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episode2-閑 仮面を外して(下)

「それで相談しに来るのが何で俺なんだよ」


 例の事件から数日が経った日の放課後、人目につかないところで話がしたいと加賀美から連絡があり、自己所有のダンジョンにて話を聞くこととなった。

 ざっくりと話をまとめれば、黒石の力を使えば加賀美は人間に戻ることが出来るが、本当に戻っても良いのか悩んでいるそうだ。

 既に人間に戻ったという彼女とか、事情を知ってる友達の如月に相談すれば良いものを、わざわざ俺を相談相手に選ぶ意味がわからん。


「まだ礼も言えてなかったし、そのついでにちょっとくらい良いだろ?」

「礼? こないだの礼なら生徒会室で聞いたぞ」


 情報共有の際、八木橋や黒石を助けたことについては加賀美たちからも生徒会の連中からも礼を言われている。


「あの場では言わなかったけど、俺のブレイクに何かしたの氷室だろ?」

「なんだ、気づいてたのか」


 反動が来ていないという異常は当然本人が一番よくわかっていただろうが、それが俺の仕業だと感づいて、そのうえであの場で言わない程度の分別があることに少し驚いた。


「ダンジョンの時にも如月の異能に何かしてただろ? 流石にわかるって」

「つってもありゃ如月(俺の配下)を守ってくれたことに対するこっちの礼だ。気にする必要はねーよ」


 俺がそうすべきだと思ったからそうしたまでのこと。

 有限のポイントを消費していることまでは気づいてないみたいだが、あえて伝える必要もない。最初から恩に着せるつもりはないからな。

 必殺技のリスクがなくなった加賀美を勧誘することも考えなかったわけではないが、この状況での勧誘は強制と同義だ。優越的な地位を振りかざして配下に加えるってのは筋が通ってねえ。

 それに、どうも何か迷っているようだが人間には戻りたいみたいだしな。


「それでも、ありがとう。氷室のお陰で助かった」

「頑固なこって。ま、それで気が済むんなら受け取っといてやるよ。どういたしましてってな。それで? ついでの相談ってのは? 何が引っかかってるんだ?」


 深々と頭を下げる加賀美に適当な言葉を返してやりつつ、相談とやらについて問いかける。


「……マスカレイドは、人間に戻れないと思ってたんだ。だから俺は、しょうがないことだって割り切ってみんな倒してきた。それなのに今更方法が見つかったから自分は人間に戻るなんて、そんなのズルいだろ」


 苦虫を噛み潰したような険しい顔で頭をあげた加賀美が、重々しい声音でそう言った。

 正直くだらねえと一蹴してやりたいところだが、後からあれもこれもと言われるのも面倒だ。一先ず黙って聞きに徹し全部吐き出させてやるとしよう。


「それにインポスターとの戦いは終わったけど、物騒な世の中なのは変わんないだろ? 人間に戻ったら何かあった時に香織を守れるかわからない」


 そんなのは人間でもマスカレイドでも大して変わりゃしないと思うがな。

 今回はたまたま異能強度6程度の相手だったから犠牲を出さずに勝てたが、異能強度7以上だったら結果は変わっていただろう。

 そもそも、もっと根本的な部分でこいつは勘違いをしている。


「そうやって色々考えてるうちにどうするべきなのかわからなくなって、踏ん切りがつかねーんだ」

「お前の悩みはわかった。それで、俺にどうして欲しいんだ? 背中でも押して欲しいのか?」

「いや、ただ他の人ならどう考えるのかを参考に聞きたくてさ。氷室ならどうする?」

「人間に戻る」


 うだうだと悩むまでもない。


「なんか、テキトーに言ってないか?」

「なんだ文句でもあんのか? 俺ならどうするかをちゃんと考えたぞ」

「じゃあ、理由は? どうして人間に戻るって、そんな簡単に決められるんだ?」

「マスカレイドの力じゃ平定者には届かないからだ」


 より正確に言うなら、届かない可能性が非常に高い。


「知ってるだろうが、俺の目的は平定者になること。それに対してマスカレイドは、終焉なんて大層な二つ名をつけたとっておきの秘密兵器ですら異能強度は6だった。キメラと融合しても、お前や俺たちで対処出来る程度の相手でしかなかった。発展性がないとは言わねーけど、天井はほぼ見えてる。だから俺なら、人間に戻って別の異能を手に入れる」


 樹霧のように別種類の異能を同時に複数持つ者もいなくはないが、それは非常に珍しい。

 冒険者とホルダーの関係性に比べれば多少事例があるだけマシだが、傾向として何らかの異能を保有しているホルダーが別種の異能に目覚めることはほぼない。

 だから俺が同じ立場だったなら、マスカレイドという異能を手放すために人間に戻る。


「……なんか、少しだけ羨ましいと思ったよ。氷室はブレないな」

「参考にならないってか? 一つだけお前の勘違いを正してやるよ、加賀美。一つ目はともかく、二つ目についちゃお前の頑張り次第でどうにでもなる」


 異能を持つ人間が珍しくなくなったからと言って、全ての人間がホルダーというわけではない。

 実際俺自身、つい最近まで何の異能も持たないただの人間ノーマルだった。

 しかしだからこそ、最も平定者に近いとされているホルダー、魔術師を目指すことが出来た。


「二つ目って、香織を守れなくなるって話?」

「そうだ。お前より強い奴なんざ今でも大勢いる。そんな何もかもから彼女を守りてーってんなら、その力マスカレイドを手放して、もっと強い力(魔術)を手に入れた方がより確実だろ?」

「ま、魔術? いや、でもあれってすげー難しいんだろ?」

「だからお前の頑張り次第だって言ってんだ。それに適性がなくて魔術が駄目でも異能なんざ他にいくらでもある。フレームを探しても良いし、聖剣に美徳を示したって良い。あるいは身体を鍛えてオーラの発現を目指しても、悪魔と契約しても良い。なんなら性転換して魔法少女を目指したって……、流石にそれは彼女が嫌がるか」


 自分の有様を思い出して思わずクツクツと笑ってしまう。


「とにかくだ、なまじ異能との付き合いが長いから自分の異能はマスカレイドだって思い込んでたんだろうが、不安があるなら気の済むまでリセマラすりゃ良いのさ」


 幸い加賀美にはダンジョン踏破の分け前によって金銭的余裕がある。多少学業を疎かにしようが就職しなかろうが、野垂れ死ぬ心配は無い。


「なんなら腕の良い先生を紹介してやるぜ?」


 留年ギリギリの俺をしっかり進級させた実績があるから折り紙つきだ。


「そういう考え方もあるんだな。サンキュー氷室、もうちょっと考えてみるわ。すげー参考になった」


 加賀美が軽く頭を下げ、踵を返して出口の方へ歩き始める。


 満足したなら良い。

 ……良いんだが、結局自分の答えは見つからないって顔をしていやがった。

 本当は人間に戻りたいんだろうが、罪悪感が邪魔をして決断出来ないってところか。馬鹿が一丁前に難しく考えやがって。




□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

☆君臨する支配

自分を中心とした一定範囲を支配する。

範囲内に存在する旗下の軍勢の能力を強化し、スキルの強制起動を可能にする。

【軍勢】


・樹霧緑

・古條うつり

・如月りり

・加賀美隼人

・ゼリービーンソルジャーズ

・シロップスライム

・エクレアドッグ

・マカロンセンチピード

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 ……別に加賀美は正式に俺の配下になったわけではなく、ここに名前があるのはキメラ戦で旗下に入った名残だろう。ダンジョン踏破後に消えていたのと同様に、放っておけばそのうち自然消滅するはずだ。

 だが少なくとも、意識しているのか無意識なのかは知らないが、今この瞬間は俺の下についていると認めているわけだ。つまりこいつも、今だけは俺の配下だ。


「いい加減仮面を外せよ、加賀美」


 去って行こうとする背中にそう呼びかけると、加賀美は振り返らずに足を止めた。


「だから、それはもうちょっと考えてみるって」

「そうじゃねえ。俺が言ってるのは、いつまで正義の味方ヒーローの仮面をつけてんだって話だ」

「……」


 こいつがいつから、どんな悲惨な目に遭って、どれだけの苦難を乗り越えて来たのかは俺にはわからない。

 ただ、不可視の鬩ぎ合いボーダーオブインビジブルを発動する前に言っていたことを考えれば、ガキ一人には重すぎるものを背負っているのは確かだ。

 血生臭い戦いの中で正気を保つためには、最後まで戦い抜くための気力を振り絞るためには、加賀美はヒーローでなければいけなかったのかもしれない。その仮面が必要だったのかもしれない。


 だがインポスターとの戦いは終わった。

 マスカレイド・ホワイトの役は終わったのだ。

 加賀美隼人は、仮面を外して日常に帰るべきだ。


「お前はヒーローなんかじゃない。お前は被害者の一人でしかない。助けられなかったことを責められる謂われはない」


 もしもお門違いの文句を言ってくるような、そんな筋の通らねえ奴がいるんなら俺が怒鳴りつけてやる。


「だから他人の罪まで背負おうとするな。加賀美、お前は悪くない」


 俺から言えるのはここまでだ。

 人間に戻るのか、それとも戻らないのか。決めるのは加賀美自身なのだから。


「……あぁ。ほんとにありがとな、氷室」


 振り返らずに返されたその声は、先ほどの礼と比べるとどこか震えているようにも感じられた。

彼女がいなかったら100%惚れてしまいますねこれは

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― 新着の感想 ―
セリフが何というか、誑しだな。
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