No.29 友達、作ろう。
「クラス合同合宿ぅ!?」
場所は魔法学園リオハイム、女子寮。
ジフはそれを聞かされ胸がときめく。人とどこかへ行って泊まるだなんて人生でした事がない。学園の行事とはいえほんのりと憧れていた行事が体験出来る事に胸が躍る。
「はい、これ、メンバー表」
ルカから手渡された紙を受け取る、それをまじまじと見つめるジフ。知らない名前の生徒多い事に気付く。
「…結構な人数でやるんだ?」
「コージローが呼びかけてね、全クラスの「マジックコンペティ」で優勝したい人が集まったらしいからね」
全クラス、という事は全校生徒である。それを加味するとびっくりするほどに少ない。クラスDの生徒も居るがやはり少ない。クラスDの生徒達は魔法使いとしてメキメキと上達していったがそれとこれとは話が別、皆が皆、優勝を目指して魔法を勉強している訳ではない。
「それで提案、このメンバー表に載ってる人に会いに行こ」
「…今から?」
現在は夜、ほとんどの生徒が夕食を食べ終え、思い思いの時を過ごしていた。それ故に特定の生徒をこの寮から捜して会うのは中々困難であった。ちなみに、
ルカとジフは共に夕食を食べていたので食べ終えたタイミングでルカがメンバー表の紙を渡した。
「顔も知らないのにどうやって捜すわけ?」
「聞き込み」
ルカは変に度胸がある。一応ココはリオハイム。天下一の不良校であるとルカは分かって言っているのか怪しい。
変に気さくに声をかけても、謎にキレる輩がたくさん居る。不良とはそういうものだ。物事全てに対してイライラしている様な人間である。そうなった場合ジフが居るのでボコられるという事にはならないが揉め事はなるべく避けたい。
「あ、クラスAなら手早く済ませられるかも」
「…あっ、そっか」
─────
「で、なんでアタシの所に来るわけ?」
「一回やりあった仲だしクラスAに詳しくて1番話掛けやすかったから」
「それは勝ったヤツの言い分!!アタシはあんたの顔も見たくなかったんだけど!?」
ジフ達はルーチェの自室へやってきた。ルーチェならクラスAに所属していて生徒に詳しいはずだし外交的では無い性格から自室にいる確率が高かったからだ。そして実際に居た。
「このメンバー表のクラスAの人達、一緒に探して」
「私らコイツらの顔分かんないからさ!」
そうにこやかに言うジフをルーチェは怪訝そうに見る。
「会ってどうすんのよ」
「少しでも仲良くなって、合宿の時やりやすいように関係を構築しておく」
なんと打算的な言い方か。しかし今仲良くなっておいて損はない、コージロー発案の合宿なので一体なにをするのか分からない。そこで初めましてとなると人見知りのジフにとって厳しい合宿となる。
「お前も合宿に来るって事は優勝目指してんだろ〜、なら協力しなよ」
「…頼み方ってもんがあるでしょ?」
「なんだとー」
ジフはファイティングポーズを取ろうと掌を一瞬ルーチェに向けた。その瞬間、もの凄い勢いでルーチェが後退りしていき部屋の壁に頭をぶつける。そしてその痛みで頭を抱えてうずくまる。
…
「…えっ」
「…ジフ、なんかした?」
「い、いやなにも?」
ここでルカが気付く。
「ルーチェ、もしかして『デュエル』で最後にジフにやられた魔法、トラウマになってる?」
「わ、悪い!!??」
ジフはあの時覚醒状態にあり、記憶が飛んでいたのでピンと来なかったがルカは控え室であの試合を最後まで見ていた。掌で空気中の魔力に触れ、その魔力を、爆破し、さらに伝播させて辺り一帯を吹き飛ばす
『破滅の息吹』。その魔法はルーチェの意識を一瞬で刈り取り、トラウマとして爪痕を残していた。
「と、とりあえず協力したげるから今のは忘れて!」
「…ふぅん」
ニヤニヤしながら返事をするジフ。
おもむろに掌をルーチェ向ける。
「わぁやめろ!ばか!」
反応が面白い。ついやりたくなってしまう気持ちを抑え、女子寮の中庭に向かう。
「ほら、あいつがリリア・スコープ」
地べたに座り、中庭のベンチを机代わりにノートに何かを書いている小柄な少女が居る。どうやら彼女がリリア・スコープらしい。ジフ達は近づいて声を掛ける。
「お、おーい」
…
ジフの声が届いていないのか、リリアは引き続きノートに何かを書き続ける。
「む、無視っ…無視されたぁっ」
ジフがルーチェの肩を掴んで揺らす。ジフは喧嘩腰の相手や不良の相手ならお手のものだがこの手のマイペース系の相手はすこぶる苦手だった。そしてジフは意外にも繊細な心をしていた。
「あーもう!まどろっこしいわね、こうやりゃいいのよ!」
ルーチェがリリアの頭を思い切り叩く。
しかし、それでもリリアは書く手を止めない。
「わ!なにすんだよ!」
「こうでもしないとコイツはアタシらには気付かないわよ、ほらほら」
さらに二度三度、頭を叩く。
「いたっ痛い、なんか痛い!なになに!」
「こいつらがアンタに用事あんだって」
ルーチェの無理矢理な呼び掛け方でやっとリリアがこちらに気付く。余程集中していたのだろう。
「はい!お呼びでしょうか!」
「えっと、コージローがやるって言ってるクラスの合同合宿にあんた来るんだよね?事前に喋っといた方がいいかなって、コージローってなにやるか分かんないヤツだからさ」
リリアは思考が止まっているのかしばらくこちらを見て動かない。
「…あ!クラスDの人達ですか!リリア・スコープです!合宿頑張りましょう!!」
リリアは元気に自己紹介をする。
「何、書いてたの」
ルカがベンチに広げてあるノートを覗く。そこには謎の模様と数字がびっしりと書かれていた。
「先日行ってきた土地の土の成分を書き起こしていた所です!いわゆる土壌調査ですね!」
「へー、中々マニアックな事するんだ」
「でも個人で土壌調査って普通にどっかの学者とかがやってるんだからやんなくても良いんじゃね?」
「あっ」
ルーチェが急に声を上げた。
その瞬間、ジフが突然リリアに後ろから抱きつかれる。
「は!?いつの間に!?」
「なにを言うんですかお姉さん…?その土壌はここがこうなっていて土の成分や数値はこうですと本などに書いているものを「なるほどそうなんですね」と納得出来ますか???」
「いやっ出来るだろ!なんか詳しいヤツがそう書いてるんだから!?てか力強…!」
「本当かどうかぁ!!!!
わたしがまだ調べてなぁぁぁぁい!!!!!!!」
ジフの耳元で大声で叫ぶ。近くにいたルカも耳がキーンとなり顔をしかめる。ジフはもうぐったりとしている。
「私の目で見てぇ!私の手で調べてぇ!初めてそれが事実になるんですぅ!!もしかしたらそこで発見があって私の調べの方が正しいってなったら最高じゃないですかぁぁ!!!」
もう力が抜けているジフの身体を、リリアは涙目になりながらグラグラと揺らして大声で話す。ひとしきり話したリリアはジフの身体を離れる。
「ふう、どうやら分かってくれたようですね」
「え、うーん、そう、みたいだね」
これ以上なにか言うと今度は自分がああなりそうなのでルカはとりあえずリリアの言う事に納得する。
「えっと、私はルカ、こっちの倒れてるのがジフ。合宿ではよろしくね」
「ルカさんとジフさんですね!こちらこそよろしくお願いしますね!」
倒れているジフを横目にガッチリと2人は握手をする。
「…アンタもしかして弱い?」
「な、なに?あんまり聞こえない…」
──────
リリアと別れ、場所は女子寮のエントランス。
「次はお節介声デカ女か」
「…お節介声デカ女?」
「そ、とにかく世話好きでやたら声がデカい熱血女、おまけに中身はポンコツだからどうしようもないの。アタシもクラスで浮いてる方だけどもしかしたらアタシより皆から嫌われてるんじゃない?」
「い、良いヤツそうだけどな」
「周りに居られるとうんざりするわよ」
「えーっと、名前は、ヒバナ・アストロさん」
次の瞬間、ドタドタと誰かが走ってくる音がする。その音の正体はヘッドスライディングをしてやって来た。
「私を呼んだかそこの少女!!!」
「またハイテンションなヤツが来た…」
上手くヘッドスライディングが出来なかったのか、ヒバナは鼻から血を出しながら顔を上げる。ルカが若干引き気味に聞く。
「ど、どこから来たの」
「ふふ、そんな事どうでもいいだろう!問題は君が私を呼んだという事だ!」
「え、名前が聞こえたから来たの?」
そうとも!と満足気に胸を張って答えるヒバナ。どうやら耳も良いらしい。ジフはルーチェの耳元で声を小さくして聞く。
「こいつ呼んだら来るの??」
「いいえ?名前を口にしたら来るわよ」
想像以上に厄介なタイプの世話好きと暑苦しさだ。しかもどこから来たかは答えていない。文字通り飛んで来たのではないかと思う。
よく見ればヒバナの服がめちゃくちゃ汚れている。
恐らくその都度ヘッドスライディングやらローリングやらで駆けつけているのが分かる。
「それで!?私に何か用かな!?」
リリアにも説明したのと同じ事をヒバナに告げる。
「なるほど!確かに結束は深めておいて損はないからな!では、これからその賢者のどんな無茶振りにも対応出来るチームワークを作っておこう!!」
「いや、もう夜だし、これから、少しずつね」
「何を言うか!まだ夜は始まったばかりだぞ!!」
夜が始まる??その理論で言ったら朝も昼も夕も一日中起きてなきゃいけなくなる。思ったよりヒバナの頭のネジが飛んでいる事をルカとジフが理解する。
「おいルーチェあいつ止めろ」
「だから言ったでしょ、うんざりするわよって」
急にヒバナはルカとジフをジロジロと全身を見る。
「な、なに」
「いや、クラスDと言うからどうせ遊び呆けているものだと思っていたが意外や意外、しっかりと身体が引き締まっていて魔力の流れもサラサラで穏やかだ」
「見ただけで分かんの!?」
身体はまだしも、通常、魔力は目に見える様なものではない。見ようとすれば辛うじて見えるがあくまでもそれは空気中や物の魔力であって人が発する魔力を見れる人間はほとんどいない。
「ふっ、私は人を見る目はだけはあるんだ」
「…だけ?」
「ああ!私は基礎魔法しか使えない!!魔力混成とか難しすぎて頭がパンクしそうだ!!」
クラスDの生徒全員が出来るような所で躓いている。
なぜヒバナがクラスAにいるのか、ジフとルカは理解が出来なかった。
「ん、もしや君があのジフ・レインバールか。賢者が来るまで魔力が無かったと噂の…これはすごい、全く魔力が外に漏れていない」
「それも見て分かるのかよ!」
「身長も平均より高く筋肉もがっしりとしている。それでいて柔軟性もあると、さては君相当トレーニングをしているな───」
ジフの胸の部分を見て急に言葉が詰まる。
「…栄養は身長に吸われたという事か」
「おい!どこ見て言ってんだ!!Bはあるんだから別に良いだろ!」
「いや少しでもウエストのサイズが変わればAにもなると思うぞ。頑張ってこのままをキープするんだ」
「えっ…うん」
純粋にとても悲しそうな顔をするジフ。それを哀れそうにルーチェは見つめる。
「ルーチェは、そういうの、気にならないの」
「アタシはこれからだから別に…」
ルーチェは現在14歳。
これは嘘偽り無い気持ちだった。ただジフのようにはなりたくないとルーチェは密かに思う。
「ルカはスタイルが良いな。食生活や運動もよくしているだろう」
「うん、まぁ、長生きしたいからね」
「胸だけでいったら私が勝っていると思うんだがやはりウエストか…」
「まぁ、これはちょっと、頑張ってる」
思春期真っ只中になるとああも身体の一部を比べるものなのかとルーチェは思う。
「でもこの眼、結構使えるでしょ?」
「ん?ああ、コージローはこういう尖った性能というか才能好きだからな、気に入られるかもな」
「わはは!そうなったら光栄だな!」
キンコーン。
女子寮に消灯時間を告げるチャイムが響いた。
ヒバナには夜は始まったばかりかも知れないが世間ではもう練る時間。一度、軽く咳払いをしてからジフが言う。
「えーっと…ルーチェもありがとな、なんだかんだ協力してもらって」
「…改めて言わなくて良いわよ」
少し照れているからか、目線をジフに合わさず言う。
「少し寂しいが仕方ない!寝る子は育つからな!健康には気を遣うんだぞ!さらばだ諸君!!!」
そう大声で言うとヒバナはドタドタと去っていった。
「じゃ、ジフ、また明日も、ね」
「えっ明日もやんのか」
「BとCも残ってるから、ね」
どうやら本当に合宿前に全員と会うつもりらしい。クラスBとクラスCの生徒とはまだ誰とも会っていない。先生達に頼んで顔写真貰うなり外見の特徴などを聞くなりしようとジフは思った。
25/03/02
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25/03/03
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