episode2-24 異能強度
「てかさ、異能強度って何?」
「えぇ!? りりちゃん本気で言ってます!?」
「如月先輩、流石にそれは私でも知ってますよ」
「な、なに!? そんな常識なの!? 異能とか興味ないし知らないって!」
自分以外の全員が異能強度に言及したことで、異能強度とは何ぞやという疑問を抱いたのだろう。如月がボケではなく本気で言っていることを察してか、あの樹霧ですら驚きの声をあげ、古條は信じられないというような視線を向けている。
ふっ、そうイジメてやるな二人とも。こいつは心底異能なんざどうでも良いと思っている旧人類。いや、ある意味では新人類なのだからな。
「異能強度ってのは字面通り、ホルダーが持ってる異能の強さを示す指標だ」
全部で1~10までの十段階が存在し、数字が大きくなるほど強力で影響力の大きい異能ということになる。
基本的に異能強度は自己申告と実演による結果から決定される。ホルダーの中には相手の異能の強さを見極められる者もいるらしいが、人数が非常に少ないため一般的な判定方法としては使用されていない。
そのため過大申告することは難しいが、自分の異能を完全に制御出来ているホルダーであれば過少申告することは難しくなく、無能力者を装うことも可能だ。最近では自己申告の際に嘘看破のホルダーを使うことも増えてきているらしいが、まだまだ全国的には手が回っていない状況だとかなんとか。
「異能強度ごとの影響規模についても異能庁が公表してて、ざっとこんな感じだな」
異能強度1。
ほとんど殺傷能力を持たない異能から、ちゃんと使えば人一人くらいなら殺せる殺傷能力がある程度まではここに分類される。ざっくり言うと刃物とかで武装してるのと大差はないって感じだな。ホルダーの中には殺傷能力のない異能持ちも多く、その手の異能も基本的にはここに分類されるため最も該当者が多い。
例を挙げるのであれば、古條の勧誘に来ていた二人の異能は強度1だな。他にも、明の不可視の鬩ぎ合いや、雨に濡れない異能とか、自分の周囲を快適な気温に保つ異能、失くしものを見つける異能、などなどバラエティー豊かだ。
異能強度2。
十分以上の殺傷能力はあるが一般人相手でも大人数に囲まれると危ない程度がここに分類される。切れ味抜群で長柄の刃物とか、拳銃とかを持っているのと同じ程度と言われているな。この辺りまでは、やりようによっては無能力者にも勝ち目はある。
例えばウチのクラスだと大崎の強制睡眠や、新藤の念動力、学内に範囲を広げると獣人のオーラユーザーなんかが該当するな。
異能強度3。
人一人くらいなら難なく殺せるし、突発的に複数も相手取れるくらいが分類される。入念な計画を練らなくても単独で大量殺人を引き起こせるが、国家権力が本気で制圧に乗り出せば確実に鎮圧出来る程度。持ち歩き出来る程度の機関銃を持っているのと同等とされている。
ダンジョンアサルトの時の沖嶋や、現在のゼリービーンソルジャーズの単体戦力、その他にもウチの学校だと特定条件を満たした相手の精神を支配する異能や、超能力の一種である凍結能力がここに当てはまる。
「さっきからなんか物騒なうえにウチの学校の人ばっかじゃない?」
「そりゃ強度ってのは極論出力のことなんだから殺傷能力ベースになるのはしょうがないだろ。で、異能強度3以下は異能戦闘で食っていけるレベルじゃないから身近なホルダー以外を知る機会はそんなにないんだよ」
ネットとかであえて探そうとすればいくらでも出てくるが、そんなの話したってピンと来ないだろうしな。
余談だが、大量殺人を引き起こせるとかっていうのは、あくまで大変革前の水準で見た場合だ。今時異能強度3程度じゃ野良のホルダーに鎮圧されても全然おかしくないからな。
異能強度4。
片手間に大量殺人を引き起こせる程度の殺傷能力を持ち、身体強化を内包する場合多少の重火器ならば通用しない。ここまで来ると軍隊での制圧を視野に入れなければならないレベル。それでも全く通用しないわけではないため、ギリギリ数の暴力でどうにか出来るとも言える。
悪の組織の怪人や野良の突然変異の怪人、あるいはダンジョンとはまた異なる種別のモンスターなど、人類に仇なす怪物共は最低でもこのくらいの力を持っていることが多い。そのため、ヒーローなどの異能戦闘を職業にする者には最低ラインとして異能強度4が求められる。
君臨する支配によるバフ込みでゼリービーンソルジャーズ一丸となってこのレベルで、生徒会の書記もここ。全国規模で見ると地方のご当地ヒーローとか、なりたての魔法少女なんかもこの辺りだな。
異能強度5。
単独で非常に大規模な殺戮を引き起こせる程度の殺傷能力。大半の銃火器は通用せず、無能力者での対処はほぼ不可能。
ホルダーにとっても一つ目の壁であり、異能の種類にもよるがここで足踏みする者が多い。
他の異能強度と比較してもピンキリの差が激しいため、公式的な区分けではないが最下位、下位、中位、上位、最上位とさらに細かい分類が一般的に使われている。
これは俺の勝手な推定だが、シロップスライムは5の低位、エクレアドッグは5の中位、よって総合的に見て俺は5の中位ということにしている。樹霧も通常時は5の中位にあたり、これまでの観察から金曜日は5の上位、13日は5の最上位、そして13日の金曜日はまだ見たことがないが、恐らく6に届くという見立てだ。適当な憶測ではなく、あの生徒会長と最強候補争いをしている以上はそういうことになる。ちなみに生徒会副会長は5の上位。
「ふーん、あんたも緑もざっくり5って感じなんだ。あたしはどんくらい?」
「最大火力を連発する持久力があれば6に届くだろうけど、現状高く見積もっても4ってとこだろうな」
「あれ? 氷室くんはりりちゃんの異能知ってるんですか?」
「――! 仲間になる時に見たんでな」
危ない危ない、樹霧と古條にはダンジョン踏破の真相は話してないのだから発言には気を付けなくては。
「私は異能強度を測定したことないので自分でもよくわかってません」
「俺も勝手な推定だから気にすんな。後で模擬戦してざっくりどのくらいか確認するぞ」
「はい! 隅から隅まで確認してください凪様!」
異能強度6。
一つの都市を単独で滅ぼし得る。ここから規模感がおかしくなり、人数もぐっと少なくなる。地方で悪の組織と戦ってるようなヒーローだと、末期でこの強さに至るか負けるかって感じだな。オリジナルの聖剣・魔剣の中で戦闘向けじゃないものもここに当たる。その他、全身揃ったフレーム使いがものによってはこのレベル、幼少期から高等な教育を受けている魔術師、天才的な超能力者、フェーズ2魔法少女なんかが有名どころか。
ウチの生徒会長も異能強度6で、だからこそ絶好調の樹霧も6なのではないかという話だな。
異能強度7。
複数の都市、または大都市、または小国を単独で滅ぼし得る。異能強度5が一般的ホルダーの限界点だとするならば、異能強度7は天才的なホルダーの限界点と言える。
幼少期から高等な教育を受けている天才的魔術師、科学系異能の中でも世紀の発明に値する異能、オリジナルの聖剣・魔剣で戦闘特化のもの、突然変異的なその他の異能持ち、極まったオーラユーザー、下級魔界貴族の悪魔憑き、魔女一歩手前のフェーズ2魔法少女。
異能強度8。
真正面から大国と単騎で戦い、滅ぼし得る。ここまで来ると大きな括りというより個人の羅列のようになってくる。知られていない者より知られている者の方が多い。もちろん認知されていない在野のホルダーの中に紛れている可能性はあるが、数はたかが知れている。
ほんの一握りの天才的魔術師、中級魔界貴族の悪魔憑き、オリジナルの聖剣・魔剣の複数持ち、魔女のお茶会下位勢。
「あー、知ってる知ってる。名前聞いたことあるよ」
「むしろこれすら知らなかったら異能に興味ないどころか世間に興味ないレベルだぞ」
異能強度9。
能力が影響を及ぼす範囲が「人類の滅亡」に及ぶ。三桁を超えない程度しか現存していないホルダーであり、人類に敵対的な勢力でもこのレベルは滅多に現れない。有名どころはやはり大変革の日に人類を蹂躙しようとした王族級ディストと呼ばれる怪物たちだろうか。
先天的に特別な力を持つ極一部の超人的魔術師、上級魔界貴族の悪魔憑き、魔女のお茶会上位勢。
異能強度10。
能力が影響を及ぼす範囲が「星の破壊」に及ぶ。両手の指で数えられるほど存在しない人類最高峰のホルダー。そして最悪の怪物たち。
王族級ディストたちを率いていたディストの王。それを討ち滅ぼした神格級魔法少女。
世界征服に王手をかけた強欲王の悪魔憑き。それを阻み魔界へ封じた嫉妬王の悪魔憑き。
地球崩壊も危ぶまれた外宇宙の獣、惑星喰らい。それを飼いならし手駒へ加えた西洋魔術師。
そして異能強度測定不能。
能力が影響を及ばす範囲が「不明」あるいは「世界」。
人類の到達点であり、その武力によって混沌とした世界を平定する者。
「それが平定者だ」
「……ん? それだと11個じゃん。てかノーマルも含めたら12個になんない?」
「ノーマルと平定者は異能強度の分類に含まないんだよ」
「ふーん。でもなんか改めて聞くとさぁ、気の遠くなるような話じゃんね」
たしかに、今の俺たちでは平定者どころか異能強度10や9ですら遠い世界の話だからな。
「怖気づいたか?」
「どっちかって言うと現実味がないって感じ? 平定者とかテレビとかネットでしか見たことないし世界がどうこうって言われてもね」
「あん? お前この辺が地元じゃないのか?」
確かにほとんどの人間にとって平定者は雲の上の存在で、一生会うことなんてないのが普通だろうが、咲良町に昔から住んでた人間にとっては必ずしも無縁の存在というわけでもない。
「この辺っちゃこの辺だけど、隣の純恋町」
「お前、ほんとにアンテナが狭いな」
「はぁ? 何が言いたいわけ?」
地元じゃないなら知らなくても無理はないと思ったが、純恋町なんてすぐそこじゃねえか。マジで異能やホルダーに対する関心が薄すぎる。
「咲良町は平定者の一人、風神のホームだぞ。この辺に住んでる奴なら戦ってるところを直接見た奴はいくらでもいる。俺もそうだしな」
「ふーん。じゃあその内あたしも生で見れる機会あるかもしんないんだ」
「ちっちっち! 甘いですねりりちゃん! 風神は3年くらい前から姿をくらませてて表舞台には出て来てないのです!! 次に会えるのはいつになるかわかりませんよ!」
風神が旧世代魔法少女あがりの平定者であることは有名であり、「(株)全日本魔法少女」という旧世代魔法少女の大半が所属している会社の幹部であることも知られている。
しかしながら樹霧の言う通り、風神はもう長いこと表舞台には姿を見せておらず、会社からもこれといった発表やプレスリリースはされていない。
そのため世の中では、引退説や死亡説、大規模な戦闘用の空間「裏世界」から帰還不能となった説など、様々な憶測が飛び交っている。
日本には風神含めて三人の平定者がおり、残る二人、黒神と兎神は健在のため風神の件はそれほど問題視されていないというのも、好き勝手な噂を助長させている要因の一つだろう。
「とにかくだ、俺はこの目で平定者の戦いを見たことがある。当然今の俺たちじゃ足元にも及ばない強さだったが、現にその領域に届いている奴がいる以上俺らに出来ない道理はねえ」
「自信過剰っていうかなんていうか……。少しは無理だとかって思わないわけ?」
「やってみなくちゃわかりませんよ! なんとかもなんとかって言いますしね!」
「凪様なら絶対なれます! だって凪様なんですから!」
樹霧が何を言いたいのかはさっぱりだが、古條はよくわかっている。この俺に不可能はない。
「やる前から諦めてたら何にもできねえだろ」
「はぁ、こういうところなのかなぁ」
人の顔見て溜息吐きやがった。なんだってんだ。




