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episode2-41 悍ましい叫び(VS舞締会長③)

「降参するなら今の内だよ、氷室くん」

「あ゛? 折角盛り上がって来たってのに何言ってんだ?」

「頼みの綱がその有様で、どうやって戦うつもりなの?」


 頭部を潰されてゆっくりと崩れ落ちていくマカロンセンチピードを指さして、会長が不思議そうに問いかけてくる。

 まったく、さっきまで形振り構わず俺を狙ってたくせに、覚醒した途端に油断とは詰めの甘い魔法少女だ。


「言っただろ? こいつは全部倒さなきゃ終わんねえってよぉ! ジョイントパージ!」


 よく考えると口には出してなかったかもしれないが、まあ細かいことはどうでもいい。

 マカロンセンチピードの『ジョイントパージ』は、胴体をくっつけるだけのスキルではない。指揮官化によって得られる固有スキルが、そんなチンケな効果しかないわけがないだろ?


「ギヂッ! キチチッ!」

「キシャアァァ!!」

「ギジャ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!」

「ギチィッ!」


 戦闘中に潰された2節と頭部を除く23節。それらのマカロンが一斉に分離し、それぞれが独立して行動を始める。


「うわキモ!?」


 ジョイントパージの真髄はむしろこちらだ。

 指揮官個体のマカロンセンチピードは各節がそれぞれ個別の召喚獣であり、「統率形態」と「分離形態」の二種類の姿を使い分けることが出来る。

 頭部の個体だけは替えが利かず、そこを潰されると統率形態は取れなくなるため、会長の読みは当たらずとも遠からずと言ったところだろうか。


 一体一体の各種能力や攻撃手段は統率形態に劣るが、一方で分離形態でしか使えない能力もある。


「飛べ、マカロンビートル!」


 T字の切り込みが入った背のメレンゲが昆虫のようにパカッと開き、半透明な薄い羽を高速で羽ばたかせて空へ浮かび上がる。

 空中機動力と手数、それが統率形態にはない分離形態の強みだ。図らずも飛行魔法に覚醒した会長にはうってつけの形態と言える。


「しつこいなぁ! 私は負けられないんだよ!」

「知ったことじゃねえなぁ! 俺は負けたくねーんだよ!」


 発現したばかりの魔法でまだ使いこなせていないのか、会長は自由自在に空を飛べてるわけではなく、いきなり加速しては急停止したり、マカロンビートルを狙って繰り出したキックが空ぶったりと不格好な戦いをしている。

 しかし戦闘力はマカロンビートルを上回っており、一撃当たればそれが魔法の蹴りでなくても一発で撃墜できてしまっている。


 一方でマカロンビートルの攻撃も当たれば一応会長にダメージは入ってるようだが、マカロンセンチピードの時ほどの打点にはなっていないように見える。

 ダメージディーラーが欲しいが、今のところ俺の手持ちで会長に攻撃を当てられそうなのはゼリービーンソルジャー・ブルーくらいしかいない。恐らく大した効果はないだろうし、フレンドリーファイアの可能性もある。どうしたものか。


「っ!? 待って! まだ、こんなところで!!」


 これといった策も思いつかず、引きつけてシロップスライムで殴るかと最後の手段を検討し始め、マカロンビートルの数が半数を切った頃、いきなり会長の背で輝いていた不安定な翼がふっと消滅し会長が落下し始めた。


「なんだ? 作戦か?」


 魔法の制御に苦戦していると、こちらの油断を誘って一網打尽にするつもりなのかもしれない。

 会長は召喚獣を全て倒してから俺をぶちのめすと宣言しておいて、あっさりそれを破ってくるタイプの人間だ。そういう姑息な手段は当然使ってくると考えるべき。


「ぐっ!? ク、ッソォ……! 動けぇ!!」


 なのだが、そのまま落下して地面に衝突した会長は、まるでもう一歩も動けないとでも言うように地に伏して必死の形相を浮かべている。


「駆け、抜けろっ……、駆け抜けろぉぉぉ!!」


 そして変身が解除され、変身するためのキーワードを何度唱えても何も起こらない。

 あれは、飛行魔法の制御がどうとかそういう話じゃないな。


「……魔力切れか」


 魔法はいくらでも無尽蔵に使える異能ではなく、魔力と呼ばれるエネルギーを消費する。

 よく考えれば、会長は魔法をかなりの回数使っていた。それに加えて、新しく発現したばかりの魔法だ。それがどの程度魔力を消費するのか、会長自身も正確にはまだ把握できていなかったのだろう。だから普通ならば戦闘中にするはずのない、魔力切れという致命的なミスをおかした。


 そして魔法少女への変身は多少だが隙がある。こちらの油断を誘う目的なら、変身解除までやるのは悪手だ。つまりあれは演技でも何でもなく、正真正銘の魔力切れ。


 俺の勝ちだ。


「見てたか野郎ども!」


 戦いが激化する中で自主的に遠ざかって行った行儀の良いギャラリーに向かって声を張った。


 後ろの奴からも見やすいように玉座を送還し、拳を天へと高く掲げる。


「俺が最強だ!!」


 その勝鬨に応えるように、あちらこちらから雄叫びや驚愕の声が沸き上がる。


「うおおおおおおおぉぉぉーーー!!」

「すげええ!! マジで会長に勝ちやがった!」

「え、ちょ、ちょっと待って、氷室くんが無傷で勝利のオッズは……、あば、あばばばば」

「でかしたひむろぉぉぉ! 記事の写真撮るからそのまま! そのままキープ! あと会長の近くでVサインも!」

「これからは三強じゃなくて四強時代か……」

「あースカッとした!! ざまあみやがれ生徒会!」

「なんでドレス……? 可愛いけど」

「氷室って冒険者なんでしょ!? どうなってんの!?」

「あぁ、氷室先輩の可愛さと格好良さがバレちゃう……。推しが人気になったら嬉しいけど遠くに行っちゃったようで寂しい……」

「わかるよ。でもファンの民度が悪くならないように古参の私たちがしっかりしないとね」


 凄まじい歓声で細かい内容は全然聞き取れないが、賞賛されているということだけはわかる。

 最後は少しだけ不完全燃焼だったが、勝って褒め称えられるというのは気分の良いものだ。


「マズイマズイマズイ! このままじゃ!!」

「ふふん、悔しそうだな会長さんよ。ま、この俺を相手にしてここまで食い下がったのは大したもんだ。まあまあ楽しかっ――」

「黙って!!」

「あぁ?」


 折角人が健闘を称えてやろうってのに、なんだその態度は。

 そりゃあ長い時間かけて進めて来た計画がぶっ壊されてお冠なのはわかるが、元はと言えば強引なやり方してた自分らが悪いんだろ?


「いや、でももう氷室くんに頼むしかない? 私と同等のホルダーなんて、今は……」

「何ボソボソ言ってんだ? 言いたいことがあるならハッキリ言えよ」

「よく聞いて氷室くん! 庶務の菜々ちゃんが悪の組織に狙われてるの! きっと今、まさに――」


【【【オOヲぉをOォオおoオぉOヲおをオォー!!】】】


 何やら切羽詰まった様子で物騒なことを言いだした会長の話を遮るように、背筋の凍るような、聞いただけで気分が悪くなりそうな悍ましく不気味な何かの叫びが響き渡る。

 さきほどまでうるさいほどに聞こえていたギャラリーの歓声は一瞬で静まり返り、得体の知れない恐怖に支配されているような静寂が訪れる。


 しかしそこから少し遅れ、その静寂を切り裂くように、強烈な稲光と共に雷鳴が響いた。


【【【オOヲぉをOォオおoオぉOヲおをオぉ!?】】】


 先ほどと比べて、心なしか弱弱しく感じられる叫びが再度響き渡る。


「まさか、如月か?」


 今日は雲一つない青空だ。自然現象による雷とは考えにくい。

 如月には、昇降口に黒石庶務の姿がなければ探してマークするように伝えてあった。

 もし如月が庶務を見つけていたとして、今の叫びが黒石庶務と関連する何かなのだとすれば、如月はそれと戦っている?


「おい、さっきの叫びは何だ!? 何か知ってるのか会長!?」

「わからない。あいつらが菜々ちゃんを使って何をしようとしてたのかは私も知らないんだ。でもこのタイミングで、何も関係ないとは思えない。お願い氷室くん! 菜々ちゃんを探して、助けてあげて!」


 わけがわからねえぞ!?

 今の叫びがその悪の組織とやらと関係あるのかすら会長でもわからないんじゃ、全然別件の可能性もあるってことじゃねえか!


「本当は今日、菜々ちゃんを一人にして敵を誘い出す予定だったの! それを私たちが叩くって! でも私はもう戦えない! だから氷室くんには! 私を倒した氷室くんには代わりに戦う責任がある!」

「勝手なこと言ってんじゃねえ!」


 何の説明もなく勝手に裏で進めてたことの責任を取れとは、横暴にもほどがある。何様のつもりだこいつは。生徒会長様はそんなに偉いってのか? 大体、学校という公共の場で何を馬鹿なことを考えて……、……いやもしかしてホルダー狩りに関して学校側の反応がやけに鈍かったのは、学校ぐるみの作戦だったってことなのか? じゃあマジで俺は最終段階で余計なことをしでかしたお邪魔虫だと?


 知らねーよクソが! だったら始めっから言っとけ! 折角気持ちよく勝って良い気分だったってのに、最悪だ!


「野郎ども! 状況はさっぱりわかんねえがひとまずグラウンドに避難しろ! さっきの叫びは旧校舎の方から聞こえた!! ダチが居る奴は避難するよう連絡しろ!! 俺は現場を確認しに行く!!」


 周囲の生徒が混乱してパニックを起こす前に声を張り上げて指示をだす。俺にそんな権利がないことは承知の上だが、生徒の代表たる生徒会長がこの有様じゃ誰かが代わりに指揮を執る他ない。


 わけはわからんし、会長の言う通りにするのも癪だが、如月が巻き込まれている可能性がある以上無視はできない。あんなのでも一応、俺の配下だからな。


「勘違いするんじゃねえぞ会長。俺が助けに行くのは俺の配下であって黒石じゃねえ。ついでに助けられそうだったら助けてやるが、期待はするなよ」

「ありがとう、氷室くん……。私も、魔力が少しでも回復したらすぐ加勢しに行くから!」

「ガス欠寸前の魔法少女なんてどう考えても足手まといにしかならねーだろ! おい! 誰か会長も連れてってやれ!」

「ま、待って……! 私だって、まだ!」


 このまま会話を続けても押し問答になるだけで時間の無駄だ。


「氷室先輩! 私たちに任せてください!」

「責任を持って生徒会長も避難させます!」

「お前ら、こないだの一年か」


 素早く近づいて来て二人がかりで肩を貸すように会長を担いだのは、休校明け、真っ先に俺にお礼の手紙とプレゼントを渡して来た後輩二人組だった。一発目だったからか印象が強くて記憶に残っている。


「覚えててくれたんですか!?」

「ヤバ! 推しに認知されてるとか泣きそう……」

「よし、任せたぞお前ら」

「「はい!」」


 会長を一年ズに預け、マカロンビートルを引き連れて特別教室棟の方へ走り出す。


 鬼が出るか蛇が出るか。

 如月のやつ、無事だと良いんだが……。

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― 新着の感想 ―
秘密主義は大抵の場合で悪手になるんだよな。 リアルだと意外と秘密でいられたりするけどね。 ラノベの秘密はバレてなんぼだしなあ。
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