生まれ変わっても……
思い出した、というよりも、忘れられていた自分を取り戻した、という感覚に近かった。肌を包むネグリジェも、豪奢すぎる部屋も途端に居心地が悪く感じる。なんだか今までの私は私ではなかったみたい。
転生モノの小説は、それまで何度か読んだことがあった。だいたいは前世で醜かった女の子が生まれ変わって美しくなったり、悪女になって無双したり、復讐したり、たいがい主人公に都合の良いストーリーである。私はと言えば、死して尚、神様、仏様、あるいは閻魔様は私に幸せな人生を送ることを許さなかったみたいだった。
ベッドから足を投げ出すと、石が敷き詰められた床の冷たさにつま先が震える。足を浮かせるように歩きながら、無駄にだだっ広い部屋の奥に置かれた鏡台へと向かった。鏡台の前におかれた椅子を引いて、腰を下ろす。意を決して顔を上げる。鏡に映る顔は、前世では喉から手が出るほど欲しかったあの美しい顔……ではない。
ブス……でもない。多分。強いて言うなら、そんな顔。脇役顔?嫉妬に狂うしょうもない悪役顔?とにかく、前世と同じ顔では無いけど、同じ系統の顔。どこがどう醜いのかなんて考え始めたらキリがないから、そういう顔、ということにしておくけど。強いていうなら、この黒髪が問題ではあった。この国では美しい女の髪は金色、目は青色と決めつけられているからだ。女がほとんど贈り物のように扱われるこの国で、仮にも身分の高い女が黒髪に黒い目で生まれるなんて、これほどの惨事はない。つまり、一言で言うなら、ブス。前言撤回。
大陸の中心に位置し、元々の豊かな土地にくわえて、交易の中心地としてあまり余るほどの富を蓄えたこのタレイア王国の王女、サリーヤ。それが宝石であっても、真珠であっても、絹であっても、手に入らないものはなかった。
ただ唯一、美貌を除けば。