表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/49

No.2 近づいて殴りゃ勝てんだよ

見学。


見て学ぶと書いて見学。

見て?学ぶ?魔法も使えないのに?魔力の欠片も持っていないのに?魔法使いが杖を振るうのを指をくわえて眺めて、一体何を学べというのか。


なので授業になったら逃げ出して遊びに行った。木を登ったり壁を越えたり走ったり。もはや子供の遊び方である。まぁ子供なのだから当然といえば当然。ただいつまでも子供のままではいられない。


親が『私』をリオハイムに入学させると言ってきた。


驚きも焦りもしない。


他の「やる気」のある進学校に無理やりねじ込まれて、「頑張れ」「やれば出来る」「努力が足りない」なんて無責任な言葉を浴びせられるよりはずっといい。底辺と呼ばれる場所で、誰からも期待されずに生きる。そう思ったらだいぶ楽だ。というか最高だ。


魔法学童に通っていた頃、教員に言われた言葉を思い出す。


『お前はこの先、どうやって勝って行くつもりだ?』


憐れむような、それでいて蔑むような目だった。


私は迷わず答えた。


「近づいて殴れば私が勝ちます」


お前はバカかと言われ、殴られそうになったのでしっかり躱してから正当防衛として教員の腹を殴った。

水風船より少し固い、なんとも言えない感触と、大人がうめき声を上げて蹲る様は今でも鮮明に覚えている。


その後、親と学童からしこたま怒られた。


「勝ったんだけどなぁ」


そう思ったけれど、口に出したらまた怒られそうだったので、言葉を飲み込んだ。


しばらくして、私は魔法学園リオハイムへ入学した。


「リオハイムの唯一褒められている点は、寮があることだ。我が家が広くなって快適になる」


親はそう言った。子供の前でよくそんな台詞が吐けるものだ。余程『私』という出来損ないが家にいるのが鬱陶しかったらしい。


入学して数日が経つと、私が魔力を持っていないという事実はすぐにバレた。

すぐさま悪い考えを持つ輩に絡まれた。治安が悪いとは聞いていたが、ここまでとは。


囲まれる。ニヤニヤと笑う男子生徒たち。弱い者を見つけた時のハイエナのような嗅覚と行動力だけは立派なものだ。


なので、蹴って、殴って、ついでに制服を「借りた」

うむ、立派な正当防衛だ。

…あいつらは明日からスカート履いて登校してくるのかな。


学園内は原則、魔法の使用は禁止。だがここはリオハイム、治安の悪さと頭の悪さなら世界一だ。


翌日、昨日の輩が仕返しに来た。今度は魔法を使う気満々で。なので今度は、刺すか斬るかしようとナイフを取り出した。


銀色に光る刃先を見せた途端、相手は顔を引き攣らせて逃げていった。刺せず、斬れず。でも捕まりたくはなかったので、ナイフを仕舞いながら少し安堵する。

こうして私は、ナメられたら殺すというポーズを取り続けることで居場所を確保した。


夏。


まともに授業を受けず、校舎の屋上で寝転がっている間に「マジックコンペティ」の時期が到来した。

様々な種目があり、個人・団体の二つの成績を総合して順位が決められる魔法学園の祭典。


個人なら『デュエル』、団体なら『フラッグ』が目玉種目だ。モニター越しに見る先輩達は、さすがだった。

流れるように敗退していく。

悔しがりもせず、少し汗ばみ、ヘラヘラと笑いながら、晴れやかに退場していく。「やり切った」という充実感を漂わせながら。


その笑顔に、無性に腹が立った。

授業をサボり、遊び呆けていた『私』がイラつく義理はない。けれど、魔力という才能を持ちながら、それをドブに捨ててヘラヘラしている奴らが許せなかったのかもしれない。


結果的にこの年で「マジックコンペティ」逆V9を達成することになった。


それからしばらくして、新しく一人の教師がやってくると学園内で噂になった。


九年連続最下位になって、ようやく「マズイ」と思った結果が、教師を一人連れてくるだけ。その程度の危機感。やる気の無さが伺える。


夏服では肌寒くなってきた季節。


朝、寮から校舎へと続く並木道を歩く。輩からズボンを「借りておいて」正解だった。スカートと違って足下が全然寒くない。


広場を通り過ぎれば校舎の入り口だ。

通り過ぎれば、の話だが。


「.....なんだあれ」


広場に人だかりが出来ていた。

何かの催し物? こんな朝から? それとも事件?

とうとう死人が出たか。いつか誰かやるとは思っていたが。


「通ってよーし!」


…検問?リオハイムで?いや、リオハイムだからこそか。


「あ!」


まずいな、『私』のカバンにはナイフとメリケンサックが入っている。今はおしくらまんじゅう状態。ガラの悪そうな男子生徒のポケットに『私』のナイフを忍ばせる。メリケンサックの方は護身用という事で納得してもらえるだろう。


「どいつもこいつも魔力ビンビンじゃねぇか!本当にいるんだろうな化石野郎は!」


「見ればわかると思います!本当に魔力が無いんですから!!」


『私』だ。

『私』を探している。何かやったかな?やったな。

心当たりが多すぎてダメだ、逃げるか?

しかし時すでに遅し。『私』の後ろにも人だらけ。


瞬間。腕を掴まれる。


「こいつです!魔力ないやつ!」


一斉に注目が『私』に集まる。腕を掴んだ男子生徒を睨む。何ともひ弱そうな男だ。

あとでお金を「借りよう」

そう思う。


「お前が化石野郎か」


声は、頭上から降ってきた。

見上げる。

男が、空に浮いていた。

浮遊する魔法なんてあったっけ。勉強不足なので分からない。だが、人間が物理法則を無視して浮いている光景は、生理的な恐怖を煽る。


リーゼントにサングラス、真っ白な白衣とネクタイを締めていないワイシャツに和柄のジーンズ。絶対に関わってはいけない人種だ。連れさらわれて研究対象として非人道的研究をされた後臓器を売り飛ばされるんだ。間違いない。


身体を浮かされる。こんなことになるのなら少しは授業に出席して頑張ってますアピールをしておけば良かった。


「右腕見せろ」


腕?腕を売り飛ばそうとしているのか?腕一本で助かるならぜひと差し出す。


「捲くれよ」


じゃあ最初からそう言え。

そう言ったら殺されそうなので大人しく捲る。


男はサングラス越しに、私の右腕にある奇妙な模様を

鑑定するかの様にまじまじと見つめた。


「お前、名前は?」


「…ジフ・レインバール」


「よしジフ。世界一の魔法使いになろう。」


広場にいる全員が同じ事を思った気がした。


「は?」


『私』ジフ・レインバール16歳。

他の女生徒より少し高い身長、細い眉、吊り上がった目、黒のショートボブに金のメッシュが入った髪。


この世界で唯一魔力を持たない自他共に認める

『不良』少女。



挿絵(By みてみん)

イメージ図を追加しました。

あくまでもイメージ図…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ