episode2-20 嘘か真か
あの後如月は部活があるから細かい話はまた今度と言って去って行ったため、ひとまず俺は教室に戻ることにした。今すぐ全面戦争というわけでもないし、必要な時に働いてくれさえすれば問題ない。今はまだ好きにさせておけば良い。
「戻ったぞ枡米」
「遅い」
2-Cの教室に戻ると枡米が仏頂面でスマホを睨みつけており、声をかけると如何にも不機嫌ですというようにそう返してきた。
放課後になって30分も経つと、部活に入ってる生徒やどこかに遊びに行くような生徒、早々に帰宅する生徒はいなくなっており、残ってるのは普段から教室でだらだら駄弁ってる連中くらいになっていた。
……いや、普段はこの時間までは残ってない二人がいる。
「大崎、お前もしかして俺のために残っててくれたのか? それに委員長も」
「30分くらい大して変わんないしね」
「梨花さんのついでですよ。用事はもう済みましたか?」
「ああ、もう大丈夫だ。ほんの数分牽制してくれるくらいで良かったのに、わざわざありがとな。今度なにか奢らせてくれ」
「やりー! 情けは人の為ならずってやつだね!」
「正しい使い方ですね」
今まではあんまり話すこともなかったから知らなかったが、委員長の一番の友達だけあって大崎も良い奴なんだな。
「ちょっと氷室~」
「自己中が文句言ってらぁ」
「んじゃあたしらは部活行こうか?」
「そうですね。それじゃあ氷室くん、枡米さん、また明日」
「おう、またな」
監視されていたのがそんなに気に食わなかったのか、枡米はそっぽを向いて委員長たちのことを無視している。
委員長はそんな枡米に怒ることもなく、しょうがない子ですねというような苦笑を浮かべて教室を出て行った。
「つか、遅いって30分は経ってないだろ」
「長くてもでしょ。もっと早く終わると思ったんだけどっ」
「勝手にお前が思ってただけだろ」
こっちも忙しい中で時間を作ってやったというのに、本当に我儘だな。
如月が仲間になった以上、直近で最低限必要なのは後一人。正直もう枡米をあてにしなくても一人くらい見つかる気もするが、流石にぶっちして帰るのはどうかと思うから話だけは聞いてやろう。
「で、用件は?」
「決まってんじゃん。ダンジョンアサルトのこと! あんたなんでインタビューとか受けないわけ? 情報を開示しなさいよ!! 菓子姫ってなに!? Cスキルは!? Dスキルは!? ダンジョンの指揮官はなんだったの!? ていうかどうやって倒したわけ!? 実質ソロで!!」
スマホをこちらに向けながらズンズンと鼻息荒く近づいて来た枡米が目を爛爛と輝かせながら怒涛の如く質問責めをしてくる。
こちらから画面は見えないが恐らく録音してるな。
「どうせあの性悪桜ノ宮がバックについて色々吹き込んでるだろうけどさ、本当にあいつのこと信用していいわけ~? あんなあからさまな金持ち絶対裏であくどいことやってるに決まってんだからっ。あんたも利用されてるだけだってわかんない? それよりあたしと組んで一発当ててやろうじゃん! こう見えてあたし、ネットじゃ結構数字持ってんだから! あんたのダンジョン踏破エピソード絶対バズるって!!」
う、胡散臭い……。そして視点が浅すぎる。
いや、普通の高校生なんてこんなもんか。桜ノ宮が異常なんだな。
「ダンジョンアサルトについて話すことはない。用件がそれだけなら話は終わりだ」
「はー? あんたね、ちょっと英雄扱いされてるからって調子乗ってんじゃないの? あたしがその気になれば色々動かすことも出来るんだからね! こーんなチビになってそのうえ冒険者のあんたに都合の悪いあーんなことやこーんなことが起こるかもしんないよ?」
「やってみろ」
「……あーあ、怒っちゃった」
俺と枡米の間に流れる不穏な空気を察してか、和やかに駄弁っていたクラスメイトは迷惑そうな視線を枡米に向けながら教室を出て行った。
こいつと揉める時の不幸中の幸いは、弁明するまでもなくどうせまた枡米がなんかやらかしたんだろと思われることだろうか。
「失礼。何の用だ、枡米」
クラスメイトたちと入れ違いになるように、低く野太い声が聞こえかなりの巨漢が教室内に入ってきた。枡米に呼ばれたのか? にしちゃあ早すぎる気もするが、最初から近くで待機させてたのか?
「生徒会が大規模なホルダー狩りを始めたって聞きましたよ。冒険者も例外じゃないらしいですね。こいつ、例の氷室凪です」
あー、そういう……。つまりこの入ってきたデカイ男子は枡米の悪い企みに協力しているのではなく、ホルダーの情報に釣られて誘き寄せられた生徒会連ってわけだ。
「お前さぁ、駆け引きになってないんだよ。生徒会連を止める手段とかあるわけ?」
「さぁ? もうあんたには関係ないじゃん。話すことはないんでしょ?」
本当に短絡的だな。性格の悪さに反して、悪だくみはさほど得意じゃないらしい。
まあ良い。いずれは大々的に喧嘩を売るつもりだったわけだし、それがちょっと早まっただけだ。
それに考えてみれば、喧嘩を売って校内に俺たちの活動を広めたら、同じく生徒会に反抗する意思を持っている隠れホルダーが自分から近づいて来る可能性もある。順番が少し前後するだけだ。
「ま、そういうことなら遠慮はいらないか。あんた、三年の小林だな? 話者、異能強度は2」
「今は3だけどねー。あ、これはサービス。どうせ知ったところで、だもんね~」
枡米は楽しそうにニマニマと笑いながらこちらを煽っている。
仮に俺が力づくで生徒会連に加入させられたとして、明日以降もクラスで顔を合わせることわかってんのかこいつ。気まずい感じに……、いや、こいつは気にしないか。
にしても、異能強度が上がってるのか。前に枡米からホルダーの情報を買ってから結構経つし、出来れば今日そのアップデートをしたかったが、この調子じゃ難しいか?
「かかって来いよ、相手になってやる」
「冒険者がなにイキってんだか。ブラフ――じゃない? は? そんななりで勝てる気なわけ? 馬鹿?」
「いや、盛り上がってるところ悪いが喧嘩する気はないぞ」
「「え?」」
予想していなかった言葉に思わず枡米と一緒に驚きの声をあげ顔を見合わせる。
「上からの指示でな、咲良第二高の英雄である氷室凪とは出来るだけ穏便にと言われている。生徒会連に加入することを薦めるが、強要する気はない」
「はー!? なんですかそれ!? そんな特別扱いして他の生徒に示しがつかないじゃないですか!」
「氷室凪を特別扱いするのは十分正当だと思うが? 文句を言う奴などそういまい」
「おいおい、こっちはもうやる気十分なんだぜ? 尻尾巻いて逃げる気かよ!」
「そーだそーだ! 戦え小林ー!」
「お前たち、仲が良いのか悪いのかどっちなんだ……? あと敬語と先輩をつけろ」
結局、どれだけ煽っても挑発しても小林先輩が襲い掛かってくることはなく、やんちゃもほどほどにしておけと注意をして去って行った。くっ、なんて冷静なやつだ! 流石は三年だな……!
まあ、それはそれとして
「なあ、今どんな気持ち? あんなに格好つけて脅しといてこの結果。今どんな気持ち? どんな気持ち?」
「うるさいうるさいうるさーい! 氷室、あんた絶対許さないんだからね!」
「捨て台詞まで完璧かよ」
「死ねこのつるぺたチビメスモドキー!」
「あーあー、そういう差別発言どうかと思うなー。価値観をグローバルスタンダードにアップデートしていかないとお得意のインターネットwで炎上しちまうぞ?」
「ムキー!」
「あーあ、怒っちゃった」
枡米が猿になってしまったからお遊びはほどほどにしておくか。
しかし実際問題少し困ったことになったな。小林先輩はさっき、上からの指示で俺とは穏便につってたよな。てことは生徒会全体の方針ってわけで、連中俺と喧嘩する気はないと来やがったか。だとすると正当防衛っていう大義名分はちょっときつくなるかもしれん。……樹霧のところに来る連中を返り討ちにするのでも良いが、あいつは多分後回しにされると思うんだよな。枡米がさっき大規模なホルダー狩りが始まったって言ってたが、そりゃつまりダンジョンアサルトで炙り出された隠れホルダーを狩り始めたってわけで、これまでずっと勧誘を撃退し続けてる厄介な樹霧は後回しにされてもおかしくない。……如月の異能を明かすか? いや、出来れば如月は生徒会庶務のようにこちらの伏せ札にしておきたい。あいつがホルダーだってことは枡米にも生徒会にもバレてないはずだからな。
つか、よく考えりゃ骨のある奴なら大人しく生徒会連に入らないで抵抗するはずだよな。そこで横やり入れるのが一番楽だな!
「枡米、お前ダンジョンアサルトの時委員長に回収されてたって話だよな?」
「ちっ、それがなに?」
「最新版の校内ホルダー情報、売れ」
生徒会の情報の出どころも間違いなくこいつだろうから、同じ情報があればある程度勧誘現場は押さえやすくなる。
こいつは新聞部であるのと同時に情報屋でもあるからな。
委員長に受けた恩を仇で返してやがるのは気に入らねーが、それを俺が怒るのは筋違いだ。
「あんたの情報と交換なら考えてやっても良いけど?」
いい加減怒り疲れたのか、枡米は若干投げやりな感じでそう返した。
どうせ俺がそれに応じることはないと思っているんだろう。
「そうだな。じゃあ特大の情報を一つくれてやるよ。こいつはトップシークレットだから誰にも言うんじゃねえぞ」
嘘だけどな。でもお前は信じる。嘘看破が本当だって伝えてくるもんな。
「な、なに急に。さっきまで話すことはないなんて言ってたくせに」
「気が変わったんだよ」
これも、本当
「俺の冒険者の力は、ダンジョン外でも使える」
「嘘、じゃない?」
どうせお前はこの情報も売り物にするだろうが、好きにすると良い。これは隠すつもりはない。
後でトップシークレットじゃなかったのかと問い詰められたら、また気が変わったと言ってやれば良い。
「来い、ゼリービーンソルジャーズ!」
嘘の中に真実を混ぜてやる。それが上手い人の騙し方らしいぞ、枡米。知ってたか?




