No.12 今、貧乳なだけだ
休日。
快晴。
暑さもだんだんと低下してきた。あと数週間もすれば涼しくなると思うと、この蒸し暑さが少し寂しく感じる。
魔法学園リオハイム女子寮の中庭。
ボールをひたすら壁に向かって座りながらトスをする
不良少女が1人。
「…なにやってんの」
「あばっ!?」
驚いてボールを落とす。顔に直撃。魔障壁もないからちゃんと痛い。そして恥ずかしい。
仰向けになった私と目が合う。
「…どちらさん?」
水色のウルフカットの女が手をグーパーしている。
「…ぶらいんどわーむっ」
「お前ミミズ出したヤツか!!!!!!」
あれ以来嫌いな生き物ランキングでミミズが大躍進を遂げトップ5に入る程嫌いになった。殴ろうと思ったがまた出されても困る。コージローが来て以来、人を殴りにくくなった気がする。
「見てわかんねーかよ」
「分かんないから、聞いてんの」
こいつ、ミミズ出す可能性さえなきゃ無視するのに。
「練習だよ練習『瓦解』っつー技覚えなきゃだから」
「へー、意外とマジメ?」
一瞬考える、魔力が使えると分かってからは使えない時に比べるとめちゃくちゃ真面目になった気がする。
「まぁ最近は…」
またトスを上げ始める、壁に当たって跳ね返ってくるボールに手が触れた瞬間、魔力を流し込む。
『瓦解』の感覚をとにかく身体に覚えさせる練習だ。
「な、なんか用かよ」
「いや、なにしてんのかなーって」
な、なんだコイツは、こういうタイプが1番厄介だ。
一刻も早く私から興味を無くせ。
「やれること、増えたよね」
「あ?あーそうだな、増えたな」
「ジフ、胸小さいよね」
ボールを落とす。顔に直撃。魔障壁もないからちゃんと痛い。
「…さっきからお前は何が言いたい?」
めちゃくちゃ睨む。鬼の形相で睨む。明らかに喧嘩を売られた気がする。もう虫でもミミズでもなんでも来い。殴ってやる。
「え、日常会話だよ」
お前、ズレてるよその感覚。そんな会話デッキがあってたまるか。
「…そういや私ぁ名前覚えんの苦手なんだわ、あんたの名前なんだっけ」
「ルカ・ワンダーホーク」
ちらりとルカの胸を見る。…大きい。なるほどこれで確定した、喧嘩を売られている。珍しい角度から売られたから少し驚いたが私は買うぞ。
「B」
カップ数を言い当てるな。これ以上踏み込んで来たら殴る以外の選択肢はなくなる。
「わたしはE」
肩を力強く掴む。
「お前はもう喋るな」
褒めてほしい。殴らず、まず口で忠告するという事が出来るようになった私を。
「練習、付き合ってあげる」
「…なにぃ?」
魔力混成。
発生。
一瞬たじろぐ、が、白くて長い魔力の光が出てきただけだった。ディテールが雑なミミズといったところか。これなら大丈夫だぞ。
「この子、掴んでいいよ」
「え」
「一回、『瓦解』やるとこ見てみたい」
…成功体験をくれるってかコイツ!もしや良いヤツ?
いや、待てよ。
「条件は?」
こういう場合は確実に裏があるに決まっている。
間違いない。
「行ってる美容院、教えて」
…
「いいよ」
「じゃ、はい」
えっと、とりあえず、長い魔力の塊を掴む。
掌を覆っている古代の魔力を、相手の魔法に流し込む事で魔法を構成するバランスが崩れ、魔法を無効化する。
『瓦解』っ!!!!
手が沈んでいく。次の瞬間、そこに何も無かったかの様に手が空を切る。魔力の塊は砂の様にバラバラになり、どこかへ消えていく。
「これが『瓦解』…」
「すごーい、ほんとに無くなった」
「…あのさ、報酬っていうか、本当に美容院教えるだけでいいの?」
「うん、いいよー」
本当の意味で『瓦解』の感覚を掴んだ。
ルカはなんとも掴みどころのないマイペースなヤツだけど、多分、悪いやつではないと思う。
次の日会ったら少し髪を梳いたのか、ボリュームが減っていた。本当に美容室に行ったらしい。




