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僻地コンビニの雇われ宇宙人店長はKawaii原生生物が好き  作者: 筋肉痛
第1話 深夜3時に騒がしい原生生物がKawaii
4/10

4 忍び寄る異変はカワイクない

 私が責任者を務めるコンビニは、サオリ曰く”僻地”にあるらしい。

 周囲に民家は疎ら。間には田畑や荒れた空き地。

 自動車で数分の所に高速道路のインターチェンジがあり、その周辺にいくつか工場と原生生物がよく交尾をするために使う宿泊施設が稼働している。

 このコンビニには広大な駐車場があるため、その従業員や利用者が主な顧客だ。


 よって深夜のこの時間は、コンビニの周りには原生生物の気配はなくなる。本当にこの星で生物が活動しているのかも疑いたくなるくらいの静寂だ。


 光源もあまり無く、コンビニから少し離れるとほぼ暗闇と言っても過言ではない。

 原生生物の視力だと数メートル先すら見えないだろう。


 しかし、私なら……ん?おかしい。

 見えない!

 僅かな恒星の光がひとつもあれば、十分に状況を確認できるはずだが、視覚に異常が発生している。


 この星の環境は、やはり私に合わなかったのか!?早々に帰還を考えなければならないかもしれない。

 若干の焦りを感じながら、目の感触を確かめるために手を伸ばすと、瞳に触れる前の違和感に気づく。


 ……そうか。サングラスをしていたんだったな。冷静になりサングラスを外す。

 途端に特殊機能で制限されていた私の視覚センサーがフル稼働する。昼のように周囲を十分に確認でき、体温による生体反応をキャッチする。


 100メートルほど先の空き地で先ほどのメスとオス、天敵……あとひとつ新たな反応がある。また一人増えたのか。どこから湧き出たのか、今夜は原生生物がずいぶん騒がしいな。


 現地に向かうために原生生物を真似て二本足で走ろうとするが、擬態での慣れていない動きのためか躓いて前に倒れかかる。

 なんとも移動しにくい形態だ。自分の擬態ながらKawaiiと思えてくる。

 

 どうにか制御し、生体反応があった空き地についた。


「絶対うまくいくって言うから協力したのに!弟は? 弟はどうなるんですか?」


 メスは泣きそうな声で叫んでいた。


「ちっ!うるせぁな。通り魔ってやつか?なんか知らない奴に襲われたんだから仕方ねぇだろ。ぶっ飛ばしてやったけどな……あー頭いてぇな!!くそ」


 筋肉質の男はイラついている。

 状況から察するに新たに現れた筋肉質なオスはメスと同じ群れなのであろう。ただその群れの中で何か問題が起きているようだ。

 

 しかし、原生生物の個体差には驚かされる。この筋肉質な個体と肥満体型の個体が同じ生物だというのがKawaii。

 私のコンビニに来る顧客はそう多くないが、それでも千差万別だ。飽きることなく、いつまでもこの星で楽しめそうだ。


「まぁまぁ落ち着いて。こんな所ではアレですから、話は交番で聞きましょう」


 天敵が2個体の間に入って仲裁する。肥満体型のオスは数歩離れた所で怪訝な顔をして様子を見守っている。

 気になるのは筋肉質のオスの挙動がどんどんおかしくなっていることだ。非合理的おかしさではなく、生物の機能的に不具合が起きているように感じる。

 目の焦点が定まらなくなり、口からは涎が垂れていて威嚇する犬のように低く小さく唸り声を上げ始めた。


「放っておいてください!これは私達の問題ですから。どうせ警察は何もしてくれないんだし……」

「いや、俺はそいつらから立派な脅迫を受けたんだ。捕まえてくれよ!」


 メスと肥満体型のオスが口々に叫ぶ。


「皆さん、落ち着いて。お話は聞きますから。冷静にお願いします」


 天敵が身振り手振りで二人に伝えた瞬間、背後から筋肉質の男が天敵に猛烈なタックルを食らわせる。完全に油断していた天敵は吹っ飛ばされた。なんとも情けない。唯一の取り柄を今こそ発揮すべきではないのか。


 筋肉質のオスは完全に正気を失っている。獰猛な下等生物のようだ。勢いそのままに拳を振り上げてメスに襲い掛かる。

 メスは恐怖からかその場で身を屈めて目をつぶっている。


 しかし、メスに大きな拳が振り下ろされることはなかった。

 代わりにいつの間にかそこにいたデブでブサイクでキモいオスが、拳を受け止めていた。先ほども思ったがそんな重量で、なぜそんなに俊敏に動けるのだ? 


 そして更に不思議なのは、相応の力が込められていたと思われる拳がデ(略)の体に何の衝撃も与えていないことだ。力のベクトルが綺麗に制御されて虚空に放たれたように見える。一体、この個体は何なんだ。Kawaii。


 彼我の実力差を理解できない知能の低い下等生物と化した筋肉質のオスは、懲りずに追撃を放つが、先んじてデ(略)の肘が肝臓があるあたりの腹部へ綺麗に突き刺さり、両膝を地面につくこととなった。


「ふぅ。健康のために最近始めた朝の太極拳が役に立ったな」


 額の汗をポケットから取り出したハンカチで拭きながら、デ(略)はそう言った。

 太極拳……また私の好奇心をくすぐるものが出てきてしまったな。

 ひょっとしたら体内に溜め込んだエネルギーにこの動きの秘密があるのかもしれない。


「……な、なんで……」


 急に襲われたメスは動揺しうまく言語を操れないようだ。そう言っただけであとは口を開閉するだけである。確か鯉とかいう下等生物が餌を求めてそんな行動を取っていたな。Kawaii。


「いや、アンタらが仲間割れした理由なんて知らないよ」

「そうじゃなくて!」

「ああ、デブなのに何でそんな機敏なのかって? 多分、才能って奴かな。大体のスポーツや武道は一度動きを見れば再現できるんだ。まあ、運動嫌いだから意味ないんだけどな、ははは。太極拳もまだ1週間くらいしか通ってないんだ」

「へぇー、すごいですね……ってそうでもなくて、なんで助けてくれたんですか!?」

「それは私も疑問だな。事前のやり取りを確認すると君達は利害が対立していたのではないのか?」


 メスが私の聞きたいことを代弁してくれたので、便乗する。「なんでコンビニの店長がここにいるの」とメスが言っているのはとりあえず放っておこう。ルールを破った者を追求するのは責任者の務めであるが、このメスは自分がコンビニのルールを破ったことを認識していないようだ。


「なんでって……例え犯罪者であろうと目の前で女の子が殴られそうになってたら助けるだろ、フツー。そんな不思議なことか?」

「ああ、不思議なことだ。君はそのメスに怒りを感じていたはずだ。ということは、メスが被害を受けるのは君にとってメリットのはずだ。しかし、君はそのメリットを捨てた。自分が被害を代わりに請け負ってまで。それは非合理以外のなにものでもない」


 メスも同じ気持ちのようだ。不合理な行動が理解できなさすぎて、呆けている。少し血圧・体温も上がっている気がする。呆れすぎて怒りの感情が湧いたのだろうか?


「メスって……アンタ、何か女性に恨みでもあるのか?」

「いや、ないが」

「じゃあ、その言い方は止めた方がいい。モテないぞ。まあ、俺もモテないけどな!」

「ああ、気をつけよう」


 擬態において筋力は任意に設定できるので、何かを()()()()ということはないが、今までの経験上、そういうことを言っているのではないと推察できる。


「あと、損得で考えてたら人生疲れないか? 俺は疲れた」

「それは分からない」


 なぜなら人ではないからだ。原生生物が生存していく上で感じる疲労感など推察すら難しい。そもそも疲労という概念が我々にはない。

 という言葉を飲み込む。


「見た目はアレなのに、なんでそんな主人公みたいな言動なの……」


 メスが絞り出すような声でそう言った。

 肥満のオスは首を大きく振ってため息をついた。


「助けてもらっておいて、そんなことしか言えないなら幼稚園からやり直した方がいいぞ」

「あっごめんなさい。思わず……。助けていただいてありがとうございました」


 オスは黙り込む。


「ど、どうしたんですか? あっやっぱり怒ってます? ごめんなさい。病気の弟の為にどうしてもお金が必要だったんです。ストーカーだと嘘をついたことも謝ります!」


 メスはそう言ってすごい勢いで上半身を折り曲げた。

 原生生物のこの行動を最初に見たときは、頭突きで攻撃しているのかと思ったが、どうやら謝罪の時にする行動らしい。推察するに私の知能は謝罪相手よりはるかに格下ですということを物理的に表しているのだろう。なるほど、健気でKawaii。


 しかし……なるほど、嘘とは生存戦略なのだな。私からしたら不毛にしか感じないが、原生生物は同じ種で縄張り争いを頻繁にしている事を知っている。

 より強い遺伝子を残すためなのかもしれないが、非効率な方法すぎて進化の途上であることを強く感じる。


 このメスも自らの群れを生存させるために、このオスを陥れたのだろう。自らも苦しみながら。

 ああ、なんというKawaiさ。それでこそ、原生生物だ!


 しかし、デ(略)の様子がおかしい。先ほどの筋肉質のオスと同様の異変がデ(略)に起こり始めている。

 もしかしたら、原生生物以外の何物かの影響があるのかもしれない……。

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