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episode2-37 グレード1(VS朱鷺戸書記②)

 もし、その聖剣がグレード2のレプリカだったのなら

 もし、その聖剣に示された正義が脆弱だったのなら

 もし、その聖剣の司る美徳が正義でなかったのなら


 これで戦いは終わりだった。


 だから強いて理由をあげるのであれば、やはり相性が悪かったのだろう。


「せいぎ……しっこぉぉぉ……」


 朱鷺戸を完全にノックアウトしたことを確認した古條が、屋上から氷室の戦いを見れないかとフェンス越しに昇降口付近へ視線を向けていると、背後から怨嗟の如く不気味な声が聞こえてきた。


「っ!?」


 驚きに目を見開きながら勢いよく振り返った古條の目の前に、焦点の合わない目をした朱鷺戸が迫っていた。そして上段に構えたその手には、抜き放たれた模造聖剣が握られている。


「どういうことですか!?」


 聖剣が振り抜かれる直前、短距離転移で朱鷺戸の後方へ退避した古條が驚きの声をあげる。

 無防備に古條の一撃を受けた朱鷺戸は確かに気を失っていた。それは古條もしっかり確認している。ほんの数秒程度で目が覚めるなどありえないし、仮に目覚めたとしてもすぐに動けるようなダメージではないはずだった。

 それに加えて、あれほど抜かないと拘っていた聖剣をあっさりと抜いていることも不可解だった。追い詰められたことで抜くことを決心したとも考えられるが違和感は残る。


「せいぎ……」

「正義執行? え、まさか」


 朱鷺戸と戦うにあたって、古條は氷室から正義の聖剣についての知識を徹底的に叩き込まれている。それは朱鷺戸が持つグレード2のレプリカだけではなく、オリジナルやグレード1、グレード3のものも含めて、わかっている情報全てをだ。だからオリジナルとグレード1のレプリカが内包する能力の中に、『正義を執行する力』が存在することを知っている。

 その力は、たとえ所有者が戦闘不能になるほどの傷を負い、意識を喪失したとしても、所有者の正義を貫くために聖剣が所有者の肉体を動かし限界を超えて戦ってくれるというもの。


 異能の強化がない状態で古條の攻撃を食らった朱鷺戸の肉体は既に限界を迎えている。

 しかしそれでも、意識を失ってもなお魂に灯る意志に従い、聖剣が朱鷺戸の身体を動かした。


 それは朱鷺戸の正義。

 たとえこの学校という小さな箱庭の中だけでも、異形の姿かたちで迫害されることのない世界を作るという誓い。

 かつて気づくことすら出来なかった、過ちへの贖罪。

 その正義に応え、聖剣は力を与える。


「グレード1のレプリカ……?」


 聖剣や魔剣はオリジナルの所在がわかっていないものも複数あるが、正義の聖剣に関しては誰が所有しているのか公に知られている。それが失われたという話を聞かない以上、朱鷺戸がオリジナルを持っているとは考えにくい。つまり朱鷺戸が『正義を執行する力』に操られているとするのなら、その聖剣は、グレード1のレプリカということになる。

 元々それを所有していて、普段はグレード2に見せかけていたのか、それとも最近になってグレード1の模造聖剣を手に入れたのか、真相はわからないし、そもそも経緯はそれほど重要なことではない。今この場において重要なのは、G1レプリカの異能強度は5であり、古條の手に負える相手ではないということ。


「おかしいとは思ってたんですよね」


 具体的な予想までは出来ていなかったが、古條は朱鷺戸と戦い始めてかなり早いタイミングで違和感を覚えていた。それは、聖剣を鞘に収めた状態であるにもかかわらず、自分と同等の身体強化を使えていたこと。

 聖剣は鞘に収まっている状態では制限がかかっていて、抜かれて初めて本領を発揮できる。そしてG2レプリカの異能強度は4。つまり抜いていない聖剣で、異能強度4の古條と互角に戦うことは出来ないはずなのだ。


 その違和感を見逃さず、よく考えていれば気づけていたかもしれない。G1レプリカだったからこそ、鞘に収めた状態でも古條と互角だったのだということに。


「霊気空っ、流水玄武! 遠慮がっ、ないっ、ですねっ!」


 意識があった時は、どちらかと言えば守りに寄ったカウンタースタイルだった朱鷺戸だが、今は息つく暇もないほど苛烈に聖剣を振るい古條を攻め立てている。

 古條は一撃一撃の重さが段違いに跳ね上がっていることを感じながら、何とか『硬化』したオーラで刀身を受け流し荒々しい斬撃の軌道を逸らす。意識がないせいか太刀筋の精細さは失われており、そのお陰でかろうじて凌げているが、聖剣を受けるごとに古條の腕は痺れつつあり、長くは持ちそうもない。


 身体強化に限った話をするなら、異能強度5と4が正面から力をぶつけ合えば決着は一瞬で決まってしまう。今そうなっていないのは、古條の卓越した格闘技術あってのものだ。だが痺れによって繊細な動きを出来なくなればあっと言う間に押し込まれて古條は負ける。勝つためには古條も攻めなければならない。


「青龍突き!」

「がはぁっ!?」


 接触の瞬間、古條は聖剣を転移させて再度無防備になった朱鷺戸へと正拳突きをお見舞いする。

 しかし僅かに動きは止まるものの、結局すぐに聖剣が手元へ戻り朱鷺戸の身体を操り始める。

 G1レプリカの内包する能力は『正義を執行する力』、『痛覚遮断』、『衝撃緩和』、『身体強化』の四つ。つまり朱鷺戸の身体は無理矢理動かされているだけで、回復はしていない。このまま同じことを続ければ古條は勝てるかもしれないが、朱鷺戸の身体には取り返しのつかないダメージが残る。


「しっこうぅぅ……」


 これが凶悪な犯罪者や怪物、怪人の類であれば古條も覚悟を決めてそのまま再起不能になるまで攻撃を続けたかもしれないが、相手は主義主張の相違でぶつかり合っているだけの学生であり、これは喧嘩に過ぎない。そんな覚悟など出来るはずもない。


「どうすれば良いんですか、凪様ぁ」


 自らの手に負えない事態になりつつあることを理解して古條が泣きそうな声をあげた。

 相手に意識がないことも最悪だった。普通なら命の取り合いにまではならないはずだが、今の朱鷺戸にそんな常識が通用するかはわからない。殺らなければ殺られる。そうなる可能性も0ではない。


「聖剣を空に飛ばして!」

「っ!? なんなんですかもー!」


 次の一手に迷っている間にも徐々に削られつつあった古條へ、何者かの指示が届く。

 氷室の計画ではあくまで一人一殺であったため、援軍が来るなどという予定はない。しかしこのまま手をこまねいているわけにもいかない古條は、なるようになれと言う気持ちで指示に従い聖剣を空中へ転移させた。


雷槍ライトニング!」


 宙に投げ出された聖剣が朱鷺戸の手元へ戻るよりも早く、音速を超えたその一撃は放たれた。

 それは青天の霹靂。目の眩むような眩しい光の後に、ドンと腹の底に響く重低音が鳴り、同時に聖剣が木っ端みじんに砕け散り、朱鷺戸がその場に崩れ落ちた。


「えぇ!? 如月先輩!?」

「違うよ、古條さん」


 雷槍ライトニングとは、とある有名な魔法少女の魔法なのだが、古條にとってはその魔法を再現して使う如月りりの異能というイメージが強い。以前集会を行った際、会議の後にお互いの異能を披露しあったからだ。だから如月が助っ人に来たのかと思いその名を呼んだ。

 それに対して返ってきた答えは否定であり、よくよく聞けばその声は如月のものではないともわかった。しかし古條はこの声をどこかで聞いたことがある。親しいわけではないし接点もほとんどないが、芸能人やヒーローほど縁遠いわけでもない、比較的身近な誰か。


「あんまりお話したことはなかったよね? 私は1-Aの姫路美月。大丈夫?」

「あ、あぁ! 姫路さん! 姫路さんじゃないですか! 私は大丈夫ですけど、でもなんで……?」


 まるで羽でも生えているかのように、ふわりと空から姿を現したのは1年A組所属の姫路美月という女子生徒。

 古條はあまり話をしたことはないが、校内の可愛い子は全員把握しているため当然存在は知っている。あまり積極的に他人と関わることはなく、特定の仲が良い友人といつも一緒にいる大人しくてお淑やかな深窓の令嬢風美少女と記憶している。


 そして最近は、凪様に似てるなー、と思ってついつい目で追ってしまうことも多かった古條である。


「凪兄さんのお手伝いをしてくれてるんだよね? だったら私にとっても他人事じゃないから」

「凪、兄さん……? 姫路さん、凪様の妹さんだったんですか!?」

「少し違うけど、大体そんな感じかな」


(やけに似てるなと思いましたけど、そういうことだったんですね~。ん? でもなんで苗字が違うんでしょう? それによくよく考えたら今の凪様の姿って生まれつきではないはずで……。でも姫路さんはそんな感じって言ってますし……、……うん、よくわかりません! でも助けてくれましたし味方ってことですよね!)


「本当に困ってたので助かりました! 姫路さんも氷室団のメンバーだったんですか?」

「え? 氷室団? ふふっ、ううん、まだ誘われてないの。良かったら古條さんからも推薦してほしいな」

「もちろんですよ! 聖剣をあんなに簡単に壊せるなんて、姫路さんは強いんですね! 仲間になってくれるなら頼もしいです!」


 レプリカはオリジナルに比べると耐久性が落ちるとはいえ、破壊するのはそう簡単ではない。古條でも真っ二つに叩き折るくらいは出来たかもしれないが、その程度では機能を喪失するには至らず、粉々に砕くことでようやく力を失うのだ。


「それにしても朱鷺戸先輩には困ったものです。結構力入れて殴っちゃったので保健室に連れて行った方が良さそうです」

「そうだね。私も手伝うよ」

「こう見えて力持ちなので一人で大丈夫です! 姫路さんは樹霧先輩か凪様を助けてあげてください!」

「うーん、その必要は多分ないから、やっぱり古條さんを手伝うよ」


 美月は少しだけ悩む素振りを見せたが、始めから答えは決まっていたのか有無を言わせぬように改めてそう宣言した。


「そ、そうですか? じゃあ一緒に行きましょうか」

「うん。それに古條さんになにかあったら困るし心配だから」

「えっ、それって……」


(私のことが好きってことですか!? モテ期到来ですか!? でも私には凪様という人が……。うぅ、姫路さんも凄く可愛いんですよね……。選べません! 私にはどちらかを傷つける選択なんて!)


「証人は必要だもんね」

「はい? 何の話ですか?」

「ううん、なんでもない。さ、早く行こう」


 美月に促され、一先ず古條は答えを先送りにして朱鷺戸を背負い屋上を後にするのだった。

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バーサーカーっぽいけど、正義? 大儀だっけ?
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