No.32 しりとりでもしてろ
「はい鍵」
眠たそうなリーナから部屋の鍵を渡される。
合宿のメンバーは4人1組の班に分けられ、大部屋で過ごす事になるらしい。そして基本的には自由時間と同じで船の中のどこに行っても良いらしい。賢者パワーを存分に使っているのかご飯も飲み物も無料で飲み食い出来る。賢者様様だ。
「…アンタと同じ班とはね」
「なんでイヤそうなんだよ」
「あれからやたら会うからよ。変な縁が出来たかと思うとヤになるわ」
確かに『デュエル』クラス合同練習戦以降やたらルーチェと会う機会が増えた気がする。そもそも私には友達はおろか、話す人間すら居なかったのだから人生何があるか分からない。これもコージローのおかげかな。
「あ、あの!!よろしくお願いします!」
金髪で眼鏡の女生徒が私とルーチェの間に無理矢理入ってきた。少し驚く。
「あ、すいません!お話してる最中に!あ、あのタイミングが、分からなくて!」
派手な見かけに寄らず小心者なのか青ざめながら大慌てで喋る。初めて見る人だ。もしや───。
「会えなかった人だ」
「なにアンタら合宿メンバー全員と会ったんじゃなかったの」
「いやクラスBとクラスCの人には殆ど会えなかったんだよ。接点も無かったし」
「そ、そうだったんですね…ずっと部屋に居たんですけどね」
「あれ、一応部屋まで行ってノックしたんだけどな?」
「あ、夜間はひたすら寝てるので気付かなかったんだと思います…申し訳ないです…」
…めちゃくちゃ寝るのが好きなのかな?リリアといいそういう奴多くないか?
「自己紹介させてください…!私、クラスCの
メルメリア・レオンって言います!よろしくお願いします!」
クラスCの人か、初めて会った。
確かクラスCから合宿に参加したメンバーはかなり少なかったような気がする。
「クラスCねぇ、下の上みたいな印象なんだけど合宿に着いて来れるのかしら」
「そんなん言うな!!」
「一応勉強頑張ってるんですけどね…」
申し訳なさげな表情でぽりぽりと頭を掻くレオン。
…なんだか男みたいな名前だなコイツ。
「夜ずっと寝てるのはめちゃくちゃ勉強してたから?」
「いや…単に寝るのがもの凄い好きでして…18時には寝るんです」
「あたしはわかんないなぁ、寝るのイヤじゃない?寝たら確定で1日が終わるような気がして」
ルーチェの言う事も分からなくも無いが私は寝るの気持ちイイ派だからどちらかというとレオン派だ。
「…そこのアンタはどうなのよ」
唐突にルーチェが別の人間に話を振る。その人間は部屋の隅で魔道具を磨いていた。
「そんなに好きではないかな」
その女生徒はぶっきらぼうにそう答える。コイツも初めて見かける生徒だ。
「あら、気が合うじゃない」
「そらどーも」
こちらの話に全く入ろうともせずに魔道具の手入れを続ける。ルーチェがその女生徒を睨むも意に介さずステッキの様な物を磨く。
「せっかくこのあたしが話を振ってやったと言うのに随分な態度じゃない」
「別に仲良しになる必要はないでしょ。私は私のスタイルで行かせてもらいますんで」
「あっそ。なら名前くらい教えなさいよ、もしあんたと喧嘩した時誰を負かしたか覚えておきたいから」
「野蛮ですなぁ」
そこは同意する、本当に。このルーチェの喧嘩腰の性格はどうにかならないものなのか。
ルカの時もそうだが別クラスの人間と会うと必ず喧嘩してるんじゃないか?
「私はクラスBのアッシュ・アーバイン。我流をモットーにやらせてもらいます、一応今年の「マジックコンペティ」の『フラッグ』に出てます」
「居たかしら、あんたみたいなマイペース野郎」
なんだか急にピリピリとした空気が部屋に流れる。我が強いヤツと我が強いヤツが合わさるとこんな感じになるのか。しかし、ここは一つ…
「私は船の中探検して来ようかな!!!こんなデケェ船乗るのとか初めてだしー!!」
アホな振りしてこの部屋を抜け出す!!
「逃げるつもりかしら」
そんな安い挑発には乗らない。
「ま、その方がいいでしょう、喧嘩が苦手な人も世の中には居ますんで」
…は?誰が喧嘩が苦手だと?
今さっきまでルーチェとアッシュでバチバチやり合っていたというのにそのバチバチが何故か私に向かってきたぞ。なんだコイツら。
「誰に向かって喧嘩が苦手とかって言ってんだぁ?」
「苦手じゃなかったら出て行かんでしょう。私は好きですよ、争うのも人が争ってるとこ見るのも」
「苦手か苦手じゃねぇか試してみるか?」
「ご自由に。いつでもどうぞ」
「バカなのかしら、こんなとこでおっぱじめる気?」
「あ、あの〜私は探検に行きたいんですけどぉ…」
「ちなみにだがこの船に乗っている限り魔法は使えねぇからそこんとこ把握ヨロシク」
4人の中心に突然コージローが現れる。
レオンが驚いて転び、壁に頭を打つ音が部屋に響く。
「…え、なにどゆこと」
「狙ってこの組み合わせにしたんだが、まさかこうも食い合わせが悪いとはな。さすが思春期喧嘩っ早い、対策しておいて良かったよ」
「魔法が使えないとかそんな事出来んの!?」
「出来るさ。だってこの船犯罪者の輸送船をリノベーションして小綺麗にした船だもんよ」
は、犯罪者??
「魔法を使って犯罪を犯した犯罪者が捕まった後も魔法使えちゃ意味ないだろ。だから魔法を使えなくする特殊な結界術を船に張り巡らせてあるんだよ」
「それをなんで私達を運ぶ船にしたんだよ!」
「絶っっっ対喧嘩するから。てか今しそうになったろ」
豪華客船だと思っていた船が犯罪者御用達の輸送船だったとかサスペンス、ミステリー系映画の冒頭か?
探検する気も失せる。
「あ、あの!」
聞いた事無い声。その為一瞬誰が声を上げたか分からなかった。
「ルーチェ・ウルシェラって言います!今回の合宿に呼んでいただき嬉しく思います!頑張ります!よろしくお願いします!」
ルーチェだった。明らかに猫を被っている。いつもより声が高く口調も違う。コージロー、もとい賢者の前だとこんなヤツになるのか貴様。
「普通でいいぞルーチェ。その喧嘩っ早い性格は別に
悪い性格じゃあねぇ自分をコントロール出来るように
成ればむしろ良い性格だ。闘争本能を操れるようになってくれ」
「は、はい!」
なんだコイツ。ほんとにルーチェか?
「じゃあな、あんま喧嘩すんなよーしりとりでもしてろー」
バタンと扉が閉まる。ルーチェを怪訝そうな目で見つめる。
「なによ」
「…別に」
数分前まで喧嘩が起こる一歩手前だったとは思えない程部屋が静かになった。
しばしの静寂。
「ゴリラ」
ルーチェが呟く。
「…ラッパ」
「パンツ」
「つ、つ…積み木…」
唐突にしりとりが始まった。




