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episode2-31 詰め物

「ズルいズルいズルいズルい! ズルいです~!!」

「き、樹霧先輩! スカートなんだから駄目ですって!」


 生徒会連の上層部とぶつかり合った翌日の放課後、対生徒会戦に向けて最後の会議をするため如月を除く三人でダンジョンへとやってきたのだが、さあ話し合いを始めるぞというところで樹霧がいきなり地べたに寝転がってジタバタと暴れ始めた。


 スーパーとかで小さい子供がやっているアレだ。


「女子しかいないから大丈夫です!」

「俺は女子じゃねえぞ」

「ず~る~い~で~す~!!」


 古條の言葉を受けて唐突に正気を取り戻した樹霧だが、俺がツッコミを入れると再びジタバタと暴れて騒ぎ始めた。

 今の言動からもわかる通り、こいつがズルいズルいと声を大にして主張しているのは俺に対してだ。

 流石に他のクラスメイトや生徒の前でここまでの醜態は晒していなかったが、今日は朝から放課後にかけて何度も「ズルい」と文句をつけてきやがった。


「大体おかしいじゃないですか! 何で五人もいて全員氷室くんと戦うんですか! 一人や二人くらい私たちに分けてくれても良いじゃないですか! 古條さんもそう思いますよね!?」


 樹霧が言うズルいとは、生徒会連の上層部が全員まとめて俺に襲い掛かって来たことだ。

 俺がことの顛末を報告してからというもの、自分も戦いたかったと煩くてかなわない。

 昨日は金曜日ではないものの13日。樹霧にとっては上から二番目に調子の良い日だったわけだから、ホルダー同士で存分に暴れたい気分だったのだろう。気持ちはわからないでもない。

 しかもこいつ、帰ったという連絡がなかったから桜川への尋問が済んだ後に一応連絡したら、日が暮れてもまだ学校に残ってたからな。


「え、いや、あの~」

「後輩にだる絡みするんじゃねえ。それに精鋭じゃないが古條の方にも戦闘員は行ってたんだぞ?」


 先輩に鬱陶しい絡み方をされて答えに困っている古條に助け船を出しつつ、腕を引いてこっち側だとアピールする。


「昨日無視されてたのはお前だけだろ」

「ぐぬぬ……、古條さんの裏切り者!」

「そんなこと言われても困りますよ……」

「まともに相手すんな。拗ねてるだけだ」


 絶好調の樹霧の異能強度は6。一つ落ちても異能強度5の中では最高峰の強さを誇る。普段よりも強いとわかってる相手にあえて突っ込む馬鹿なんてそうはいない。


「氷室くんも氷室くんです! 一言連絡してくれればすぐに加勢に行ったのに!」

「だからそんな暇なかったって何度も言ってるだろ! 不意打ちだったんだよ!」

「うぅぅ~、最近は彦根先輩も朱鷺戸くんも遊びに来てくれないから欲求不満なんですよ~。この際氷室くんでも良いですから遊びませんか?」

「よ、よよよ、欲求不満!? 遊ぶ!? なに言ってるんですか!!」


 古條が動揺するのも無理はない。この大事な時期に何をバカなことを言ってるのか。


「樹霧お前、俺の話ちゃんと聞いてたのか? 種は蒔き終わったんだよ。生徒会が動くのは明後日だ。あと二日くらい我慢しろ」

「ほんとにほんとですか?」

「十中八九な。枡米とは週刊咲良の号外を明日、水曜日に発行するよう交渉済だ。んで、生徒会の連中もそれを読めばいい加減俺たちを無視出来なくなる。とはいえ会議をして意思決定するのに多少の時間はかかるだろうから当日に襲われる可能性は低い。だから明後日ってわけだ」

「明々後日かもしれないですし来週かもしれないじゃないですか!」

「それはほぼない」


 生徒会が俺と古條をどの程度の脅威として見るかはわからないが、少なくとも樹霧とは何のバフもかかってない状態でやりたいと考えるはずだ。だとすれば金曜日に動くことはない。

 もちろん、桜川たちがそうしたように樹霧と古條を無視して俺だけ襲いに来るなら金曜日の可能性もあるが、授業中以外は常に一塊になっていれば個別に襲われることはなくなる。明日はこちらがそういう方針で動くことを実際に行動で示すための一日でもある。

 生徒会には相手を分断するのに適した世界系の異能があるが、だとしても取らなくて良いリスクをわざわざ取ることはありえない。


 そして明日の号外は宣戦布告だけではなく火種に酸素を送ることも兼ねている。

 どこまで反生徒会の気運が高まるか次第だが、今の時点でも最近の生徒会はやり過ぎだという声はそれなりに聞こえてくるし、生徒会もそれを認識しているはず。であれば、反生徒会の旗印となり得る、それも注目度が高く生徒への影響が大きい相手を放置しておけるはずがない。週をまたぐ可能性は極めて低い。


「予想が外れたら相手してやるからもうちょい待て」

「む~、絶対ですよ! 約束ですからね!」


 というのを説明しつつ、ついでに餌をぶら下げてやると渋々と言った様子で立ち上がり、ようやく駄々をこねるのを止めた。


「ところで朝から一つ気になってことがあるんですけど、氷室くん、古條さんを見てください」

「え!? なんですか!?」

「朝から……?」


 パンパンと服に付いた土を払い落した樹霧が古條を指さして言う。

 集合したのは放課後からなのだが、朝に古條と樹霧は会ってたのか?

 疑問を抱きつつ、古條の全身に視線を向けるが、これと言って変なところはないような気がするが……。


「えい!」

「おわっ!?」

「あっ! ずる――」


 俺が古條に気を取られている隙に、いつの間にか俺の背後へと音もなく移動していた樹霧がそんな掛け声と共に抱き着いて来た。


「ええぇ!? 氷室くんの胸が潰れちゃいました!?」


 樹霧の暴挙に俺と古條が驚きの声をあげたのも束の間、今度は樹霧が本気で驚いたような声をあげた。

 何事かと思って視線を下に向ければ、樹霧の両腕は俺の脇の下を通って胸部に回されており……、というか完全に握り潰すように胸を鷲掴みにしていた。


「ん? なんかヌルヌルしてるような?」

「なにすんだこのボケ!!」

「ふぎゃっ!?」


 流石に異能発動中でなければただの女子と変わらないようで、拳骨を落とされた樹霧が蹲って痛そうに頭を押さえている。


「だって何か胸が大きくなってるような気がしたんですもん! でも潰れたってことはやっぱり詰め物だったんですね! 氷室くん、胸が小さいの気にしてたんですか?」

「んなわけねーだろ。ったく、気になってたんなら口で言え口で」

「仲間同士の軽いスキンシップじゃないですか~。そんなに怒らないでくださいよ。ねえ? 古條さん?」

「仲間と言えどやって良いことと悪いことがあると思います。樹霧先輩は凪様と私に謝ってください」

「あれ? なんか氷室くんより怒ってます?」

「説明してやるからじゃれるのはその辺にしとけ。今樹霧が握りつぶしたのはこいつだ」


 何故か古條が樹霧へのお説教を始めようとしたが、説明するのに丁度いい機会でもあるため、『詰め物』を手のひらの上に集めてわかりやすいように見せてやる。


「わー、なんですかそれ? ぶよぶよしてて、スライムみたいですね!」

「蜂蜜ですか……?」

「こいつはシロップスライム。俺の召喚獣で、普段は最低一体服の下に潜ませてんだ」


 そう、樹霧が握りつぶした詰め物の正体は、胸部に少し多めに配分していたシロップスライムだったというわけだ。


「このシロップスライムは全身が筋肉の塊みたいなもんで、俺の身体を骨格代わりにすることでかなりのパワーを引き出せる。樹霧と戦った時の一撃もこいつの力だ」

「なるほど! 氷室くん凄いひ弱な雰囲気なのに妙に強いと思いましたけど、そういうカラクリだったんですね!」


 そして生徒会連上層部の奇襲を防ぐのに使った防御手段でもある。

 あの不意を打って挟撃された瞬間、肌と服の間に這わせていたシロップスライムで全身を包み込むことで、簡易的な防護膜として冷気の攻撃を受け止めた。


 シロップスライムは氷属性の攻撃を食らうと冷えて固まってしまい動きが大幅に鈍るか、最悪動けなくなるが、直後に佐藤が投げつけて来た爆弾の熱で凍結が中和され、結果として無傷で切り抜けることに成功した。

 表向きは余裕綽々という態度を取っていたが、実際のところかなりギリギリだったわけだ。


「で、体積が増えれば当然馬力も上がるし、冷やすにしろ熱するにしろ影響を受けにくくなるだろ?」


 だから今日から二体分を潜ませることにしたのだが、肌と服の隙間はどうしてもスペースに限界がある。しかし胸なら多少膨らんでても怪しくないはずだ。


「だから胸がデカくなったように見えたってわけだ」

「そうだったんですね! 納得しました!」

「てっきり私は成長したのかと思ってました」


 そういう言い訳も利くと思ったんだよな。

 やっぱり胸に詰めることにして正解だったな。


「いやー、でも本当に握り潰しちゃったのかと思って焦りましたよ! ぐしゃってなりましたからね!」

「不用意な行動に注意ってことだな。良い教訓になったじゃねえか」

「そうですよ樹霧先輩! ほんとに気を付けてくださいね!」

「はいはい、そんなに言わなくてもわかりましたよー。あ、ところで氷室くん、ついでにも一つ聞きたいんですけど」

「今度は何だよ……」


 ようやく一息ついて本題、明後日の行動について話を始めようかと思ったのだが、まだ何かあるのか。


「生徒会に勝てたら何かご褒美は貰えるんですか?」

「お前は生徒会と本気でやれるだけでも十分ご褒美なんじゃないのか?」

「樹霧はそうですけど古條さんに何もなしじゃ可哀想じゃないですか。先輩には自分からは言いづらいでしょうし」

「そんなご褒美なんて! 凪様のお役に立てるだけでも十分です!」


 ふむ、樹霧にしてはまともなことを言う。

 古條は遠慮しているが樹霧と違って戦うのが大好きというわけでもあるまいし、何かしら対価を払わなければ筋が通らないか。

 古條自身も生徒会に狙われていた身ではあるが、ここまでの大事に巻き込まれているのは俺に勧誘されてそれを受けたからなわけだし、俺がご褒美を与えるというのは当然と言えば当然だ。


「遠慮しなくて良いぞ古條。俺に出来ることなら何でも言ってみろ」

「そ、そうですか? あの、じゃあですね……、生徒会の役員を一人でも倒せたら、一緒におでかけしてくれませんか!?」


 最初言いづらそうに言葉を濁すから何を言い出すかと思えば、遊びの約束か。

 そんなのご褒美でなくても誘われたら予定さえ合えば断らないんだが、もしかして古條は同じクラスに友達がいないのか?


「そんなことで良いのか? もっとあれが欲しいとか、これ買ってくださいとかないのか? 金なら多少余裕はあるぞ?」

「いえ、これが良いんです! 駄目ですか凪様?」


 別に駄目というわけではないが……、古條が良いならそれで良いか。

 場所の指定がないのなら、普通の学生じゃ行けないようなところとかに連れてってやるのもありだな。


「わかったわかった。じゃあ、予定通り一人一殺。達成できたらご褒美だ」

「はーい! じゃあ樹霧は氷室くんと本気でやりたいです!」

「結局お前も乗ってくるのかよ」


 ちゃっかりしているやつだ。

 まあ、それで更にやる気が出るなら良いだろう。それに樹霧と戦うのは俺にとっても無駄ではないしな。

 ともあれ、ようやく一段落だ。


「さて、まだ何かあるか? ないなら打ち合わせを始めるぞ?」

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― 新着の感想 ―
ああ、普段から外付け筋肉んをつけてたのか。 召喚だけど時間制限はないんだっけ? 前にゼリービーンズのやる気がなかったの、みたいなのはスライムにはないのかな?
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