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僻地コンビニの雇われ宇宙人店長はKawaii原生生物が好き  作者: 筋肉痛
第2話 師匠と呼んでくる特殊個体がKawaii
6/10

1 特需で沸き立つコンビニがKawaii

「セッター」


 ヘルメットを被ったオスがレジ前に立ち、謎の言葉を呟いた。何かのパスワードだろうか?

 言語体系というコミュニケーションをする術を発明したのに、それを無視して単語だけで交流を試みる原生生物がKawaii。

 しかし、こういう時に便利なモノを最近私は手に入れた。


 電子辞書だ。


 "セッター"という言葉の意味を調べる。その様子を見てヘルメットが声を掛けてくる。どうやら単語だけでなくちゃんと話せるようだ。脳有る鷹はなんとかというやつか。……だとすると、脳の無い鷹もいるのか? それは鷹と分類してよいのだろうか。


 いかん、いかん。今は"セッター"だ。


「おいおい、兄ちゃん。ひょっとして、ガイジンさんか? けったいなナリやから、そりゃそうか」


 私はガイジンではなく外星人だが、指摘するのは正体がバレるのでまずい。それにしても、やはり私の擬態の模倣性をもう少しあげた方がいいかもしれない。容姿を怪しむ原生生物が多すぎる。


 なんにせよ、セッターの意味は分かった。空間の素粒子構造に干渉しバレーボールとやらを組成し、ヘルメットのオスに渡す。


「お、せやせや。そぉれ」


 オスはボールをふわりと高く弾き上げる。ボールは綺麗な放物線を描いて床に落ちた。


「ははは、兄ちゃん。ガイジンさんにしてはおもろいのぉ。そのセッターちゃうねん。せやかて、ボールどこからだしたん?」

「では犬の方か?」

「いぬぅ?」


 発音が他の原生生物と違う。イヌという同じ生物を認識できているか不安だ。


「ちょっとその辞書みせてみぃ」


 オスはそう言い終わる前に電子辞書を私の手から奪い取る。強盗か? 天敵を呼ばないといけないのか、面倒だな。


「はぁー、セッターちゅう犬種がいるんか。知らんかったわ、ワシ、猫派やから」


 電子辞書は粗雑に返却された。強盗ではないらしい。良かった。

 ヘルメットは所属する派閥の宣言をしたが、原生生物は何かと派閥を作りたがる習性がある。犬または猫、左または右、きのこ、または、たけのこ。

 群れを作って安心しているのだろう。安心したはずなのに、頻繁に派閥間の戦争しているのがまたKawaii。


「店長、忙しいんですから遊んでないで仕事してください」


 先日、美人局騒動でこのコンビニを騒がせたメス、固有名アキは今はアルバイトとして働いている。そのアキが隣のレジから声を掛けてきた。

 病気の弟の医療費が払えなくて困窮しているのをサオリが肩代わりしたのだ。「本当はそういうの嫌なんだけど、宇宙人君へのツッコミ役がいても面白いかなぁって」と彼女は言っていた。


 サオリの判断基準は面白いか、面白くないかで決まっている気がする。私はこの星の経営という概念はよく分からないが、その判断基準でやっていけるなら存外にシンプルなのかもしれない。


「店長、聞いてるんですか!?」


 最近、高速道路を補修する大規模工事が始まり、特定の時間帯は店内が今まででは考えられないほど混み合う事が増えた。

 まさに今がその状況なのだが、多忙だと原生生物はイライラが募るらしい。そんな精神状態ではミスの確率が上がり非効率になると思うが原生生物らしくてKawaii。


「おーこわ。これ以上お姉ちゃんを怒らせたくないから、兄ちゃん、はよしてや。一応言うとくけど、セッターちゅうんは、セブンスターちゅうタバコの事やで」

「なるほど、面白い。辞書に載ってない言葉もあるのか」

「なんや、兄ちゃん。日本語うまいやん。もしかして、今までのはわざとか? そしたら、大したもんやで」

「ちょっと何を言っているか分からないな」


 私はサオリから教えてもらった汎用性の高い言葉を放つ。原生生物の発言が理解できないときに使うと良いと教わった。


「ファー!あの有名な芸人さんのフレーズまで使うなんて。兄ちゃん、やるのぉ!コンビニ店員にしとくのはもったいないで」


 私は会話をしているだけなのに、ヘルメットは何故か興奮している。Kawaii。


「タバコでしたら、何番か言ってください!」


 痺れを切らしたアキがこちらに目線をくれずに他の客のレジ打ちをしながら叫ぶ。


「番号、番号ってわしゃ囚人かい」

「囚人なのか? なら刑務所に戻った方がいい」

「ははは、そら泣かせた女はたくさんおるが、捕まるような事はしてへんで」

「確かにメスを泣かしたところで犯罪にはならないな」

「めすぅ?もしかして、兄ちゃんもだいぶ泣かせてきたクチなん?」

「はい、こちらでよろしいですか!?」


 いつのまにか、他のレジ待ちの顧客を全て処理しきったアキはタバコをカウンターに置く。

 非常に業務スピードが早くとても助かっているが、何故かいつも少し怒っているのが不思議でKawaii。


「なんや、やっぱ番号じゃなくても分かるやないの。頼むで、ほんま」

「それはそうですけど……」

「いや、彼女が優秀なだけで私には分からない。実は、私は君の言うところのガイジンに近い存在なのだ。銘柄名、更に略称で言われても、まったく分からない。だから、次からは番号で頼む。君にも迷惑をかけてしまうのでな」

「店長……」

「はっはっは。わかったわかった。兄ちゃんがそこまで言うならそうしよか。姉ちゃん、ちゃんとこの兄ちゃん世話したってや」


 ヘルメットのオスはそう言って会計を済ませると退店していった。しかし、誤解がある。私は責任者なのだから、世話はされるのでなくする側である。


「店長、ありがとうございます。……ほんと、店長って頼りになるのかならないのかよく分からない人ですね」

「ん? 何に対する礼なんだ?」


 私は率直な疑問を返したのだが、アキは不服そうな顔だ。


「分からないなら、別にいいです。それより、やっぱり忙しい時間帯は猫の手も借りたくなっちゃいますね」

「そうか、分かった」

「えっ! 店長どこいくんですか!? 第二波がまたすぐ来ますよ!!」


 私が猫を探しに行こうとすると、アキが慌てて止めようとする。彼女が猫の手を借りたいと言うからなのに不可解だ。


「猫が必要なのだろう? 確かこの辺に何匹か生息していたはずだ」

「はぁ……店長、そのボケ面白くないですよ。昭和の香りがしますし」

「ちょっと何を言っているか分からない」

「それも、もういいです」


 私は率直な気持ちを述べただけだが、会話が成り立たない。原生生物とのコミュニケーションはパターンが無限と思われるくらい多様だ。とてもマスターできる気がしない。コミュニケーションは意思を疎通するために行うのではないのか? これでは誤解が生じるリスクの方が大きいと思う。


「そういえば、バイト募集ってどうなってます?」


 特需により繁忙しているため、新たにアルバイトを雇ってよいとサオリに許可を得ている。ただし、雇用の面接をサオリがしており、なかなか採用に至らない。


「何人かは応募があったが、サオリの許可が下りない」

「店長、オーナーを呼び捨てするのはどうかと思いますよ」

「そうなのか?」

「まぁでも、サオリさん採用基準厳しそうですもんね」

「私にはその基準が良く分からないが、面白くなりそうな奴じゃないといけないらしい」

「んー難しいですね。サオリさんの感覚は。さすが、カリスマ実業家です」


 アキのサオリに対する信頼は、宗教に近いものがあり、信仰と言ってもよいかもしれない。私が思うに他の事業に関しては知る由もないが、ことこのコンビニの経営において、サオリはそこまで深く考えていない。単純に面白いかどうか、だ。


 先日の面接を少し思い出してみよう。

 

この物語はフィクションです。もちろん、関西弁もフィクションです。違和感があっても別の宇宙の出来事だと思っていただければ。笑

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