プロローグ~古の巨人、北の大地の「神威」伝
いろいろ設定は思いつきなのでガバガバな部分もありますが、暖かい目で気軽に読んでください。
昭和20年8月15日。太平洋戦争を戦っていた日本軍が、アメリカら連合国に無条件降伏。これにて「第二次世界大戦」は終結した…とされている。
だが、その数日前に不可侵条約を破棄したソビエト連邦が、北海道方面へ侵攻開始。日本が降伏をしたあとも侵攻を止めず千島列島や樺太を奪い取り、ついにその魔の手は北海道に伸びた。
8月某日。最高指導者の命を受けて北海道への侵攻を開始するソ連の戦車たち。その数、およそ100両。抵抗する術のない日本は、ただただ蹂躙されるのみ。ソ連兵にとっては赤子の手をひねるように簡単なこと…のはずだった。目の前に「巨人」が現れるまでは。
朝焼けの靄の中からいきなり現れた、二体の鋼鉄の巨人。ソ連戦車の砲撃はまるで蚊でも止まったかのように通じず、逆にその左腕から放たれた50㎜の迫撃砲は数発貫いただけで戦車を破壊。もう一体の左腕からは火炎が放射され、逃げ惑う戦車とソ連兵を焼き払った。さらにその巨人は右手に刃渡り3m以上の「斬鉄刀」を装備。それが振るわれるたびに、ソ連戦車は紙細工のように斬り裂かれ、刺し貫かれた。まるで悪魔のように立ちはだかったこの巨人を前にして、撤退できた戦車はわずか数両。200人弱の生き残りは、恐怖から逃れるように母国の大地へ逃げ帰っていったのだった…。
数時間後、その巨人の姿はとある施設にあった。北海道東端、根室にある日本軍基地。そこにその巨人二体が仰向けに横たわっていた。
「やりましたねえ、八木沼大尉。あいつらの慌てようには胸のすく思いでしたよ!」
興奮を抑えられないといった様子で、日本軍士官の磯部恒明少尉は、隣に立つ人物に語る。
「うちの技術の粋を集めて作ったからな。だまし討ちをするような連中に後れなんぞ取らんよ」
この男、八木沼宣親は日本陸軍の技術士官であり、横たわる鋼鉄の巨人の生みの親である。
鋼鉄の巨人、超弩級人型機動兵士「神威」。
開戦時、大尉の実家であり、日本軍の依頼を受けた重工業企業『八木沼重工』が戦車に並ぶ秘匿兵器として開発を開始。物資の困窮する中で終戦間際についに完成。実戦配備の承認を待つだけだったが、日本の降伏によりそれは幻と消えた。しかし、ソ連軍の侵攻を察知するや独断で整備を続け、ついに出撃。八木沼と磯部はそれぞれの神威に乗り込み、前述の戦果を残したのだった。
「しかし…これの完成があと半年早かったらと思わずにはいられませんね。そうすれば大陸に派遣して」
「いや、間に合ってたとしても役には立たなかったろうよ。こいつを運ぶ術がないし、現地で生産しようとして戦況が悪化した中で話して完成できたとも思えん。それに、こいつに空を飛ぶ術はない。向こうから殴りこんできてくれたが故の戦果だよ」
磯部の言葉を否定した八木沼は、さらに磯部を落胆させることを言う。
「それに、これから俺たちの最後の仕事だ。こいつらとこの工場を廃棄し、関係書類もすべて焼却処分することだ」
「ええっ!!?せっかく作ったのに…それに、施設だけじゃなく資料も破棄するなんて…」
「いろいろ制約はあるが、こいつの力は十分『化け物』だ。降伏しておいてこんな化け物を持っていると連合国軍にばれたら、戦後処理で不利な条約を突き付けられたり、下手したら降伏受諾もなしにされたりする可能性だってあり得る。仮にこの技術が連合国軍が取り入れたとしたら、世界は地獄絵図になりかねない。アメリカにはこの破壊力を大量生産できる工業力があるからな」
「で、でも。ソ連には知られましたよ?」
「知ったところでどうにもならんだろう。神威は見てわかる代物じゃないし、あいつらだってこの侵攻はバレたくはないだろう。ファシズムという共通の敵があっただけで、本来共産主義の連中は米英の敵でもある。神威の情報どころかこの侵攻自体をなかったことにするだろうよ」
語りながら段取りをまとめる八木沼の後ろ姿、それを見てから神威へ振り返った磯部は嘆いた。
「そんな…。これだけの技術を世に出せないなんて」
肩を落とす磯部に、八木沼はこう励ました。
「なーに、ここで培ったものはきっと無駄にはならんよ。俺たちが当たり前のようにつけている腕時計にしても、もともとはバラバラに配置された部隊が同時に突撃できるようにするために普及した物だ。どれが活きるかはわからんが、戦場で使えるものは平時でも使え、しかも生活を豊かにしてくれる。さ、お前はみんなといっしょに神威を解体しろ。何人かは俺と一緒に書類を焼くのを手伝ってくれ」
こうして鋼鉄の巨人、神威は終戦のどさくさに紛れてその痕跡を完全に消した。
そして八木沼大尉の推察どおり、ソ連側からこの情報が漏れることもなかった。米英に侵攻が発覚する懸念からソ連の首脳陣は惨敗をこれ幸いと残存兵を粛正。作戦そのものを歴史上から葬ったのだった。
その後、八木沼大尉は退役後は実家に戻った。家業は弟の為親に譲り、自身は表向きSF作家としてその地位を築く。その活動の折、かつて焼却廃棄した神威の設計図や実験記録を「ネタ帳」に書き起こし保存。製作者本人の手によって、神威の記録は後世に残されることになる。
それから100年以上の時が立ち、「神威」は日の目を見ることになる。
2060年代、世界情勢が大きく二分されつつあった。
中国とロシアを両輪とする「ユーラシア人民連合」と日本とアメリカ、オーストラリアなどが中心となる「環太平洋同盟」との。
軍事面ではAIが搭載された無人機の戦地投入が一般化。加速度的に向上する性能と反比例して削減されていくコスト。戦場では無人機同士が互いを破壊しあうケースが当たり前になり、人間の手が遠のいていくことで殺戮性もあがり、未だ戦火が広がる中近東はもはやAI兵器たちの『闘技場』と化していた。
そのころの日本。
環太平洋同盟は発足する2060年代、強大化するユーラシアの脅威に加え、世界各国におけるAI戦闘機の配備・増強、これら外海の脅威が国民の国防意識を向上。当時の政権が憲法改正に乗り出し、長らくあやふやにされてきた自衛隊を「国防の要」と明記、国土防衛隊(俗称:国防軍)に解消し、その増強に乗り出した。併せて、日本独自の技術として『有人人型ロボット』の導入を発表。開発が始まった。
世界平和の実現にむけ、あえて戦場に『人の手』と入れることで、平和の尊さとはかなさ、守ることの難しさとそれゆえにかけがえのない存在であることを、体感をもって訴える。そんな方針のもとに、日本はアニメの世界でしかなかったロボット兵器の研究・開発が開始された。
そんな国家プロジェクトともいえる事業の中核を担ったのが、八木沼重工。21世紀に入り、ロボット工学において国内では最先端を行く企業となっていた同社は、2040年代から災害時の復旧及び救助活動に使用するロボット機器を開発、導入。そこで培ったノウハウを活用し、現社長である為明がかつて実家で発掘した大叔父宣親の『ネタ帳』の具現化を目指した。
そして2080年。日本のロボット兵器『機動兵士』のプロトタイプと言える機体が完成。
高速飛行、長距離飛行を可能とし、戦闘機の比にならない火力を搭載し一撃離脱戦法を得意とする高機動型の『新月』、あらゆる攻撃に耐えながら高火力武器をもって後方支援及び拠点防衛に特化した重装甲型の『満月』。初お披露目となった米軍との合同演習においては、従来の有人兵器を圧倒し、AI搭載の無人機とも互角以上の戦闘を披露。その性能を世界に知らしめた。
一方で、日本国防軍は新兵器完成を前に、ある国家プロジェクトを遂行し始めた。
それは、遺伝子操作により従来の人間の能力を高めた、生物学においてクローン生成以上の禁忌ともいえる“強化人間”の生成計画。2075年、この年の改元に合わせ命名された最高機密『慶光新生計画』であった。
21世紀に入り、日本を長く苦しめることになる少子化。2050年代、当時の政権が望まない新生児の保護体制、児童虐待の厳罰化などにより「子供を死なせず、活かす」という方針で人口増加計画に着手。結果、70年代後半にその成果が徐々に生まれつつあった。しかし、世論の配慮して新兵の志願制を維持しながら有人機増強による人員喪失リスクの増加という現状化、訓練以外での「質」の向上が求められていた。その一手として、受精卵の段階で遺伝子を操作し、能力向上を図る計画が実施された。これによって生み出された子供たちは”先天性強化人間”と呼ばれ、のちに士官学校に入学するものもあらわれ、その特異な才能を発揮し、戦力増強に一役買うことになった。そして、彼らの存在が軍内で定着しつつある中で、その性能をさらに引き出すシステムを搭載した新鋭機の導入がついに始まろうとしていた。
この物語は、国によって生み出された少年が、その運命を自覚しながら、仲間とともに戦場へ立ち、戦う物語である。