No.28 気合いのいる事するじゃねぇか
「ようお疲れさん」
コージロー先生が僕の肩をポンと叩く。
「クラスAのヤツら全員と面談したんだって?また
随分と気合いのいる事するじゃねぇか」
「あはは…もう少し真面目に生徒と向き合ってみようかなって」
お昼。
もはや恒例のように進捗や悩みやちょっとした事を教員室でコージロー先生とリーナと話す。意外とこれがガス抜きのような時間になるので密かな楽しみとなっている。
「んで、なんか収穫あったかよ?」
「…クラスAの特性として、高い志を持っている人ほどクラスから浮いていると感じました」
「けっ、イヤなクラス。陰湿すぎるぜ」
「その生徒達となら、もしかして「マジックコンペティ」優勝を目指せるんじゃないかなって」
「結局、何人居たの?」
リーナが遅れて教員室に戻ってきた。
「まず1人目はルーチェ・ウルシェラさん。本人も優勝を目指していると明言しています」
「筆頭だな。気合いの入ったヤツぁ俺は好きだぜ」
ルーチェはクラスAの中で最も野心があると言える。
他の学園の推薦を蹴り、この最弱の学園リオハイムで下剋上をする為だけに来た。この野望には必ずルーチェが必要だ。
「2人目はハナ・ガーランドさん」
「あら、ハナちゃんも?意外ね」
外から見るハナさんと近くで見るハナさんは全く違う印象を受ける。外からは凛としていて華やかで、仕草や外見からまるで王子様の様に映るだろう。
その実、家族の関係でリオハイムに『来させられ』凶悪な魔法を持っていたり、ちょっと危ない思想をしていたりと中々に危なっかしい生徒である。
復讐に近い気持ちだが「マジックコンペティ」の優勝を目指している。
「ハナはもう少し素を見せてくれりゃあこっちも信頼出来るんだがな」
「ライバルや本当の友人が出来たらいずれは見せてくれますよ」
「3人目はジャム・ジョレンテさん」
「え!?」
リーナが驚く。ジャム君をなんだと思っているんだ。
男の夢を叶えし者、ジャム・ジョレンテ。
面談した際、僕は「マジックコンペティ」優勝を目指している事を言うと指をパチンと鳴らし───
「意外と良い夢持ってんね先生、で、俺は何をすれば良い?」
と、めちゃくちゃ乗り気で話をしてくれた。色々話をして、最後に何故僕のこんな途方もない目標に乗ってくれるのか理由を聞いたら、
「男の夢は俺の夢、先生の夢は俺の夢さ」と。
「おいかっこいいなコイツ、一回俺も喋りてぇ」
「いや、どうせバカなだけでしょ…」
「4人目はリリア・スコープさん」
「…そんな子、居たかしら」
数百人いるクラスAの1番後ろの席にいる小柄な女生徒、リリア・スコープ。授業中はずっと授業とは関係ない事をノートに書き続けるボサボサの天然パーマとオーバーサイズの制服が特徴のリオハイム新入生だ。
その彼女に面談で目標、もとい野望を聞いた。
「ワタシの夢は、だれも見つけた事のない島や大陸を見つける事です!!」
リリアの夢は船で世界を見て回り旅をする事だと言う。そして誰も発見していない島や大陸を見つけ、唯一無二の地理学者になる事だった。
彼女に「マジックコンペティ」の優勝に手を貸してくれないか、とお願いしたらぜひ、と快諾してくれた。
「でも、今更地理学者って珍しいわね。もう世界で見られてない所なんてあるかしら」
「僕も似たような事を言っちゃったんだ、そしたら…」
『まだワタシが探してないじゃないですか!!!』。
「はっはっはっ!良い性格してんなそいつ!」
「しっかりと謝りましたよ、その通りだと」
「地理学者の自信家…あんまり聞いたことないわね…」
「5人目はヒバナ・アストロさん」
声が常に大きく、人を助けたり、率先してイベントを仕切ったり、授業にもやたら前のめりに取り組む赤く長いポニーテールが特徴の熱血少女。
ただ、彼女はミスをもの凄い数する。ドジっ子というわけではなく本当に能力や知識が足りないミスの仕方をする。しかしそれを挽回する程の努力家で、その努力でミスを取り返し、結果的にプラスマイナスゼロ、みたいな非常に惜しい女生徒だ。
「マジックコンペティ」で優勝する為に手を貸してほしいと言ったら──
「勿論ですとも!!私に出来る事なら何でも言ってください!!」
と、やる気満々に答えてくれた。しかし空回りが怖くてあまり頼れないが、協力してくれるのであれば大変心強い。そのヒバナに野望はあるか聞いてみた。
「国王になる事です!!!魔法使いとして貧弱でも!圧倒的な人望と不退転の意思があれば!私でも成れると思うので!!!」。
「まぁそんな性格とその夢でクラスAにいるんだからそりゃあ浮くよな。そいつ…」
「ヒバナちゃんだけよ、私が担任の頃に色々手伝ってくれたのは」
「ただ今年で在学4年目なので来年卒業出来なければ留年という事になる、というのが不安ではありますね」
「本当にクラスAかよ…」
「とまぁ、協力的だった人生徒達はこんな感じでしたね」
「なんだ随分少ねぇな」
大きな野望を持ち、クラスで浮いていたとしてもやはり「マジックコンペティ」優勝という、無謀とも言える野望を数年の短期間で成し遂げる事に協力してくれる生徒は少なかった。協力しない理由としては自分の夢を優先する、という訳だからこればっかりは仕方がない。
ただ、この他にクラスBやクラスCもいる訳だ。
その中に少しでも協力してくれる生徒がいればもの凄くありがたい。数年前のリオハイムでは考えられない程
学園の状態が良くなっている。少なくとも来年の
「マジックコンペティ」では最下位を脱出出来そうだ。
「んじゃあそいつら纏めて合宿みたいな事するか」
『え!?』
僕とリーナが驚く。そんな事この学園が許可してくれるのか?
「魔法学園リオハイム、クラス合同秋季キャンプだ。
金は俺のポケットマネーでやる」
た、頼もしい…!しかし、もしかして…
「学園が許可しなかったとしてもやる。その時は生徒としてではなく『賢者の弟子』として連れて行くぜ」
賢者コージロー・ムラサキだから出来る職権の濫用。
この人がいればきっと出来るぞ、優勝…!!




