味を示します。