真代未来1
これはわたしの物語。ただ一人の物語
これはわたしが高校1年生に頃のお話です。始まりは桜が散った頃でした。
わたしは5月という中途半端な時期にこの高校に編入しました。あらかじめ言っておきますが、この編入についてわたしに何かあったわけではなく、ただ単に親の事情というだけのお話です。
なんでこんな中途半端な時期に…という気持ちが強いです。
もしもうちょっと早ければみんなと同じように入学できたかもしれないのに。
すでにできかけたグループに入ることもできずにいるのに、なんと勉強合宿が行われるというのです。
欠席したい!そんな気持ちでいっぱいでしたが、これを欠席したらますますクラスメイトとの距離を縮める機会がなくなってしまう。
そう思うと欠席という選択はできませんでした。わたしは渋々出席を決めました。
もちろんこの合宿は任意ではなく学校行事なので強制出席です。
だから本当に欠席しようと思ったらズル休みするしかなく、わたしにそんな度胸がなかった。というのも理由の一つかもしれません。
胃が痛くなるような思いでわたしは参加をしました。
幸いなことに面倒見の良いクラスメイトがあれこれ指示を出してくれたので合宿では居場所がなくて困ると言ったことはありませんでした。
ありませんでしたが、だからと言ってすごく仲のいい友達ができたかと言ったらそれはノーでして。わたしはあまりクラスメイトにははなしかけられずにいました。
体よく言えば気後れしていました。正直に言えばそれどころではなかったのです。
だからこそ余計に面倒見の良いクラスメイトはわたしにあれこれしてくれて、1人になりたいだろからと遠出のお願いまでしてくれました。
私は頼まれたノートを先生に届けにいって、戻りたくないなーとかなりゆっくりチャペルに戻ろうとしていました。
そのチャペルへの帰り道で私は彼女に初めて出会ったのです。
私たちの通う校舎はロの字形をしていて、口の真ん中には中庭がありました。
中庭と言っても何にもなくてただポツンと岩があるだけでした。
小学校も同じくロの字形をしていましたが、ここよりも広くて追いかけっことかできたのですが…まぁこの歳で追いかけっこもないでしょう。
いつもは何の気なしに通る中庭でしたがその日はいつもと様子が違いました。
中庭には女の子がいました。制服を着た女生徒が岩の上に座っていたのです。
私は驚きながらも何となく気になってしまいました。それはわたしがこの学校でひとりぼっちだからというせいもあったかと思います。
彼女も一人ぼっちなのでしょうか?
わたしはチャペルに向かう足を翻し急遽、中庭に行くことにしました。
チャペルの入り口には鍵がかかっていましたが、親切なクラスメイトに中庭はカードリーダーがあるので、それに学制証をかざすことで開くことを教えてもらっていたので、何とか挫折せずに開けることができました。
でもなんで中庭に行くのに鍵が必要なんでしょう?
中庭に入ると、かわらず女生徒が岩の上に座っていました。どうやら見間違いではないようです。
岩はわたしの背丈より頭2つくらい大きいのではないでしょうか。
そんな高さに彼女はただただ座っていました。スマホをいじるでもなく、ただぼんやりと。
中庭は日があまり入らないのか端っこには雪が溶け切ってなくて、ちょっと寒いようでした。
彼女は寒くないのだろうかこんなところにずっとるように見えるのに。
髪が長いとあったかいのかな?と私は自分の肩口で切った髪を見ながらそんなことを考えました。
「…こんにちは?」
恐る恐る。それでもゆうきをだして彼女に話しかけてみました。わたしの小さな声でも彼女には聞こえたらしく、彼女はゆっくりとこちらを振り向きました。
ふと私には彼女がロボットのように思えたのです。表情がないというか、何というか言いようのない違和感が見えました。でもすぐにその違和感は消えていなくなりました。
なぜなら彼女はすごく驚いた顔をしたからです。そしてそのまま固まってしまいました。
だから私はもう一度声をかけることにしました。
「…こんにちは? なにをしているんですか?」
私がもう一度声をかけると彼女はぱちくりと瞬きをしてようやく返事をしてくれました。
「…こんにちは。女の子がここにくるのは珍しいわね。驚いちゃった」
彼女は不思議そうな顔をしていますが、私も不思議そうな顔をしてしまいました。
答えになってないような?
「来ちゃ…いけませんでしたか?もしかして待ち合わせですか!?」
男の子と待ち合わせをしてたとか?
ふと、もしかしてデートの待ち合わせを邪魔してしまったのではないかと慌てた考えが脳裏をよぎっていきます。
やってしまった。やはり人間関係がわからないまま人と接するとこう言ったミスをしてしまう!
「……そうじゃないわ。ちがうの。単純に驚いただけ」
オロオロする私に彼女はクスクスと笑いながら話しかけてくれました。
どうやら待ち合わせとかではないようです。ちょっとホッとしました。
「わたしは…わたしは2組の真代未来と言います。今年の5月に転入してきて、皆さんのことはあまり知らないんです。なので失礼をしてしまったのかなと…」
私は胸に手を当てて彼女を見上げるように告げました。何となくですが彼女とは仲良くなれるような気がしたのです。
「…わたしはくるみ。おきくるみ。私…あまりクラスには馴染めてないからよく知らないの」
困ったように彼女は私に告げました。そんな彼女が何だかとても可愛いように思えました。
守ってあげたい。そう感じたのです。
「そうなんですか。じゃあきっと仲良くなれますね。わたしたち」
この予感は必ず当たる!私にはそう思えてなりません。
ぐっとこぶしを握り締めて告げる私をかわいいものでも見る目で彼女は微笑んでくれました。若干。そう若干子ども扱いされている気がしますがいいでしょう。
わたしたちは手を振って別れました。もう少しおしゃべりをしたかったのですが本格的に私は寒くなってきたので戻りたかったのですが、くるみさんはもう少し中庭にいたかったそうです。
でも寒そうだったのでわたしはさっき先生からお駄賃に貰ったチョコレートを彼女に渡しました。
嬉しそうにチョコレートを食べる彼女をみてわたしもまた嬉しくなりました。
なんでしょう。彼女が喜ぶと私もうれしい。彼女にはそんな雰囲気があったのです。
チャペルにつくとまだ夕食の準備中でした。
この合宿では食事作りを通して生徒たちの交流も図る目的もあるのでしょう。
キッチンには、私に用事を頼んだ面倒見の良いクラスメイトもいたので、用事を済ませたことと、中庭のことを聞いてみました。
彼はなんだか話しやすいのです。
「あぁ。中庭の岩はね由来は分かってないんだ。今度よくみてみるとわかるけどあれ、由緒書きとかもないんだよね。だから詳細不明。でも僕たちは石碑って呼んでるよ。なんとなくご利益がありそうだろ?」
彼はクラスの学級委員長というやつです。
ですが内申点のためというより本当に人がいいように思えます。包容力があるというか。
まるで学級員長になるために生まれてきてもいいといっても過言ではないはずです。
「そうなんですか。由来が分からないなんて不思議ですね…あっでも…今日あの岩の上に生徒が乗っていたような…?」
わたしが恐る恐る彼にそう伝えると、彼はその様子が面白かったようで、口に手を当てて笑い出しました。
「ごめんね。彼女ね。よくいるから大丈夫。怒られたりしないよ」
どうやらお知り合いのようです。
「お知り合いですか?彼女さんですか?」
やはり。この人が彼氏なのでしょうか?人を待っていたのではないでしょうか?たしかに彼女がいそうな落ち着き様です。
「そんなこと!そんなこと彼女に言ったら怒られるよ。絶対に僕のことは彼女には言わないでね」
私の言葉を遮るいきおいで、慌てたように彼はいいましたが、笑いすぎて涙を流す彼をみて、わたしは何だかちょっと嫌な気持ちというか、恥ずかしくなってきました。
そこまで笑わなくても良いと思います。
息も絶え絶えな彼は、涙を拭きながら不満げな顔をしたわたしを置いて食事当番にいってしまいました。
何だかとても腑に落ちない気もしますが、でも素敵な出会いもあったからよしとします。
くるみさん。仲良くなれるといいな。
その時のわたしはまたすぐ彼女に会えると思い眠りにつきました。
でも夕食にもその後の自習の時間にも彼女の姿は見つけられませんでした。
ようやく次彼女に会えたのは初夏の頃、夏休みの前でした。