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僻地コンビニの雇われ宇宙人店長はKawaii原生生物が好き  作者: 筋肉痛
第1話 深夜3時に騒がしい原生生物がKawaii
5/10

5 脂肪という余剰エネルギーがKawaii


 そういえば、その星の原生生物の個体に寄生して同種間の争いを起こし、絶滅させた上でその星を乗っ取る宇宙生物がいたことを思い出す。

 その生物が厄介なのは駆除するために寄生された個体を倒すと、その勝者であるより強い個体に寄生するところだ。

 中途半端に合理的でカワイクない。駆逐した方が良い生物だ。天敵に活躍してもらわねば。


 今、まさに筋肉質から肥満体型へ宿主の変更がされているのだろう。

 この星はやはり宇宙から来る生物に寛容なようだ。……いや、鈍感と言った方がいいのか?よく今まで侵略されなかったなとつくづく思う。一応、天敵が機能していたということだろうか。……運が良かっただけだろう。


 新たに寄生されたと思われるオスがいよいよメスに襲い掛かろうというところで、天敵がオスを背後から羽交い絞めにする。

 ようやく起きたのか。ギリギリ役に立ったな。


「お嬢さん、逃げてください!」

「え、何で!? そんなに怒ってるの?」

「この個体別に怒っているわけではない。だが、君にはどうすることもできないだろう。私も避難することを推奨する。処理はケーサツに任せるんだ」

「で、でも……」

「いいから、早く!!」


 天敵が大きな声を出して、ようやくメスは動き出す。それでも躊躇があるようで、こちらに何回か振り返っていた。敵対していたのに、最早お互いを心配している。

 この星の原生生物同士の関係性は流動的で複雑すぎる。それがKawaiiを生む秘密なのかもしれない。


 寄生されたオスは完全に自我を失い、ジタバタと暴れているが天敵はビクともしない。油断さえしなければ天敵の力は原生生物を遥かに凌ぐ。油断さえしなければ、だ。


「その個体、どうするつもりなんだ?分かっていると思うが寄生されているぞ」

「ああ、分かっているよ。残念だが、寄生生物だけを駆除することは……できない」

「それは問題だな。で、どうするんだ?」

「個体ごと駆除するのも次の宿主を探すからまずい」

「もし、そうするなら私が止めた。我々が原生生物の数を減らすなど、とんでもない」

「分かっている!! だが、そうなると残された手段はひとつ。人知れない場所、例えば俺の本拠地などで管理するしかない」

「……宇宙のケーサツが聞いて呆れるな。原生生物を守るどころか誘拐するとはな」

「仕方ないだろう! 他に手はない。人間が絶滅するより余程ましだろう?」


 私は少し考える。

 あまり気が進まないがあの方法なら寄生生物を殺すことができるだろう。


「もういいか?モタモタして目撃者が増えるのは困る」

「待て。私なら恐らく寄生生物だけを駆除できる」

「なんだと!? なら、最初からそう言えよ!」


 自分の無能さを棚に上げて、何故か天敵は怒る。本当に原生生物に似てきたな。


「ただ、やはり原生生物もタダではすまない」

「……どうなるんだ?」

「非常に重要なものを奪うことになる」

「具体的に言えよ! わざとか?」

「前提から確認するのは大切だろう。落ち着け」


 こういう非常時にいかに冷静に対処できるかが、種の生存を左右するということを天敵は忘れているのか? とにかく落ち着きがない。


「……いちいちムカつく奴だな。で、何を奪うんだ?」

「溜め込んだ非常用のエネルギーだ。原生生物が脂肪という-」

「すぐやれ!」


 私が全てを言い終わる前に天敵が割って入ってくる。最早、判断能力を失い自棄(やけ)になっているとしか思えない。


「待て。この個体は今後過酷な環境に身を置くのだろう。そのために蓄えたエネルギーを奪えば、生存に著しく影響するのではないか?」


 そういう影響は避けねばならない。私が楽しめなくなってしまう。


「しない! 全くもってしない。むしろすごく喜ぶだろうな。いいか、よく聞け。ほぼ全ての人間にとって余分な脂肪は怠惰の象徴だ。稀に病気の場合もあるけどな。いずれにせよ、なくなると嬉しいものなんだ」

「そんなバカな!ではなぜ、使う予定もないエネルギーを溜め込むんだ? 不合理極まりない!」


 私は思わず叫んでしまった。原生生物、計り知れない。Kawaii。


「人間は不合理の塊みたいなもんだ。お前はそれを楽しんでいるんだろ? 俺には理解できないが」

「ううむ。そういうものなのか……。しかし、実行するとしてこのオスの形状はかなり変わるぞ。ほぼ脂肪は使い切るだろう。自分の形状が変わったらこのオスは不審に思うのではないか? 我々の存在が公になるのはまずいと貴様が言ったはずだが」

「その点は安心しろ。正体がバレた時用に記憶を改変する術を俺は持っている。あまり乱用はできないけどな」

「なるほど、原生生物にとって私より貴様の方がよっぽど危うい存在だな。本当は侵略しに来たのではないか?」


 最初は友好的に接しておいて原生生物に干渉し、手遅れになったタイミングで侵略する外星人もいる。もしかしたら、天敵はその類なのかもしれない。認識を改めなければならない。


「それ以上侮辱するなら、まずお前から消し去るぞ?」


 何やら天敵の癇に障ったようだが無視する。私は客観的事実を述べたまでだ。


 天敵と不毛な会話をしていても埒が明かないので、原生生物に触れて免疫機能にブーストをかける。体内に蓄えられたエネルギーは瞬く間に消費されつつ、免疫機能は本来の数百倍の能力を発揮し寄生生物を駆除し尽くした。副作用としてオスの脂肪は溶け、先ほでと同一個体とは思えない姿となった。


「あっつう!!!」


 天敵はそう叫んで、もはや痩せ型に近いオスの体を放した。


「瞬間的に体温が急上昇するから気をつけろ」

「そういう事はちゃんと言え!」

「今、言ったが?」


 私は意識を失っているオスの衣服のポケットをまさぐり、財布を取り出した。

 代わりにコンビニから持ってきたペットボトル飲料をポケットにねじ込む。


「……警官の目の前でお前は何をやっているんだ?」

「未決済のペットボトル飲料の代金を回収しているのだ。決して窃盗ではない。責務を果たしているだけだ」

「お前って変なところで律儀だよな」


 一体何が変だと言うのだ。貴様も少しはケーサツの責務を果たせと言い返したところで天敵は反省しないので、無視が得策だと私は過去から学んでいる。

 ちなみに言うまでもないことだが、必要な額だけ抜き財布はちゃんと戻した。


「う……ん……」


 そこまでして、オスが正気を取り戻した。


「一体何が起こったんだ? あれ、あの子は?……ん?なんか違和感が……」


 オスはそう呟きながら自分の体を見回して、意味もなく拳を握ったり緩めたりしている。そうして重大な事に気づく。


「あーーー!!な、無い!! 俺が一生懸命溜めこんだ脂肪が無い! どういうことなんだ?」


 オスのバイタルからは少なからず怒りと悲しみの感情が読み取れる。私は天敵を睨みつける。話が違う。喜ぶのではなかったか?

 天敵は肩をすくめている。腹が立つ顔だ。私の気分を害する訓練でも受けているのか、この外星人は。


「ダイエットに成功してよかったじゃないですか」


 天敵がそう声を掛ける。自分の予想が間違っていることを認められないのだろうか。


「ふざけるな! デブが全員痩せたいと思っていると思うなよ。来るべき食糧危機に備えて脂肪を蓄えているだけだ。俺は意識の高いデブなんだ」

「しかし、先ほど君は自己嫌悪していたように思えるが」


 私も後学のために確認する。天敵の言うことを真に受けるだけでは誤った原生生物観を持ってしまうことが実例を以って示されたからだ。


「それは、モテないことを憂いてただけだ。太っていることには誇りを持っている。余裕の象徴だからな。俺があれだけ太るのにどれだけ苦労したと思っているんだ。元に戻せよ!……そうだ、一体どうやったんだよ。すごい技術だな、おい! 減らせたのなら、増やすこともできるだろ」


 残念ながら、余分なエネルギーを与えるなどという非合理な行為はできない。技術的には可能だと思うが、調整を誤ると簡単に原生生物は死ぬだろう。そんなリスキーな事はできない。


「私があまり口出すことじゃないかもしれませんが、痩せてる方が多分モテますよ」


 天敵がまだ諦めきれずに説得する。


「警官さん……口を出すことじゃないと思っているなら、口を出さない方が良いですよ。警察はただでさえ嫌われているんですから」

「……分かった、もういい。俺の目を見ろ。そして、勝手にまた太れ」


 天敵はオスの言葉に怒りを覚えたようだ。やはり、原生生物と同レベルで思考している。それで責務が果たせるのか、甚だ疑問だ。

 天敵の目から光線が出て、オスの記憶に干渉する。


「……夜食のカップラーメンを買いに行かないと。今日は3個くらい食べられるかな」


 記憶の改ざんが終わると、オスはそう言ってコンビニに戻っていった。恐ろしい技術だ。私も記憶を改ざんされないように気を付けよう。

 逃げたメスについては、天敵が見つけ出して一連の出来事を忘れさせたことで事態は収束した。

 このオスとメスは今後も私を楽しませてくれるのだが、それはまた別の話だ。


 ちなみに筋肉質の男はケーサツの取り調べで違法行為を繰り返す組織の一員であることと、メスの弱みを握りツツモタセという犯罪に協力させていた事が判明。逮捕されることとなった。


 なるほど、ツツモタセは犯罪行為だったわけだな。

 Kawaii原生生物の面白おかしい活動を阻害する存在はカワイクないので治安維持部隊にたっぷり絞られるといい。


 なお余談だが、天敵が私を犯人だと疑った連続通り魔事件はこの寄生生物が起こしていたらしい。天敵の捜査により判明した。原生生物には事実が伝わらないように処理したようだが、天敵の無能さを象徴する事件といえよう。



(第1話 完)


第2話予告

「師匠と呼んでくる特殊個体がKawaii」

 工事の特需により賑わうコンビニ。猫の手を借りたい状況に新たなアルバイトを募集することとなる。

 そこに現れたのは店長を師匠と呼ぶお笑い芸人志望の西湖(さいこ)キネシ(芸名)。

 店長と超能力者? の化学反応が始まる!?

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